「ジンジャー」

基本情報
- 和名:ハナシュクシャ(花縮砂)
- 英名:Ginger lily(ジンジャー・リリー)
- 学名:Hedychium coronarium
- 分類:ショウガ科ハナシュクシャ属
- 原産地:インドやヒマラヤ地域、東南アジア
- 開花時期:9月~10月(初夏~秋)
- 花色:白、黄、オレンジ、ピンクなど
- 香り:強い甘い香り(芳香性)
ジンジャーについて

特徴
- 熱帯・亜熱帯性の多年草で、温暖な地域では地植えでも育つ
- 背が高く(1〜2m)、直立した茎に大きな葉をつける
- 花は穂状に咲き、ランのような華やかさと甘い香りをもつ
- 観賞用として人気が高く、切り花やフラワーアレンジメントにも利用される
- 観賞用のジンジャーはショウガ(食用)の近縁だが、食用部分はあまり使われない
- 湿気と日当たりを好み、半日陰でも育つ
- 英名の「ジンジャー・リリー」は、香りと外見がショウガとユリを連想させることに由来する
花言葉:「慕われる愛」

ジンジャーの花言葉の一つに「慕われる愛(Adored love / Admired love)」があります。
この言葉の由来には以下のような点が関係しています。
● 優雅な佇まいと強い香り
ジンジャーの花は大きくて華やか、そして濃厚で甘い香りを放つことから、見る者やそばにいる人の心を引きつける存在。
その優美さと芳香が「人々に慕われる存在」や「思慕の念を集める愛」と重なり、愛される・慕われるイメージが結びついたと考えられます。
● 咲く時期と持続性
夏から秋にかけて長く咲き続け、香りも持続することから、深く続く愛情の象徴とされたとも言われています。
「ジンジャーの香りが残る午後」

古い写真立ての中で、母は微笑んでいる。
白いシャツに、風に揺れるような長いスカート。そして手には、一本のジンジャーの花。
「ねえ、これって、いい香りがするの?」
高校生の私は、その写真を見ながら何気なく祖母に尋ねた。
「ああ、それはね。甘くて、どこか懐かしい香りがするんだよ。あの子のようにね」
祖母は、写真に写る母を「この子」と呼ぶ。まるでまだ隣にいるかのように。

母は、私が五歳のときに病気で亡くなった。
だから私には、母の記憶がほとんどない。けれど、家のあちこちには母の痕跡が残っていて、とくにこの庭に咲く白いジンジャーの花が、何よりの手がかりだった。
ジンジャーの咲く季節になると、祖母はいつもその手入れを欠かさなかった。
「慕われる愛っていうんだよ、この花の花言葉。あなたのお母さんにぴったりだった」
——慕われる愛。
その意味が、当時の私にはよくわからなかった。
けれど、大学生になって久しぶりにこの家へ帰省したある日、ジンジャーの香りに包まれながら祖母が語ってくれた話で、少しだけ理解できた気がする。

母は、誰にでも分けへだてなく接する人だったという。
明るくて、真っ直ぐで、でもどこか儚げなところもあったらしい。
「花みたいな子だったよ。目立とうとしないのに、つい目がいっちゃう。そんな子」
母は庭で植物を育てるのが好きで、ジンジャーを植えたのも彼女だった。
「この花、すごくいい香りがするの。私、この香り、誰かに届いてほしいなって思うの」
その「誰か」が誰だったのか、祖母は何も言わなかった。
けれど、香りが風にのって届いていくように、母の存在もきっと誰かの中に残っていたのだろう。
実際、母の葬儀のときには、たくさんの人が泣いていたらしい。
会社の同僚、学生時代の友人、ご近所の人……。それだけ愛されていたということだ。

その夜、私はひとりで庭に出て、ジンジャーの花の前にしゃがみこんだ。
ふと、風が吹いた。
甘くて、すこし熱を帯びたような、でもどこか懐かしい匂いが鼻をかすめた。
私は、そっと目を閉じた。
——きっと、誰かを心から想う気持ちは、こうして香りのように残っていくのだ。
それがすぐそばにいても、遠く離れていても、時間がたっても。
だから「慕われる愛」というのは、ただ与えられるものじゃなくて、生き方の中ににじみ出るものなのかもしれない。
次の日、私は庭に新しいジンジャーを一株植えた。
隣には、古い木の名札を添えて。
「For Mom ——慕われる愛の記憶」
香りは、記憶を運ぶ。
風に揺れるたび、誰かの心をそっと撫でるように。
ジンジャーの香りが残る午後、その意味を私は少しだけ理解した気がした。