「ペチュニア」

基本情報
- 学名:Petunia
- 科名 / 属名:ナス科 / ペチュニア属
- 原産地:南アメリカ中東部亜熱帯~温帯
- 開花時期:春〜秋(3月〜11月頃)
- 草丈:約20〜50cm(品種により異なる)
- 花色:赤、ピンク、紫、白、黄色、青、複色など非常に豊富
- 分類:一年草(日本では)、多年草(原産地では)
ペチュニアについて

特徴
- 花の形:ラッパ型で丸く開いた花弁。柔らかな印象。
- 開花期間が長い:春から秋まで咲き続けるため、ガーデニングや鉢植えに人気。
- 多彩な品種:八重咲き、フリンジ咲き、ミニタイプなど園芸品種が非常に多く、色や形にバリエーションが豊か。
- 生育が旺盛:日当たりと風通しのよい場所でよく育ち、比較的育てやすい。
- 香り:一部の品種は甘くやさしい香りをもつ。
花言葉:「心の安らぎ」

ペチュニアの花言葉にはいくつかありますが、なかでも**「心の安らぎ」**は特に穏やかな印象を与える花姿から生まれたと考えられます。
由来のポイント:
- 優しい花色と形
ペチュニアはラッパ状の丸みを帯びた花で、どこか包み込むような柔らかさを感じさせます。そのため、見る人の気持ちをほっと和らげる効果があります。 - 長く咲き続ける安心感
春から秋まで咲き続けるその姿は、「いつもそばにいてくれる存在」のよう。変わらぬ花姿が「安定」や「心の癒やし」といった感情を連想させるのです。 - 家庭的で親しみやすい雰囲気
庭先やベランダ、街角の花壇など身近な場所でよく見かけることから、日常に寄り添うような花=心の安らぎを象徴する花とも言えます。
「ペチュニアの咲くベランダで」

四階建ての古びたアパート、その二階の角部屋に、白いレースのカーテンが揺れている窓がある。窓の外には小さなベランダがあり、そこにひっそりと並ぶ鉢植え――紫や淡いピンク、クリーム色のペチュニアが風に揺れていた。
その部屋に住むのは、七十を過ぎた一人暮らしの女性、佐伯澄子。夫を亡くしてから十年以上が経ち、子どもたちはみな遠方に住んでいる。声のない日々が続いていたが、それを寂しいと嘆くでもなく、彼女は静かに、ゆっくりと毎日を過ごしていた。

ペチュニアの花を育て始めたのは、二年前の春。偶然通りかかった園芸店で、「初心者にも育てやすいですよ」とすすめられ、何気なく手に取ったのが始まりだった。最初は淡いピンクの一株だけだったが、季節が巡るたびに少しずつ鉢は増え、気づけばベランダの半分以上がペチュニアで埋め尽くされていた。
ある日、隣室に若い女性が越してきた。名前は美咲。澄子より五十歳も若く、無口で、どこか傷を抱えたような雰囲気の子だった。
「こんにちは」
ある朝、澄子が水やりをしていると、隣の窓から不意に声がした。驚いて顔を上げると、美咲がベランダ越しに頭を下げていた。

「いつも、きれいだなと思って見てました。……この花、なんて名前ですか?」
「ペチュニアよ」
「……優しい色ですね」
それが、ふたりの最初の会話だった。
それから少しずつ、美咲はベランダ越しに顔を出すようになった。会話は短く、気まぐれだったが、やがて彼女の手元にも小さな鉢植えが並ぶようになった。澄子は土のこと、水の量、陽当たりについて、少しずつ伝えていった。
「この花ね、『心の安らぎ』っていう花言葉があるのよ」
ある夕方、日が傾くベランダで、澄子がそう話しかけると、美咲はふと目を見開いた。
「……安らぎ、ですか」

「そう。丸くてやわらかい形でしょう。咲き方も素直で、香りは控えめだけど、そこがまたいいの。ずっと咲いていてくれるから、ね。誰かがそばにいてくれるみたいで、落ち着くのよ」
その言葉に、美咲はしばらく黙っていた。
「私……、夜になると、眠れなくて。何をしてても、胸がざわざわして。だけど、ここに来てから、ベランダを覗くのが、ちょっと楽しみになってて……」
そう呟いて、彼女は小さく笑った。澄子はそれを、風に揺れる花のように見つめていた。
季節は夏を越え、秋風がベランダを通り抜けるようになった。ペチュニアたちはゆるやかにその数を減らしながらも、最後までけなげに花を咲かせていた。
「来年も、咲かせましょうね」
澄子がそう言うと、美咲はうなずいた。
「今度は、もっとたくさん育ててみたいです」
ふたりの間に流れる空気は、静かで温かかった。言葉は多くなくても、そこに確かに「安らぎ」があった。
ベランダのペチュニアは、今年も変わらず咲き続けていた。