9月20日の誕生花「ヒガンバナ」

「ヒガンバナ」

基本情報

  • 学名Lycoris radiata
  • 科属:ヒガンバナ科ヒガンバナ属
  • 原産:中国(日本へは古代に持ち込まれたとされる)
  • 別名:曼珠沙華(マンジュシャゲ)、死人花、地獄花、狐花など
  • 開花期:9月中旬〜下旬(秋のお彼岸の頃)
  • 花色:赤が一般的。白花や黄色花の品種もある。
  • 毒性:鱗茎(球根)には有毒のアルカロイド(リコリンなど)を含み、誤食すると嘔吐や下痢を引き起こす。かつては田畑や墓地の周囲に植えられ、モグラやネズミ避けの役割を果たした。

ヒガンバナについて

特徴

  1. 花と葉が同時に出ない
    花は秋に咲くが、そのとき葉はなく、花が終わってから冬に葉を伸ばす。
    →「葉見ず花見ず」と呼ばれる特異な性質。
  2. 鮮やかな赤色と独特の形
    細く長い花弁が反り返り、糸のように伸びる雄しべが放射状に広がる。群生するとまるで炎のじゅうたんのよう。
  3. 繁殖はほぼ栄養繁殖
    種子を作ることが少なく、主に地下の鱗茎(球根)が分かれて増える。日本のヒガンバナは三倍体で種子を作れないため、人の手で全国に広がったとされる。

花言葉:「あなたに一途」

由来

ヒガンバナには複数の花言葉がありますが、「あなたに一途」という意味は次のような特徴から生まれました。暦の「お彼岸」の頃に必ず花を咲かせる規則正しさが、「ぶれることのない一途さ」を象徴するとされた。

1.葉と花が決して出会わないことから

  • 花が咲く時期には葉がなく、葉がある時期には花がない。
  • 「同じ株から生まれながら、互いに会えない存在」として、強く思い合いながらもすれ違う恋人たちにたとえられた。
  • その切なさが「一途に想い続ける」という解釈につながった。

2.群れ咲く姿の印象

  • 一株一株が互いに寄り添い、燃えるように咲く様子は、ひとつの思いを貫く情熱を思わせる。

3.彼岸の季節に必ず咲く律儀さ

  • 暦の「お彼岸」の頃に必ず花を咲かせる規則正しさが、「ぶれることのない一途さ」を象徴するとされた。

「すれ違う季節に咲く花」

夏の終わりを告げる蝉の声が遠ざかり、夜風に秋の匂いが混じり始めた頃、川沿いの土手に真っ赤な花が咲き揃った。
 彼岸花――炎のように揺れるその群れは、まるで何かを訴えかけるように、ひときわ鮮やかに大地を染めていた。

 陽菜は立ち止まり、その花をじっと見つめた。
 「花と葉が、同時に出会えないんだよ」
 かつて祖母がそう語ってくれた言葉を思い出す。花が咲くときには葉はなく、葉が伸びるときには花がない。

 同じ根から生まれたのに、決して出会えない。
 ――それでも毎年、必ず律儀に咲き続ける。

 「まるで、私と悠人みたい」
 思わず口にした呟きが、秋の風に溶けた。

 悠人は幼なじみだった。
 同じ小学校に通い、同じ道を帰り、川沿いの土手で虫を捕った。けれど、中学からは別々の道を歩き始めた。部活や友人関係、夢や将来――いつしか会う機会は減り、やがて言葉を交わすことさえ少なくなった。

 それでも陽菜の心の奥には、いつも悠人がいた。すぐそばにいながら、決して重ならない時間。それが苦しくても、想いは消えなかった。

 彼岸花の群れを見つめていると、不意に声がした。
 「やっぱり、ここにいたんだな」

 振り向くと、そこに悠人が立っていた。背が伸び、少し大人びた顔つきになった彼が、懐かしい笑顔を向けている。
 「毎年、この花を見に来てるんだろ?」
 「……知ってたの?」
 「昔、ばあちゃんに聞いたんだよ。『陽菜は彼岸花が好きで、毎年見に行く』って」

 陽菜は胸の奥が熱くなるのを感じた。
 「この花、知ってる? 葉と花が絶対に一緒に出ないんだって。同じ根から生まれてるのに、会えないんだよ」
 「……まるで俺たちみたいだな」
 悠人が苦笑する。陽菜は驚いて彼を見つめた。

 彼も同じことを感じていたのだろうか。ずっとすれ違って、同じ場所にいるのに重ならなかった二人。

 群れ咲く赤が、夕暮れに燃え盛る炎のように広がっていた。
 「でもさ」悠人が言葉を続ける。
 「花と葉は一緒にいられないけど、毎年必ず咲くんだろ? それって、一途に想ってるってことなんじゃないか」
 陽菜の心臓が大きく跳ねた。

 彼岸花は、同じ株から生まれながら出会えない。
 それでも律儀に、季節が巡れば必ず咲く。
 強く、切なく、それでいて真っ直ぐに。

 陽菜は小さく頷いた。
 「……うん。だから、私も待ち続ける。一緒に歩ける日まで」
 悠人は静かに笑い、視線を彼岸花の群れに向けた。

 秋の風が吹き、赤い花々が一斉に揺れた。
 すれ違う季節の中でも、一途な想いは消えない。
 そのことを確かめるように、二人は並んで立ち尽くした。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です