11月18日の誕生花「ヒメジョオン」

「ヒメジョオン」

基本情報

  • 科属:キク科エリゲロン属
  • 学名Erigeron annuus
  • 英名:Annual fleabane
  • 原産地:北アメリカ
  • 日本への到来:明治時代に帰化植物として定着
  • 開花時期:5〜10月
  • 花色:白(時に淡い紫)
  • 草丈:40〜150cmほど
  • 生育環境:道端、空き地、畑の縁など、日当たりのよい場所でよく見られる野草

ヒメジョオンについて

特徴

  • 細い白い花びら(舌状花)が多数並ぶ、繊細な見た目の花。
  • 咲き進むと花びらが反り返り、開花の様子が段階的に変化して見える。
  • とても繁殖力が強く、種子を大量に飛ばして広がる。
  • ハルジオン(春紫菀)によく似ているが、茎が中空でなく、葉が基部で茎を抱かない点で区別される。
  • やや雑草扱いされることもあるが、近くで見ると可憐な野の花らしい美しさがある。

花言葉:「素朴で清楚」

由来

  • **道端や空き地といった身近な場所に静かに咲く「控えめな存在感」**が、「素朴さ」を感じさせるため。
  • 細く繊細な白い花びらが、派手さのない清らかで可憐な印象を与えることから「清楚」が連想される。
  • 園芸種のような派手さはないけれど、よく見れば可憐で、清潔感のある花姿が評価され、この花言葉がついた。

「白い息の向こうに咲くもの」

夏のはじめ、古い商店街の裏手にある細い路地を、詩織は毎日のように通っていた。家から駅へ向かう近道というだけの道だが、いつの頃からか、この場所には特別な意味が宿っていた。
 アスファルトの割れ目から、白く細かな花びらを揺らす花がひとつ。ヒメジョオン。誰にも気づかれないような場所で、まるで呼吸をするように静かに咲いている。
 その花に気づいたのは、春の終わり、大学の試験がうまくいかず、気持ちが沈んでいた日のことだった。歩道に落ちた影が揺れて、ふと視線を下げたとき、そこに小さな白があった。
 ――あ、咲いてる。

 誰にも踏まれず、折れもせず、ただまっすぐに伸びて、白い花を空へ向けていた。
 その清らかさが胸の奥にすっと染み込んで、詩織は足を止めた。
 以来、花は毎朝のよりどころになった。
 派手でもないし、特別な香りがするわけでもない。でも、そのささやかな存在が、詩織の心を少しずつ軽くしていった。
 ある午後、大学の帰り道。
 夕焼けが路地を朱色に染めるなか、花のそばでしゃがみ込んでいる少年の姿が目に入った。小学生くらいの、丸い背中の少年だった。
 「……お花、好きなの?」

 思わず声をかけると、少年はびくりと肩を揺らし、振り返った。
 大きな瞳で花を見つめている。
 「これ、誰も気づかないのに、ずっと咲いてるんだよ」
 「うん。強いよね、ヒメジョオン」
 少年は小さく首を振った。
 「なんか、強いっていうより……がんばってるだけって感じ。静かで、きれいで、でもがんばってるのがわかる」
 詩織は息を飲んだ。
 ──がんばってるだけ。
 それは、まるで自分に向けられた言葉のようだった。
 「僕ね、学校行くのがちょっと苦手で……でも、この花見ると、あしたも来ようって思えるんだ」
 「……そっか」
 ヒメジョオンの花びらが、夕風にふるえていた。
 白くて細くて、折れやすいように見えるのに、どこか清らかに光っている。
 その姿に「素朴で清楚」という花言葉があると知ったのは、つい最近だった。
 素朴さは、飾らない強さ。
 清楚さは、静かに咲く美しさ。
 誰にも気づかれない場所でも、ただまっすぐに咲こうとする花の姿が、この花言葉の理由になったのだと、ようやく理解できた。
 しばらく二人で黙って花を眺めた。

 やがて少年が立ち上がり、鞄を背負いなおす。
 「じゃあ、またあした見るね」
 その言葉に、詩織も思わず笑った。
 「うん。またあした」
 少年が去ったあと、路地はふたたび静寂に戻った。
 けれど、詩織の胸の奥には小さな灯りがともっていた。
 ヒメジョオンは今日も、控えめに、でも確かに咲いている。
 その姿は、誰かの小さな勇気になっている。
 そしてきっと、自分の明日にもそっと寄り添ってくれる。
 詩織は花に向かって小さくつぶやいた。
 「……ありがとう。あなたのおかげで、わたしも、少しだけ咲けそう」
 白い花びらがふるえ、まるで返事をするように光を受けて揺れた。
 路地の奥に伸びる影は、明日への道と同じくらい細くて頼りない。
 でも、たったひとつの小さな花があれば、きっと歩いていける。
 詩織は深く息を吸い、空を見上げた。
 にじむ夕日の向こうで、風がやさしく頬を撫でた。

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