「アルストロメリア」

基本情報
- 学名:Alstroemeria
- 和名:百合水仙(ユリズイセン)
- 英名:Peruvian lily(ペルーのユリ)
- 分類:ユリ科(※現在はアルストロメリア科とされることも多い)
- 原産地:南アメリカ(チリ、ペルー、ブラジルなど)
- 開花時期:春〜初夏(品種によっては長期間)
- 花色:ピンク、白、黄、紫、赤、オレンジなど多彩
- 用途:切り花、花束、アレンジメントに多く使用される
アルストロメリアについて

特徴
- 花弁に入る縞模様や斑点が、個性的で印象的
- 一輪ずつは可憐だが、房咲きになると華やかさが増す
- 茎が丈夫で、切り花でも日持ちが良い
- 花が次々と開くため、長く楽しめる
- 花とつぼみが混在する姿が、成長の過程を感じさせる
- ユリに似た姿ながら、より軽やかで親しみやすい印象
花言葉:「未来の憧れ」

由来
- つぼみから花へと順に開いていく様子が、未来へ向かって進む時間の流れを思わせるため
- 一本の茎に複数の花をつける姿が、これから広がっていく可能性を象徴していることから
- 明るく前向きな色合いが、希望や期待と結びついたため
- 南米原産で、遠い土地から渡ってきた花であることが「まだ見ぬ世界」への想いを連想させたため
- 可憐さと強さを併せ持つ性質が、理想の未来を思い描きながら進む人の姿に重ねられたため
「花がまだ知らない明日へ」

四月の終わり、午後の光が窓辺に傾くころ、私は久しぶりに花屋へ立ち寄った。特別な用事があったわけではない。ただ、仕事と家を往復するだけの日々の中で、ふと「何か」を確かめたくなったのだと思う。
店内は静かで、冷蔵ケースの低い音だけが響いている。色とりどりの花が並ぶ中、自然と足が止まったのは、アルストロメリアの前だった。
一輪、また一輪と、同じ茎から花が連なって咲いている。すでに開いている花の隣で、まだ固く閉じたつぼみが、次の順番を待っているように見えた。
——こんなふうに、時間は進んでいくのかもしれない。
私は無意識に、胸の奥でそうつぶやいていた。

学生のころ、未来はもっと単純で、一直線に続いているものだと思っていた。努力すれば報われ、選んだ道の先には、想像した通りの景色が広がっていると信じていた。
けれど実際には、進むたびに迷い、立ち止まり、時には引き返しながら、今日まで来ただけだった。
それでも、ここに立っている。
アルストロメリアの花弁には、繊細な縞模様が走っている。完全な均一さはなく、それぞれが少しずつ違う表情をしていた。それが、妙に人の人生に似ている気がした。
一本の茎に、複数の花。
それは、いくつもの可能性が、まだ同じ場所に息づいている姿だ。
私は思い出す。若いころ、ひとつの夢だけを強く握りしめていた自分を。その夢が叶わなかったとき、すべてを失ったような気がして、長い間、前を見ることができなかった。
けれど、今なら少し分かる。
可能性は、一度きりではなかったのだと。

花屋の奥から、春の光を思わせる明るい色合いのアルストロメリアが見えた。ピンク、黄色、白。どれも主張しすぎず、それでいて確かな存在感がある。
希望とは、きっとこういう色なのだろう。
眩しすぎず、でも確かに前を照らす色。
原産地は南米だと、札に書かれていた。遠い土地で生まれ、海を越え、この街の片隅で咲いている花。
まだ見ぬ世界。
かつては胸を高鳴らせた言葉が、今はどこか現実味を帯びて響いた。
知らない場所へ行くことだけが、未来ではない。
知らなかった自分に出会うことも、また未来なのだ。

アルストロメリアは、可憐だ。けれど、その茎は驚くほどしっかりしている。簡単には折れそうにない強さを、静かに内側へ秘めている。
理想の未来を思い描きながら、それでも足元を踏みしめて進む人の姿が、ふと重なった。
私は一本、アルストロメリアを選んだ。
すでに咲いている花と、これから開くつぼみが、同じ枝に並んでいるものを。
レジを済ませ、店を出ると、夕方の風が少し冷たかった。けれど、不思議と心は軽い。
家に帰り、花瓶に水を張り、アルストロメリアを活ける。つぼみはまだ小さく、明日咲くかどうかも分からない。
それでいいのだと思った。
未来は、すべて見えている必要はない。
今日という一日が、次の一日につながっていること。
その流れの中で、花は順番に開き、人もまた、少しずつ変わっていく。
窓の外は、薄暮の色に染まっている。
アルストロメリアは、その光を受けながら、静かにそこに立っていた。
まだ知らない明日へ向かって。
花も、私も。