「サンビタリア」

基本情報
- 分類:キク科 サンビタリア属
- 原産地:アメリカ南西部~メキシコ、グアテマラ
- 学名:Sanvitalia
- 英名:Creeping zinnia(クリーピングジニア)
- 草丈:10〜20cm程度
- 花期:初夏〜秋(5月~11月頃)
- 花色:黄色(中心部が濃いオレンジ〜茶色)
- 性質:一年草(暖地では多年草化することも)
- 用途:花壇の縁取り、ハンギング、グランドカバー
サンビタリアについて

特徴
- 這うように広がる性質
名前のとおり茎が地面を這うように伸び、カーペット状に黄色い花を咲かせます。
コンパクトながら繁殖力が強く、鉢植えや寄せ植えでもよく使われます。 - 太陽を好む小花
小さなヒマワリのような花をたくさんつけ、日当たりがよい場所で元気に開花します。
花は直径2〜3cmほどと小ぶりですが、明るい黄色がとても目を引きます。 - 乾燥に比較的強い
高温や乾燥にも耐えるため、夏場のガーデニングにも重宝されます。
一方で過湿は苦手で、水はけのよい土を好みます。
花言葉:「私を見つめて」

サンビタリアの花言葉のひとつに 「私を見つめて(Look at me)」 があります。
この由来は、次のような特徴と関係しています。
- 太陽に向かって咲く性質
サンビタリアは、日光の方向に花を向ける性質(向日性)を持っています。
その姿が、まるで「あなたを見つめている」ように見えることから、この花言葉が生まれました。 - 小さいのに強く目を引く存在感
一輪は小さくても、濃い黄色の花が群れ咲くことで、とても鮮やかに目立ちます。
その様子が「小さくてもちゃんと私を見てほしい」というメッセージに重なります。 - 花の中心の“瞳”のような模様
花の中央部が濃いオレンジ〜茶色で、遠くから見ると瞳のように見えるため、
「見つめる」「視線」というイメージと結びつきました。
「私を見つめて」

八月の午後、駅前のフラワーショップの前を通りかかったときだった。
籠にこんもりと盛られた黄色い小花が、まるで小さな太陽の群れのようにこちらを見上げていた。
札には「サンビタリア」と名前が書かれている。
聞いたことのない花だったが、その鮮やかさと、こちらを射抜くような花芯の濃い色に足が止まった。
「その花、向日性があるんですよ」
店員が笑顔で声をかけてきた。
「太陽の方に花を向けるんです。まるで誰かをじっと見つめているみたいで、花言葉は『私を見つめて』なんです」

私は、その言葉に妙に心を掴まれた。
誰かに見つめられたい――そんな感情を、最近の私は置き去りにしていたからだ。
仕事は忙しく、家に帰ればただ眠るだけ。鏡を見ることも減り、休日も外に出ることはほとんどなくなっていた。
いつの間にか、私の視線は下を向くことが習慣になっていた。
衝動のように、そのサンビタリアを一鉢買った。
窓辺に置くと、花は夕暮れまでじっと外を向き、やがて夜の気配に少しずつ首を垂れた。
翌朝、カーテンを開けると、昨日よりもまっすぐ太陽に向かって立ち上がっている。
小さいのに、迷いがない。
そんな姿に、思わず「おはよう」と声をかけてしまった。

数日後、出勤前に水をやりながら、ふと気づいた。
花は太陽だけでなく、私の動きにも合わせるように揺れている。
「見てほしい」とでも言うように、風もないのに微かに揺れた。
花芯の深いオレンジ色が、瞳のように私を見つめ返してくる。
胸の奥に、小さな熱が灯った。
それから私は、朝になると必ず花に声をかけるようになった。
「今日は暑くなりそうだね」
「ちゃんとお水あげるから」
たったそれだけなのに、部屋の空気が柔らかく変わっていった。
仕事帰りにも、花が待っていると思うと自然と足取りが軽くなる。

やがて、花は少しずつ数を減らし、葉先も色を変えていった。
季節が終わろうとしている。
最後の一輪が咲いた朝、私は窓辺に椅子を置き、その花と向き合った。
もうすぐ別れが来るのはわかっていた。
けれど、その小さな瞳は最後まで真っすぐに私を見ていた。
――見られていたのは、私だけじゃない。
私もまた、ずっとこの花を見つめていたのだ。
翌朝、花は静かに首を垂れていた。
寂しさはあったが、不思議と涙は出なかった。
代わりに、鏡の中の自分が少しだけ笑っていることに気づいた。
サンビタリアが教えてくれたのは、誰かに見つめられる温かさと、見つめ返す勇気だった。
窓辺に残った鉢に手を添え、私は小さくつぶやいた。
「ありがとう。ちゃんと見つめ返せたよ」