12月2日の誕生花「シネラリア」

「シネラリア」

基本情報

  • 別名:サイネリア、フキザクラ(富貴桜)
  • 科名:キク科
  • 属名:ペリカリス属(旧セネシオ属)
  • 学名Pericallis × hybrida
  • 分類:多年草(園芸では一年草扱いが多い)
  • 原産地:カナリア諸島
  • 開花時期:11月〜5月(冬〜早春)
  • 花色:青・紫・ピンク・赤・白・複色など非常に多彩
  • 名前の由来:旧属名「Senecio(セネシオ)」がもとで「シネラリア」と呼ばれるようになった

シネラリアについて

特徴

  • 花びらの色がとても鮮やかで、中心の“目”のような部分がくっきりしている。
  • 冬から春にかけて咲くため、寒い季節の室内を明るく彩る花として人気が高い。
  • 一株にたくさんの花をつけ、満開時は花のクッションのように見える。
  • 冷涼な気候を好み、暑さには弱い。
  • カラーバリエーションが豊富で、花壇・鉢植え・贈り物など幅広く使われる。
  • 日光が好きだが、直射日光にはやや弱いため半日陰が適している。

花言葉:「いつも快活」

由来

  • シネラリアは冬から早春の寒い時期に、鮮烈な色で明るく咲く花
    → 冬の室内や庭を明るく照らす姿が、「元気」「快活さ」を連想させた。
  • 一株いっぱいに咲き広がる華やかな花姿が、
    “いつも明るい笑顔を絶やさない人”
    を思わせるため。
  • 色彩豊かでポジティブな印象が強いことから、
    **「いつも快活」「元気を出して」「喜び」**などの花言葉がつけられた。

「冬の色、君の声」

冬の朝は、窓ガラスの向こう側が少しだけ遠く感じられる。
 外気の冷たさが、まるで世界そのものを薄い氷の膜で覆ってしまったようで、触れれば壊れてしまうような静けさが漂っていた。

 そんな朝でも、凪沙(なぎさ)の部屋にはひとつだけ、季節に逆らう色がある。
 机の隅に置かれた鉢植えのシネラリア。紫や青、ピンクが重なり合い、まるで春が少しだけ迷い込んだかのように鮮やかだった。

 「……ほんと、強いなぁ。君は」

 凪沙はカーテンを開けながら、小さく呟いた。
 最近、彼女は笑うことが減っていた。理由は単純だ。
 大切な友人・瑛斗(えいと)が遠い町へ引っ越したからだ。

 瑛斗はいつも明るい人だった。
 どんなに落ち込んでいても、彼の前ではなぜか笑ってしまった。
 からかうように覗き込んでくる顔も、ふざけて肩を突いてくる仕草も、冬の朝を照らすような温度を持っていた。

 ――あんた、笑ったほうが似合うって。

 最後の日に瑛斗が言ったその言葉が、凪沙の胸の奥でまだ消えずにいる。

 その朝、凪沙はふと気づいた。
 シネラリアの花が、一段と鮮やかになっている。

 「……水、あげたっけ?」

 昨日の夜、帰宅してすぐ寝てしまった気がする。
 でも花は元気に咲き誇っている。
 凪沙は少し不思議な気持ちで葉を撫でた。

 その瞬間、ポケットの中でスマホが震えた。
 画面に表示された名前を見て、凪沙は息をのみ、小さく笑った。

 瑛斗からだった。

 ――『そっち雪降ってる? こっちはめっちゃ晴れてる。なんか悔しい』

 くだらない一文。
 でも、それだけで胸が少し軽くなる。

 ――『シネラリア、まだ咲いてる? あれ、絶対凪沙に似合うと思ったんだよな。冬でも元気で、なんか可愛いし』

 思わず頬が熱くなった。

 あの日、瑛斗が凪沙の誕生日にくれたのが、このシネラリアだ。
 「いつも快活」
 それが花言葉だと教えてくれた。

 「お前さ、落ち込んだら顔に出るタイプだろ。でもさ」
 「冬みたいな日でも、絶対また笑うと思うんだよ」

 その言葉を聞いたとき、凪沙は一度だけ泣きそうになった。
 でも瑛斗は見て見ぬふりをして、ただいつもの調子で花を渡してきた。

 凪沙はスマホを握りしめ、シネラリアに目を向けた。
 先ほどよりも、さらに鮮やかに見える。
 まるで「ほら、元気出せよ」と背中を押してくれているようだった。

 ――『今日、学校の帰りに少し話さない? 電話でもいいけど』

 瑛斗のメッセージが続けて届く。

 凪沙は笑ってしまった。
 彼は相変わらずだ。
 遠くにいても、冬でも、姿が見えなくても。

 その存在は、いつだって凪沙の心を温めてくれる。

 「……うん。話したいよ」

 そう打ち込み、送信ボタンを押した。

 窓の外では雪が静かに降り始めていた。
 白い世界の中で、シネラリアだけが春を先取りするように明るい。
 その色に照らされるように、凪沙の表情も少しだけほころんだ。

 瑛斗がいなくても、冬は寂しいだけの季節じゃない。
 鮮やかな色は思いがけず心を照らし、
 その色は、あの日もらった言葉と同じ温度で胸に触れる。

 ――冬に咲く花は、強いんだよ。

 瑛斗が言ったその言葉を思い出しながら、凪沙はそっとシネラリアの花に触れた。

 そして、静かに微笑んだ。

 「私も、もう少し頑張ってみるね」

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