「プルメリア」

基本情報
- 学名:Plumeria
- 科名:キョウチクトウ科
- 原産地:熱帯アメリカ
- 開花時期:5月〜10月頃(主に夏)
- 花色:白、黄、ピンク、赤、複色など
- 香り:甘くやさしい芳香(特に夕方から夜に強まる)
- 主な用途:庭木、鉢植え、切り花、レイ(ハワイ)
プルメリアについて

特徴
- 花弁は肉厚で、なめらかな質感を持つ
- 一輪一輪は大きく、整った五弁花で端正な印象
- 強い日差しの下でよく育つが、花姿はどこか控えめ
- 落花しても形が崩れにくく、静かに地面に横たわる
- 南国の花でありながら、派手さよりも気品が際立つ
- 木は落葉性で、花のない時期は寡黙な佇まいを見せる
花言葉:「内気な乙女」

由来
- 大きく美しい花でありながら、うつむくように咲く姿が、控えめな少女を思わせたため
- 強く自己主張する形ではなく、静かに香りで存在を伝える性質が、内に秘めた想いと重ねられた
- 派手な色彩を持ちながらも、どこか柔らかく、近づくほどに魅力が伝わる点が「内気さ」を象徴した
- 南国では愛や女性性の象徴とされつつも、純粋さ・慎ましさのイメージが強く結びついてきた
- 「声に出せない恋心」「想いを胸にしまう乙女の心」を表す花として語られるようになった
「香りだけが、先に恋をした」

南の島の午後は、光が少し重たい。白い砂浜の奥、古い校舎の裏庭に、一本のプルメリアの木があった。夏になると、大きな白い花をいくつも咲かせる。花は決して空を仰がない。いつも、ほんの少しうつむくように、枝の先で静かに揺れていた。
美咲は、その木の下を通るたび、足を緩めた。見上げればすぐに目に入るほどの大きな花なのに、なぜか正面から視線を合わせてはいけない気がした。代わりに、風に混じって届く甘い香りを、胸いっぱいに吸い込む。それだけで、十分だった。

美咲は自分のことを、内気な人間だと思っている。声を張るのが苦手で、気持ちを言葉にする前に、何度も胸の中で反芻してしまう。好きな人ができても、その想いは決まって、声になる前に心の奥へと引き戻される。
彼――航は、島に赴任してきたばかりの教師だった。穏やかな声で、生徒一人ひとりの話を丁寧に聞く。その姿を、職員室の端の席から、美咲は何度も見ていた。話しかけたい理由はいくつもあった。それでも、言葉は喉の奥で止まったままだった。

放課後、校舎の裏庭で風に吹かれながら、プルメリアは静かに香りを放つ。美咲は、花を見つめながら思う。どうしてこの花は、こんなに美しいのに、誇るように咲かないのだろう。派手な色を持ちながら、近づくほどに、その魅力が伝わってくる。まるで、想いを声にできない自分自身のようだった。
ある日、航が裏庭に足を踏み入れた。プルメリアの木の下で立ち止まり、花を見上げる。「いい香りですね」。それだけの言葉だった。でも、美咲の胸は、ひどく高鳴った。花のことを話したい。香りのことも、この木が好きな理由も。でも、言葉はやはり出てこなかった。
沈黙の中で、風が吹く。プルメリアの花弁が、かすかに揺れた。そのとき、美咲は気づく。花は、何も語らない。けれど、香りは確かに届いている。想いは、声にならなくても、伝わることがあるのだと。

勇気を振り絞る代わりに、美咲は微笑んだ。それだけで、航は優しく頷いた。「この木、毎日通るのが楽しみなんです」。その言葉に、美咲の胸がじんわりと温かくなる。
恋は、必ずしも叫ぶものじゃない。
誇らなくてもいい。
ただ、そこに在り続けること。
夕暮れ、プルメリアの香りは、少しだけ濃くなった。うつむいて咲く花の下で、美咲はそっと歩き出す。想いはまだ胸の中にある。でも、それでいい。内気な乙女の恋は、まず香りとして、静かに始まるのだから。