「マツバボタン」

基本情報
- 学名:Portulaca grandiflora
- 科名:スベリヒユ科(Portulacaceae)
- 原産地:南アメリカ(ブラジル、ウルグアイ、アルゼンチンなど)
- 分類:一年草
- 開花期:6月~9月(夏の間ずっと咲き続ける)
- 花色:赤、ピンク、オレンジ、黄色、白、複色など
- 草丈:10〜20cmほどの小型
- 別名:ヒデリソウ(日照り草)
マツバボタンについて

特徴
◎ 松葉のような細長い葉
マツバボタンの名前の由来は、松の葉のように細くて多肉質な葉の形状によるものです。乾燥に強く、水やりが少なくてもよく育つ点も魅力です。
◎ 日光が大好きな「ヒデリソウ」
別名の「ヒデリソウ」は、太陽の光を受けて初めて花を開く性質に由来します。曇りや雨の日には花が閉じてしまうほど、日差しが大切な植物です。
◎ カラフルで豊富な花色
花は直径3〜5cmほどで、重なり合う花びらが美しく、ビビッドで豊富な色彩が特徴です。八重咲きや一重咲きなど、園芸品種も多くあります。
花言葉:「可憐」

◎ 小さく控えめな美しさ
マツバボタンは、背丈も低く、花も小ぶりでありながらも、その色彩や形は非常に美しく、儚げで魅力的です。この「小さな体に宿る美しさ」が、「可憐」という花言葉につながっています。
◎ 強さと繊細さの共存
炎天下でも咲き続けるたくましさを持ちながら、花の姿はどこか繊細で愛らしい――そのアンバランスな魅力が、「可憐」という言葉にぴったりなのです。
「陽だまりのマツバボタン」

その夏、祖母の家の庭は、色とりどりのマツバボタンで埋め尽くされていた。
背丈の低いその花たちは、地面を這うように広がり、まるで小さな陽だまりが無数に散らばっているようだった。
「この花はね、朝の光がないと咲かないんだよ」
小学生の頃、祖母がそう教えてくれたのを思い出す。朝、カーテンを開けると、昨日まで緑だけだった土の上に、いきなり鮮やかな赤やピンクが顔を出していて、不思議でしょうがなかった。どうして昨日は咲いてなかったのに、今日はこんなにきれいなんだろう、と。

それから十数年の月日が流れた。祖母が亡くなってから、家は長く無人になっていたけれど、この春、私は思い切って都会の仕事を辞めて、戻ってきた。理由はうまく言葉にできない。ただ、あの庭をもう一度見たかった――それだけだった気がする。
六月の終わり。雑草を抜き、石をどけ、柔らかくなった土にマツバボタンの種を蒔いた。
朝早く水をやり、昼間は少しずつ部屋の片づけをした。誰にも急かされず、誰にも認められず、ただ植物と向き合う毎日。けれど、不思議と心は静かだった。

そして七月の半ば、最初の花が咲いた。
目をこらさなければ見落としてしまうほど小さな花。けれど、朝日に透けるように咲くその姿は、あまりにも美しかった。花びらの縁がほんの少し波打ち、中心へ向かって柔らかく色がにじむ――まるで何かをそっと語りかけるような、静かな輝きだった。
ふと、祖母の言葉が蘇る。
「小さくても、ちゃんと咲いてる。それだけで、えらいよね」
子どもの頃にはわからなかったその言葉が、今はまっすぐ胸に届く。
マツバボタンは可憐だった。ひたむきで、健気で、そして強い。雨の翌日は咲かず、曇りの日も静かに閉じている。けれど、晴れた朝には決して遅れず、変わらぬ美しさを見せてくれる。

そんな花を、私は今まで気づかないうちに見過ごしてきたのかもしれない。
誰かに評価されることばかり気にして、大きく咲くことばかりを目指していた。でも、見下ろせば足元にも、こんなに健気な命があったのだ。ちゃんと咲いている花が、こんなにもそばに。
夕方、花はそっとしぼみ始める。まるで「今日はこれでおしまい」とつぶやくように、静かに。
私はしゃがみこみ、咲き終わった花に向かって小さく声をかけた。
「今日も、きれいだったよ」
日が傾いてゆく。
明日もまた、あの小さな花たちは、変わらずに咲いてくれるだろう。
そのことが、今はただ、嬉しい。