「ブーゲンビレア」

基本情報
- 学名:Bougainvillea
- 科名/属名:オシロイバナ科/ブーゲンビレア属
- 原産地:南アメリカ(主にブラジル)
- 和名:イカダカズラ(筏葛)
- 開花時期:4月~5月、10月~11月 (育成方法により大きく異なります)
- 花の色:ピンク、紫、白、赤、オレンジなど
- 分類:常緑性つる性低木
ブーゲンビレアについて

特徴
- 花のように見えるのは「苞(ほう)」
実際の花は小さく、中心に目立たず咲いていますが、その周囲を彩る3枚の苞(葉が変化したもの)が華やかで、花のように見えます。 - つる性で成長が早い
フェンスや壁に絡ませて育てることが多く、南国のリゾート地などでよく見かけます。日当たりと風通しの良い環境を好み、乾燥にも強いです。 - 生命力が強く、剪定にも耐える
こまめに剪定することで、より多くの花(苞)を咲かせることができます。ガーデニングにも人気です。
花言葉:「あなたしか見えない」

この花言葉は、ブーゲンビレアの咲き方と姿に由来しています。
- 一点集中の美しさ
ブーゲンビレアは、つる全体に広がって咲くのではなく、一部の枝先にまとまって花(苞)を咲かせます。そのため、咲いている部分に視線が集中しやすく、他を見せず“そこだけに目を引く”ような印象を与えます。 - 苞が花を守るように包み込む姿
中心の小さな白い花を、色鮮やかな苞が包み込む様子は、まるで「他の誰でもなく、ただひとりを大切に守っている」ような姿にも見えます。 - 南国の強い日差しの中でも咲き誇る
情熱的で濃い色合いの苞が、人目を引くことから、“他が目に入らないほどの強い魅力”というイメージに繋がり、「あなたしか見えない」という花言葉が生まれたと考えられています。
「ただ、君だけを」

沖縄の離島。空も海も透き通るように青く、季節は夏の真っ盛りだった。
その島の海辺に、ひっそりと佇む小さなカフェがある。潮風に吹かれて揺れる、濃いマゼンタのブーゲンビレアが、軒先を彩っていた。
島に来たのは、失恋がきっかけだった。東京の喧騒から逃げるようにして、私はこの地に降り立った。特に目的もなかった。ただ、心の中のざわめきを少しでも鎮めたかった。
そのカフェで、彼に出会った。
無口でぶっきらぼう。なのに、目の奥だけは妙に優しい青年だった。
「この花、ブーゲンビレアって言うんだよ」
ふとした拍子に、彼がそう言った。

「花、なの? 葉っぱみたい」
私がそう言うと、彼は少し笑った。
「花は中心の白い部分。周りの色が濃いのは“苞”っていって、葉っぱが変化したもの。でも、花を守るために、ずっとこうして寄り添ってる」
その説明に、私は不意に心を奪われた。
“守るために寄り添ってる”
まるで、誰かがそばにいてくれるだけで、人は救われることがあると知っているかのような言い方だった。
カフェには毎日通った。彼のことをもっと知りたくなっていた。
ある日、彼はブーゲンビレアの前で立ち止まり、ぽつりと話し出した。

「昔、好きだった人がいた。この島に、毎年花が咲く頃だけ帰ってきてた。……でも、最後に来た年、“もう来ない”って言って、東京に戻って行ったよ」
言葉少なにそう語る彼の横顔は、どこか遠くを見つめていた。
「それでも、毎年咲くこの花を見ると、彼女を思い出す。だから、カフェを続けてるのかもしれない」
彼の声は静かだった。でも、胸の奥に強く残った。
私は何も言えなかった。けれど、わかった気がした。彼の中にまだある“あなたしか見えない”という想いが。
それから数日が経ち、私は東京へ戻る日を迎えた。
最後の朝、ブーゲンビレアの下で、彼が待っていた。
「……また、来てくれる?」
彼がそう聞いた。

私は頷いた。
「来年、またこの花が咲く頃に」
彼は小さく笑い、指先で一輪の苞をそっと触れた。
「この花の花言葉、知ってる? “あなたしか見えない”って言うんだ」
「……うん、今ならその意味が、少しだけわかる気がする」
そして私は振り返らずに歩き出した。
ブーゲンビレアの咲くカフェ。その記憶だけを胸に抱いて。
誰かを想うということは、きっと、視界に無数の人がいたとしても、その中でただ一人だけを見つめ続けるということなのだ。
花に包まれたその小さな白い蕾のように、変わらずに、そっと。