「パンパスグラス」

基本情報
- 学名:Cortaderia selloana
- 科・属:イネ科 / シロガネヨシ属
- 原産地:南アメリカ、ニュージーランド、ニューギニア
- 開花時期:9〜10月
- 草丈:1.5〜3m前後(大きい品種は4m以上になることも)
- 別名:シロガネヨシ(白銀葦)
パンパスグラスについて

特徴
- 大型の多年草で、わさっと広がる大株に成長する。
- 秋にふわふわとした**穂(花穂)**を高く掲げる姿が非常に印象的。
- 花穂は白・クリーム色が一般的だが、ピンク系の園芸品種もある。
- 乾燥に強く、日当たりの良い場所を好む。
- 刈り取った穂はドライフラワーにも適し、インテリアに利用される。
- 葉は鋭く、触ると手を切りやすいため取り扱い注意。
花言葉:「風格」

由来
- パンパスグラスは、3m以上にもなる巨大な草姿と、空に向かって優雅に伸びる堂々とした穂が特徴。
→ その「威厳」「存在感のある佇まい」から「風格」を連想。 - グラス類の中でも特に圧倒的なスケール感を持つため、庭の中心やランドマークのような位置に植えられることが多く、「品格ある姿」と評価されてきた。
- 風に揺れる姿が、静かでありながら力強い雰囲気を醸し出すことも由来の一つ。
「風を受けて立つ場所」

山のふもとにある古い庭園で、ひときわ背の高い植物が風に揺れていた。パンパスグラス――白銀の穂を空へ向けて伸ばすその姿は、どこか凛としていて、庭全体の空気を引き締めているようだった。
庭の手入れを任された若い庭師・恵(めぐみ)は、その株の前に立ち、ゆっくりと息を吐いた。三メートルをゆうに超える背丈。見上げるほどの穂。言葉にできない存在感があった。
「……やっぱり、すごいな」
恵が呟くと、パンパスグラスは風を受けてふわりと揺れた。まるで応えるように、柔らかな穂が光を反射して煌めく。

この庭園を守ってきたのは、恵の祖父だった。厳しい人だったが、植物の前では驚くほど優しかった。恵が幼い頃、祖父はよくパンパスグラスの前で立ち止まり、誇らしげに語ってくれたものだ。
――庭にはな、必ず“支柱”になるものがいるんだよ。
――見守るようにそこに立ち、風にも負けず、ただ堂々としているものが。
その言葉の意味が、長い間恵にはわからなかった。
祖父が亡くなり、庭の世話を引き継いだとき、恵は不安で押し潰されそうになった。庭の中心に何を植えたらいいのか、どの木を残すべきなのか、判断に迷うことばかりだった。ふと気がつけば、いつもパンパスグラスの前に立っていた。

今日は、祖父の三回忌。朝から庭の手入れをしていると、遠くから親族が集まってくる声が聞こえた。恵は軍手を外し、最後にもう一度だけパンパスグラスを見上げた。
白い穂は、まるで空へ伸びる階段のようにまっすぐに立っている。強い風が吹いても倒れず、しなりながらも根を張り続けている。
その姿は、恵には祖父そのものに思えた。
――風格。
恵は小さくその言葉を口にした。最近調べた花言葉だ。巨大な草姿、圧倒的なスケール感、揺るぎない佇まい。そのすべてがこの花の品格を形づくっているという。
「おじいちゃん、これが“支柱”ってことなんだね」
庭の中心にあるパンパスグラスは、派手な花のように色で人を惹きつけるわけではない。けれど、そこで静かに揺れているだけで、庭がひとつのまとまりを持つ。視線を自然と導き、空間に軸を与えてくれる。
恵は穂にそっと手を伸ばした。指先で触れると、ふわりと柔らかく、思った以上に温かかった。
「私も、こんなふうに立っていけたらいいな」
風が吹き、パンパスグラスの穂が大きく揺れた。光が弧を描き、恵の頬に優しい影を落とす。まるで祖父が笑っているようだった。
遠くから、誰かが恵の名前を呼んだ。振り返ると、親族が集まり始めている。恵は頷き、パンパスグラスに背を向けて歩き出した。
その背中を、白銀の穂がしなやかに見送っていた。
風の中でも揺るがず、ただ凛とした姿を保ちながら。