12月13日の誕生花「ヤツデ」

「ヤツデ」

基本情報

  • 学名:Fatsia japonica
  • 科名:ウコギ科
  • 原産:日本(本州・四国・九州)、韓国南部
  • 樹形:常緑低木
  • 開花期:11〜12月
  • 別名:天狗の羽団扇(てんぐのはうちわ)
  • 生育環境:日陰に強く、庭木・和風庭園でよく用いられる

ヤツデについて

特徴

  • 大きな手のひらのような葉(通常7~9裂)が特徴的。
  • 葉が厚く丈夫で、耐陰性・耐寒性があり、管理しやすい。
  • 晩秋から冬に白いボール状の小花を咲かせる。
  • 花後には黒い実ができ、鳥が好む。
  • 病害虫にも比較的強く、ビギナー向きの庭木。

花言葉:「親しみ」

由来

  • 大きく広がる掌状の葉 → 「手を広げて迎えてくれる姿」に見立てられた。
  • 和の庭に昔から植えられ、民家でも身近な植物として親しまれてきた。
  • 日陰の場所でも元気に育ち、そっと寄り添うように存在してくれる性質が “親しみやすさ” を連想させた。
  • 冬の寒い時期にも花を咲かせ、そばにあるだけで安心感を与えることから。

「掌をひらく庭木」― ヤツデが教えてくれたこと

家の裏に、昔から一本のヤツデがある。
 祖母が植えたものだと聞いたのは、十歳の冬だった。

 「この子はね、日陰でも元気にしてるんよ。誰かを迎えるみたいに、いつも手を広げてくれるから」

 祖母はそう言って、掌状の大きな葉をそっと撫でた。
 冷たい風が吹くたび、葉がぱたぱたと揺れて、まるで私に手を振ってくれているように思えた。

 あれから十数年。
 祖母が亡くなり、家も私も少しずつ変わっていった。
 けれど、裏庭のヤツデだけは変わらず、濃い緑の葉を広げてそこに立ち続けていた。

 仕事に疲れて帰ってきた夜、私はふと裏庭の灯りを点けてみた。
 冷え切った冬の空気の中、白い小さな花の房がぽつりと浮かび上がる。
 ヤツデはいつもより大きく見えた。
 その姿に、思わず声が漏れる。

 「……おばあちゃん」

 返事があるはずもない。
 けれど、風がそっと葉を揺らした。まるで “おかえり” と言われたように感じて、胸の奥がじんと温かくなる。

 翌日、祖母の写真を整理していたとき、古い日記を見つけた。
 庭の落書きのような図とともに、ヤツデについて書いた短い一文があった。

 ――誰かが帰る場所には、迎える手がいる。
    この子は、それをずっとしてくれている。

 読み終えた瞬間、涙が一粒だけ落ちた。
 祖母の言葉は、まるで時間を越えてそっと肩に触れたようだった。

 思えば私は、祖母がいなくなってからというもの、家に帰ることさえどこかためらっていた。
 仕事も人間関係も、うまく笑えない日が続いていた。
 “帰っても誰も迎えてくれない” ――そんな寂しさを、心のどこかで抱いていたのだと思う。

 でも、裏庭にはずっとヤツデがいた。
 日陰でもひっそりと葉を伸ばし、寒い冬でも花を咲かせ、ただそこに居続けてくれた。
 祖母が言った「そっと寄り添うような木」という言葉の意味を、今になってようやく理解する。

 その夜、私は久しぶりに裏庭に出た。
 ヤツデの大きな葉に手を伸ばす。冷たいけれど、しっかりとした手触り。
 ゆっくりと指先が落ち着いていく。

 「ただいま。……帰ってきたよ」

 風がまた、葉を揺らした。
 ひらひらと広がった緑の掌が、まるで私を包み込むように見えた。

 ああ、これが “親しみ” なんだ――そう思う。
 血のつながりや言葉だけではなく、長い時間の中で静かに育まれるもの。
 祖母が植えた一本の木が、私の心の帰り道をずっと守ってくれていたのだ。

 家の静けさの中で、ヤツデの葉音だけが優しく響く。
 それは、失われたぬくもりをそっとつなぎ止めるような音だった。

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