3月7日の誕生花「ニリンソウ」

「ニリンソウ」

基本情報

  • 和名:ニリンソウ(二輪草)
  • 学名Anemone flaccida
  • 科名:キンポウゲ科
  • 属名:イチリンソウ属
  • 原産地:日本、中国、朝鮮半島
  • 開花時期:4月~5月(春)
  • 草丈:15~30cmほど
  • 生育環境:山地の林床、湿り気のある半日陰

ニリンソウについて

特徴

  • 一本の茎から二輪の花を咲かせることが多いことが名前の由来
  • 白い5枚前後の花弁のように見える萼(がく)を持つ可憐で清楚な花
  • 春の山林の地面を覆うように群生して咲くことが多い
  • 葉は深く切れ込みが入り、柔らかく繊細な印象を与える
  • 早春に咲き、木々が葉を広げる前のやわらかな光の中で花を開く


花言葉:「友情」

由来

  • 一本の茎から二輪並んで咲く姿が、寄り添う二人を思わせたため
  • 同じ方向を向いて咲く様子が、互いに支え合う関係を連想させたため
  • 野山で群れて咲く姿が、仲間とともに過ごす穏やかな時間と重ねられたため
  • 派手さはないが、春の林に静かな彩りを添える花として、温かい人間関係の象徴とされたため
  • 互いに離れすぎず、近すぎず並ぶ花姿が、自然体で続く友情の形を表していると考えられたため


「並んで咲く、ということ」

 春の山道は、まだ少しだけ冬の気配を残している。
空気は澄んでいるが、頬に触れる風にはやわらかな温度が混じり始めていた。

木々の枝には新しい芽が膨らみ、足元の土は湿り気を帯びている。枯れ葉の間から、少しずつ春の色が顔を出していた。

その日、由香は久しぶりにこの山道を歩いていた。

小学生の頃、よく通った道だ。学校帰りに友達と寄り道をしながら、名前も知らない草花を眺めたり、石を拾ったりしていた場所。

社会人になってからは、ほとんど来ることがなかった。忙しさに追われる日々の中で、この場所のことを思い出す余裕すらなかったのかもしれない。

けれど今日は、なぜかここへ来たくなった。

理由は、はっきりしているようで、はっきりしない。
ただ一つ確かなのは、誰かの顔が、心の奥に浮かんでいたことだった。

道の途中、少し開けた場所に出た。

そこは、小さな林の隙間で、やわらかな光が地面に落ちている。子どもの頃、よく立ち止まっていた場所だ。

由香はふと足を止めた。

白い花が、咲いていた。

地面のあちこちに、小さな白が散らばっている。近づいてよく見ると、それは一輪ではなかった。

一本の茎から、二つの花が咲いている。

ニリンソウだった。

二つの花は、並ぶようにして咲いている。
どちらが主役というわけでもなく、同じ高さで、同じ方向を向いている。

由香はしゃがみ込み、しばらくその花を眺めた。

思い出したのは、小学生の頃のことだった。

「見て、二つ咲いてる」

そう言って、花を指差したのは美咲だった。

放課後、ランドセルを背負ったままこの場所に来て、二人で花を探していた。

「なんで二つなんだろうね」

「友達だからじゃない?」

美咲はそう言って笑った。

子どもの言葉だったけれど、そのときの由香は、妙に納得したのを覚えている。

それから二人は、ニリンソウを見つけるたびに「友達の花」と呼ぶようになった。

中学に上がるころまでは、よく一緒に遊んでいた。

けれど、少しずつ生活は変わっていった。

部活が違い、通う高校も違った。連絡は取っていたものの、会う機会は次第に減っていった。

大人になれば、なおさらだった。

どちらかが遠くへ引っ越したわけでもない。仲が悪くなったわけでもない。

ただ、時間が過ぎただけだった。

それでも、完全に途切れたわけではない。

年に一度くらい、ふと思い出して連絡をする。短いメッセージを送り合うだけのことも多い。

それでも、不思議と気まずさはない。

由香は目の前のニリンソウを見つめた。

二つの花は、寄り添うように咲いている。

けれど、触れ合うほど近くはない。
離れてしまうほど遠くもない。

ちょうどいい距離だった。

春の林には、ニリンソウがたくさん咲いている。
あちらにも、こちらにも。

一つの茎に、二つの花。
同じ形で、同じように並んでいる。

けれど、どの花も少しずつ違っている。

大きさも、向きも、開き方も。

それでも、どれも自然に並んでいた。

無理に寄り添っているようには見えない。
けれど、確かに一緒に咲いている。

由香はふっと笑った。

友情とは、こういうものなのかもしれない。

ずっと隣にいなくてもいい。
毎日連絡を取り合わなくてもいい。

同じ場所にいなくても、同じ時間を過ごしていなくても。

それでも、どこかで同じ方向を向いている。

必要なときには、思い出せる。

そんな関係。

風が吹いた。

ニリンソウが、揺れる。

二つの花は、同じように揺れていた。

どちらかが引っ張るわけでもなく、どちらかが支えるわけでもない。

ただ、同じ風を受けている。

由香はポケットからスマートフォンを取り出した。

少し迷ってから、メッセージを打つ。

「久しぶり。今日、ニリンソウを見つけたよ」

送信ボタンを押すと、画面が静かに暗くなる。

返事がすぐ来るとは思っていない。
来なくても、きっとそれはそれでいい。

春の林は、静かだった。

鳥の声が遠くで響き、風が木々の間を抜けていく。

足元には、ニリンソウが咲いている。

二輪の花は、同じ方向を向いている。

寄り添いすぎず、離れすぎず。

自然な形で並びながら、春の光の中で静かに咲いていた。

友情とは、きっとこういうものなのだ。

特別な言葉がなくてもいい。
いつも一緒にいなくてもいい。

ただ、同じ季節のどこかで、同じ光を受けている。

それだけで、十分なのだと思える関係。

由香は立ち上がった。

もう少し歩いてみようと思った。

林の奥には、まだたくさんのニリンソウが咲いているはずだ。

春の光の下で、静かに並びながら。

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