「シュウカイドウ」

基本情報
- 和名:シュウカイドウ(秋海棠)
- 学名:Begonia grandis
- 英名:Hardy begonia
- 分類:シュウカイドウ科(ベゴニア科)・シュウカイドウ属
- 原産地:中国南部
- 開花期:7月下旬~10月中旬(夏の終わりから秋にかけて)
- 生育環境:半日陰を好み、湿り気のある場所でよく育つ多年草。
シュウカイドウについて

特徴
- 江戸時代初期に中国から渡来し、観賞用として広まった歴史を持つ。
- 草丈は30〜60cm程度。ハート形の葉を持ち、裏は赤みを帯びる。
- 花は淡い紅色で、下垂するように咲く姿が特徴的。
- 花弁のように見えるのは萼片で、雄花と雌花が同じ株に咲く。
- 見た目は儚げでありながら、球根やむかごで増え、冬を越してまた芽吹く強さを持っている。
花言葉:「片思い」

由来
- 左右非対称の葉
シュウカイドウの葉は左右対称ではなく、必ず片側が大きく、もう一方が小さい。
→ そのアンバランスな姿が「一方だけが大きい=一方通行の思い」を連想させた。 - うつむいて咲く花姿
鮮やかな色を持ちながら、花は下を向いて控えめに咲く。
→ 「想いを伝えられず胸に秘めている」姿になぞらえられた。
このように、シュウカイドウの「形の片寄り」と「うつむく控えめな花姿」が組み合わさり、花言葉「片思い」が生まれたといわれています。
秋海棠 ―片思いの庭―

古い寺の裏庭に、ひっそりとした小径がある。夏の終わりから秋にかけて、そこには淡い紅色の花が揺れていた。シュウカイドウ――秋海棠。参拝客の目に触れることは少ないが、私は毎年欠かさずその小径を訪れていた。
きっかけは二年前。私は絵を描くための題材を探して寺を歩いていた。蝉時雨の中で、ふと視界に飛び込んできたのは、うつむくように咲く可憐な花。葉は左右に広がっていたが、よく見ると形が微妙に片寄っていた。私は不思議に思い、傍らにいた年配の僧に尋ねた。
彼は微笑んで答えた。
「この花には『片思い』という花言葉があるのです」

そう言って、静かに由来を語ってくれた。
左右非対称の葉
シュウカイドウの葉は左右対称ではなく、必ず片側が大きく、もう一方が小さい。
→ そのアンバランスな姿が「一方だけが大きい=一方通行の思い」を連想させた。
うつむいて咲く花姿
鮮やかな色を持ちながら、花は下を向いて控えめに咲く。
→ 「想いを伝えられず胸に秘めている」姿になぞらえられた。
このように、シュウカイドウの「形の片寄り」と「うつむく控えめな花姿」が組み合わさり、花言葉「片思い」が生まれたといわれています。
その説明を聞いたとき、胸の奥に小さな痛みが走った。なぜなら、私自身がまさに片思いの只中にいたからだ。

相手は大学の同級生、詩織。明るくて、誰とでも自然に会話できる彼女に、私はずっと惹かれていた。しかし言葉にする勇気が持てないまま、季節だけが過ぎていった。隣で笑ってくれる時間が愛おしすぎて、壊してしまうのが怖かったのだ。
以来、私はこの花を見に来るたびに、詩織の笑顔を思い出した。左右非対称の葉を指でなぞると、自分の心もまたどちらかに傾きすぎていることを突きつけられる。花がうつむく姿は、告げられぬ気持ちを抱えた自分のようでもあった。
秋が深まる頃、私は決意した。シュウカイドウの花が枯れてしまう前に、気持ちを伝えよう。花が自ら咲くことをやめないように、私も想いを閉じ込めたままではいられない。
その日、夕暮れのキャンパスで詩織を呼び止めた。言葉は震えていたが、なんとか告げた。彼女は少し驚いた顔をしたあと、やさしく微笑んだ。

「……ありがとう。でも、ごめんね」
その瞬間、心に冷たい風が吹き抜けた。けれども不思議なことに、涙は出なかった。むしろ胸の奥に、静かな温かさが残った。伝えられたこと自体が、私にとっては救いだったのだ。
あれから一年。再び寺の裏庭に来ると、シュウカイドウは変わらず咲いていた。花はやはりうつむき、葉は左右に傾いている。けれども私の目に映るその姿は、以前よりも誇らしげだった。片思いは報われなかったが、想いを伝えたことによって、私は少しだけ強くなれたのだ。
風に揺れる花に、私はそっと呟いた。
「ありがとう。来年も、また会おう」