「黄色いキンセンカ」

基本情報
- 和名:キンセンカ(金盞花)
- 別名:カレンデュラ
- 学名:Calendula
- 科名/属名:キク科/キンセンカ属
- 原産地:地中海沿岸
- 開花時期:12月〜5月(主に冬〜春)
- 花色:黄色(オレンジがかることも多い)
- 草丈:30〜60cm
- 分類:一年草
- 用途:花壇、鉢植え、切り花、ハーブ(薬用・化粧品原料)
黄色いキンセンカについて

特徴
- 太陽を思わせる明るい花色
鮮やかな黄色の花は、冬から春の庭を明るく照らす存在。 - 花弁が放射状に整う可憐な姿
ひとつひとつの花弁が規則正しく並び、素直で若々しい印象を与える。 - 寒さに比較的強く育てやすい
丈夫で手入れが簡単なため、初心者にも向く。 - 昼に開き、夜に閉じる性質
日の動きに合わせて花を開閉する様子が、繊細で健気な印象を与える。 - 薬用・ハーブとしての歴史
古くから肌のケアや民間薬として利用され、人の暮らしに寄り添ってきた。
花言葉:「乙女の姿」

由来
- 初々しく可憐な花姿から
大輪ながらも派手すぎず、柔らかく咲く姿が、若い乙女の慎ましさや清らかさを連想させた。 - 朝に開き、夜に閉じる慎み深さ
人目を避けるように花を閉じる性質が、控えめで奥ゆかしい乙女の所作になぞらえられた。 - 太陽に向かって咲く一途さ
光を追い求めるように咲く姿が、純粋な心とまっすぐな感情の象徴とされた。 - 黄色が持つ若さと希望の象徴性
黄色は明るさや希望、若さを表す色とされ、乙女の瑞々しい感性と重ねられた。
「光に名前を呼ばれて」

春の入り口に近い朝だった。
澄んだ空気の中で、庭先の黄色がひときわやわらかく揺れていた。キンセンカの花は、夜のあいだ閉じていた花弁を、日の気配を感じ取るように少しずつ開いていく。まるで、目覚めを確かめるような慎重さだった。
紗季は縁側に腰を下ろし、その様子を黙って眺めていた。大学を卒業して一年、就職した会社にも少しずつ慣れてきたが、心の奥にはまだ不安が残っている。大人になるとは、もっと強く、迷いのないものだと思っていた。しかし実際の自分は、言葉を選びすぎて沈黙し、踏み出す前に立ち止まってしまうことが多かった。

祖母はよく言っていた。
「焦らなくていい。花だって、咲く時間はそれぞれ違うんだから」
祖母が植えたこのキンセンカも、まさにそんな花だった。大きな花を咲かせながら、どこか控えめで、陽に向かってまっすぐ立つくせに、夜になるとそっと花を閉じてしまう。誇示することも、媚びることもない。
紗季は社会に出てから、「もっと前に出なさい」「遠慮しすぎだ」と何度も言われてきた。そのたびに、自分は足りないのだと思い込んできた。慎ましさは弱さで、迷いは未熟さなのだと。
だが、朝の光を浴びるキンセンカを見ていると、違う考えが胸に浮かぶ。
この花は、無理に開こうとはしない。夜の間は静かに閉じ、朝になれば自然に開く。光があれば咲き、なければ待つ。ただそれだけなのに、誰の目にも明るく、希望に満ちて見える。

黄色は、若さの色だ。
同時に、これから向かう未来を信じる色でもある。
紗季はふと、職場で任された新しい仕事のことを思い出した。責任は重いが、断る理由もなかった。それでも不安ばかりが先に立ち、引き受ける返事を先延ばしにしていた。
「一途、か……」
キンセンカは、太陽の動きに合わせて首を向ける。自分の進む先を疑わないかのように、ただ光のある方へ。迷いがないのではない。光を信じているのだ。
紗季は立ち上がり、スマートフォンを手に取った。そして短い返事を送る。「やらせてください」と。それだけの言葉なのに、指先は少し震えた。

昼前、キンセンカは完全に花を開いていた。
大輪だが、決して派手ではない。やわらかな黄色が、風に揺れている。誰かに見せるためではなく、ただそこに在るために咲いているようだった。
乙女の姿とは、弱さではないのかもしれない。
慎ましさとは、隠れることではなく、自分の時間を知っていること。
一途さとは、急ぐことではなく、信じて進むこと。
夕方になると、キンセンカはまた花を閉じ始めた。
今日一日、光を受け取ったから、もう十分だと言うように。
紗季はその様子を見届け、胸の奥でそっとつぶやいた。
――私も、私のままでいい。
若さは、未完成であることを恐れないことだ。
希望は、今日できなかったことを、明日に託せることだ。
庭の黄色は、静かに夜を迎えながらも、確かな光を内に残していた。
明日また朝が来れば、何事もなかったように、まっすぐ咲くだろう。
その姿は、紛れもなく、乙女のまなざしそのものだった。