「クリスマスホーリー」

基本情報
- 和名:セイヨウヒイラギ(西洋柊)
- 英名:クリスマスホーリー(Christmas Holly)
- 学名:Ilex aquifolium
- 科名:モチノキ科
- 原産地:ヨーロッパ、西アジア、北アフリカ
- 開花時期:4〜5月(花は目立たない)
- 実がなる時期:秋〜冬
- 常緑樹:一年中、緑の葉を保つ
- 雌雄異株:実をつけるには雄株と雌株が必要
クリスマスホーリーについて

特徴
- 光沢のある濃緑の葉と、鮮やかな赤い実のコントラスト
┗ 冬の景色の中で特に映える。 - 葉の縁に鋭いトゲがある
┗ ヒイラギに似た形で、魔除け・守護の象徴とされた。 - 冬でも色あせない常緑性
┗ 厳しい寒さの中でも命を保ち続ける強さを持つ。 - クリスマス装飾の定番植物
┗ リースやガーランドに使われ、宗教的・象徴的意味が深い。 - 実は観賞用で食用不可
┗ 毒性があり、人は食べられない。
花言葉:「神を信じます」

由来
- キリスト教文化と深く結びついている植物であることから。
- 赤い実はキリストの流した血、
とげのある葉は茨の冠を象徴するとされる。 - 冬の厳しさの中でも枯れず、実を結ぶ姿が、
揺るがぬ信仰心・神への信頼を連想させた。 - クリスマスに教会や家庭を飾る植物として使われ、
信仰を告白する象徴的存在となったことが由来。
「冬に残る祈り」

その教会は、町外れの小さな丘の上にあった。
石造りの壁は冬の空気に冷えきり、尖塔の先には白い雲がゆっくりと流れている。
エマはコートの襟を立て、重たい木の扉を押した。
きい、と低い音がして、内部の静けさが迎え入れる。
礼拝堂には誰もいなかった。
祭壇の前には、まだ灯りの入っていないキャンドルが並び、その脇に、深い緑の葉と赤い実をつけた枝が飾られている。
――クリスマスホーリー。
祖母がよく口にしていた名前だった。

エマはその枝に近づき、そっと目を細める。
光沢のある葉は、指で触れれば痛みを覚えるほど鋭い。
その間に点る赤い実は、静かな炎のようにも見えた。
「赤い実は、キリストの血。
葉のとげは、茨の冠なのよ」
幼いころ、祖母は暖炉の前でそう教えてくれた。
エマは当時、なぜそんな痛ましい話をクリスマスにするのか、不思議でならなかった。
「苦しみの中でも、信じることをやめなかったから、今もこうして語られているの」
祖母は穏やかに微笑みながら、ホーリーの枝をリースに編み込んでいた。
その指は年老いていたが、動きは確かで、迷いがなかった。
――信じるって、どういうことだろう。
エマはその答えを、ずっと見つけられずにいた。

大切な人を失った冬から、祈りは言葉だけのものになった。
神がいるなら、なぜこんなに簡単に命は奪われるのか。
信仰は、弱い心を慰めるための幻想ではないのか。
それでも今日、エマはここへ来た。
祖母の形見のホーリーの枝を、教会に届けるためだった。
祭壇の前に立ち、枝をそっと置く。
赤い実が、白い布の上でひときわ鮮やかに映えた。
ふと、ステンドグラスから差し込む冬の日差しが、葉の縁を照らす。
とげの影が床に落ち、細く長く伸びていく。
――痛みは、消えない。
――でも、枯れもしない。
ホーリーは冬の厳しさの中でも葉を落とさず、実を結ぶ。
凍える夜が続いても、沈黙の季節が続いても、そこに「生きている証」を残す。
エマは気づく。
信仰とは、答えを与えてくれるものではない。
ただ、問いを抱えたままでも立ち続けるための、支えなのだと。

「神を、信じます」
声に出した言葉は、思ったよりも静かだった。
だが、嘘ではなかった。
確信でもなかったが、祈りとしては十分だった。
祖母も、きっとそうだったのだろう。
迷いながら、それでも信じることを選び続けた。
だからこそ、毎年ホーリーを飾り、痛みと希望を同時に語ったのだ。
エマはゆっくりと跪き、目を閉じる。
教会の中は変わらず静かで、奇跡が起こる気配もない。
それでも、胸の奥に小さな安らぎが芽生えていた。
外に出ると、空気はさらに冷えていた。
だが、教会の窓から見えるホーリーの赤は、凍えた世界の中で確かに灯っている。
――信じることは、揺るがないことじゃない。
――揺れながらも、手放さないことだ。
エマはそう思い、丘を下りていった。
冬はまだ長い。
それでも、赤い実のように、信仰は静かに、確かにそこにあった。