「ゼフィランサス」

基本情報
- 学名:Zephyranthes
- 科名:ヒガンバナ科(Amaryllidaceae)
- 原産地:アメリカ
- 和名:サフランモドキ、タマスダレ など
- 英名:Rain lily(レインリリー)、Fairy lily
- 開花期:5月下旬~10月(種類による)
- 草丈:20~30cm程度
- 特徴:雨が降った後などに一斉に花を咲かせることから「レインリリー」と呼ばれる。
ゼフィランサスについて

特徴
- 花の姿
花はクロッカスや小型のユリに似た形で、6枚の花弁を放射状に広げる。白・ピンク・黄色など、品種により色合いが異なる。 - 花の咲き方
晴れた日に開き、曇りや夜には閉じる。雨後に一斉に花茎を伸ばして咲く様子は、可憐で清楚な印象を与える。 - 葉
細長く芝生のような線形で、球根から叢生して伸びる。 - 丈夫さ
寒さには弱いが、繁殖力が強く、庭植えにすると群生しやすい。 - 別名「タマスダレ」
日本では白花のゼフィランサス・カンディダが広く普及し、線形の葉に白花が群れ咲く姿を「玉簾(たますだれ)」と呼んできた。
花言葉:「汚れなき愛」

由来
ゼフィランサスに与えられた花言葉はいくつかありますが、その中でも「汚れなき愛」は代表的です。
背景
- 清楚な白花のイメージ
特にタマスダレ(白花種)は、真っ白な花弁を持ちます。その純白さが「無垢」「純粋さ」を象徴し、愛の清らかさに重ねられた。 - 雨に洗われて咲く姿
雨上がりに花茎を伸ばして咲くことから、「雨で清められて生まれる花」と見なされた。大地を潤す雨とともに咲く姿が「汚れなき心」を連想させる。 - 儚さと一途さ
一輪一輪は数日で終わる短命の花ですが、次々と新しい花を咲かせる。その姿が「途切れない純粋な愛」を表しているとされた。
「汚れなき愛」

夏の夕立が過ぎ去ったあと、街路樹の根元に群れ咲く白い花が雨粒を抱いたまま揺れていた。ゼフィランサス――タマスダレ。通りがかる人々は気にも留めないが、志穂は足を止めずにはいられなかった。
「……今年も、咲いたんだ」
彼女にとってこの花は、ただの草花ではない。五年前の夏、病室の窓際に小さな鉢を置いてくれた人がいた。彼女の婚約者だった、悠人である。

当時、志穂は病に伏し、未来を失ったかのように塞ぎ込んでいた。そんな彼女の枕元に、悠人は小さな白い花を携えて現れた。
「ゼフィランサスっていうんだ。雨が降ったあと、一斉に咲くんだよ。清らかで、真っ直ぐで……志穂みたいな花だと思ったんだ」
不器用な言葉に、彼女は涙を零した。儚い花なのに、毎日次々と新しい花を咲かせる。その姿が、どんな状況でも彼女を励まし続けてくれた。

だが、その翌年。悠人は事故で突然この世を去った。志穂の隣に、彼が再び現れることはなかった。
それでも、鉢の中のゼフィランサスは、雨のたびに白い花を咲かせた。まるで悠人がそこにいて、「生きてほしい」と語りかけているようだった。
志穂は悲しみに押し潰されそうになりながらも、その花を枯らさぬように世話を続けた。花が咲くたびに、彼女は亡き人の声を胸に聞いた。

「大丈夫。僕はここにいる。君をずっと見守っている」
――雨上がりの街角。志穂は群れ咲く白花を見つめ、静かに微笑んだ。
「汚れなき愛」――花言葉を思い出すたびに、彼の不器用な優しさと真っ直ぐな眼差しがよみがえる。
たとえ姿が消えても、心に宿るものは消えない。短い命を繰り返し咲かせるゼフィランサスのように、彼の愛は途切れることなく志穂を支えているのだ。
夕陽が差し込み、花弁の雫がきらめく。志穂は深く息を吸い込み、歩き出した。
――この愛を胸に抱いて、今日も生きていこう。