「ベニバナ」

基本情報
- 学名:Carthamus tinctorius
- 英名:Safflower
- 和名:ベニバナ(紅花)
- 科名:キク科
- 原産地:エジプトなどの中東地域
- 草丈:30~150cm
- 開花時期:6月~7月
- 用途:染料(紅・黄)、食用油、漢方薬、美容・健康食品など
ベニバナについて

特徴
- 花は黄色から橙色、時間が経つと紅色に変化します。
- 花弁からは紅色と黄色の染料が抽出されます。とくに紅色は「口紅」などにも使われた歴史があります(例:山形の紅花)。
- ベニバナ油(サフラワー油)は種子から採取され、健康油として人気です。
- 乾燥地でも育つ強い植物で、日本では主に山形県が有名な産地です。
花言葉:「包容力」

ベニバナの花言葉にはいくつかありますが、その中でも「包容力」は次のような由来があります:
● 色の変化と用途の広さ
- ベニバナの花は開花とともに黄色から赤色へと変化し、その過程で複数の用途(染料・薬・油)に利用されます。
- 一つの植物が多様な役割を持ち、人々の生活を支える存在であることが、「広く受け入れる・支える=包容力」と重ねられています。
● 厳しい環境でも育つたくましさ
- ベニバナは乾燥や痩せた土地でも育つ強靭さを持ちます。これは「困難な状況でも耐え、他者を受け入れる力」に通じるとされます。
● 古来より女性の美と健康を支えてきた存在
- 紅花は古来より女性の美容(紅=口紅)や健康(漢方)を支えてきました。この「支える・守る・包む」役割が、精神的な「包容力」に例えられています。
「紅に包まれて」

高原の小さな村。夏の初め、風に揺れる紅い花が一面を染める季節になると、人々は決まってこう言った。
「今年も、紅花が咲いたね。あの人を思い出す季節だよ」
その「人」とは、村のはずれに住んでいた老婆・ミネのことだ。
ミネが村に戻ってきたのは、戦後間もない頃だった。若い頃は東京の呉服屋に奉公に出ていたらしいが、空襲ですべてを失い、身ひとつでこの村へ帰ってきた。両親もすでに亡く、荒れ果てた家の柱を自分の手で立て直し、畑を耕し始めた。
畑の隅に最初に蒔いたのが――紅花だった。

「紅花は、痩せた土でも咲くんだよ。何もなくなっても、これさえ咲けば大丈夫」
ミネの言葉を、当時子どもだった私たちは覚えている。
春、まだ雪が残る頃に細い芽を出し、夏には茎を伸ばし、黄色い花を咲かせる。それがやがて、陽を浴びるごとに赤みを帯びていく。その様子が、まるで少女が大人の女性へと成長していくようだと、ミネは笑っていた。
村の誰かが病を患えば、ミネは乾かした紅花を煎じて届けた。顔色の悪い女性には紅花で染めた紅を一刷け。「お化粧は心の薬でもあるんだよ」と、そう言ってにこりと笑った。
紅花は染料にもなり、薬にもなり、油にもなる。

「何にでもなれる花さ。人の役に立てるって、すごいことだよ」
そう言って、自分の分よりも人に分け与えることを選んだミネは、まるでその紅花そのもののようだった。
ある年、ひどい干ばつが村を襲った。稲は実らず、野菜も萎れた。それでもミネの畑の紅花だけは、しっかりと根を張り、見事な紅を咲かせた。
「紅花はね、乾いた土を恐れない。むしろ、そういう土地でこそ強くなるんだ」
その言葉を、私は今も忘れない。
ミネが亡くなったのは、90を過ぎたある年の夏だった。畑に咲いた紅花を最後に見届けるように、静かに息を引き取った。

それからというもの、村の有志が紅花畑を守り続けている。誰もがその花に、ミネの姿を見出しているのだ。
広く、赤く、あたたかく咲く花。その一本一本が、ミネの「包容力」を語っているようだった。
私の娘が思春期を迎え、不安定な心を抱えるようになった時、私はこっそり紅花で染めた小さな紅を、彼女の机に置いた。
「紅花はね、どんなに痩せた心にも、必ず咲くのよ」
ミネが私に教えてくれたように、今度は私が誰かにその力を手渡していく。
紅花の色は、時間とともに深くなる。
包むように、染めるように、誰かの心をあたためながら。