10月11日の誕生花「ミソハギ」

「ミソハギ」

基本情報

  • 科名:ミソハギ科(Lythraceae)
  • 属名:ミソハギ属(Lythrum)
  • 学名Lythrum anceps
  • 別名:ボンバナ(盆花)、ショウリョウバナ(精霊花)
  • 原産地:日本、東アジア一帯
  • 開花時期:7月〜9月
  • 花色:紅紫色、紫がかったピンク
  • 生育環境:日当たりのよい湿地・川辺・田のあぜなど水辺を好む多年草

ミソハギについて

特徴

  • 細長い茎の先に、小さな紅紫の花を穂状にたくさん咲かせる
  • 花が上から順に咲いていくため、咲き進む姿が繊細で美しい
  • 葉は細長く対生し、茎に沿って整然と並ぶ。
  • 盆花として古くから親しまれ、お盆の供花や仏前花として欠かせない存在。
  • 湿地に強く、涼しげで風情ある印象を持つ。

花言葉:「切ないほどの愛」

GuangWu YANGによるPixabayからの画像

由来

  • しっとりとした湿地に咲く姿が、静かで物思いに沈むように見えることから。
  • 花が細くまっすぐに立ち、儚げに咲く様子が、叶わぬ恋や静かな愛情を連想させる。
  • お盆に咲く花であるため、亡き人への思慕や哀しみを込めた愛を象徴するともいわれる。
  • つまり、「切ないほどの愛」は、永遠に届かない相手を思い続ける深い愛情を表している。

「ミソハギの咲く川辺で」

八月の風は、湿った土と水の匂いを運んでくる。
 真帆は川辺にしゃがみ込み、指先でミソハギの花をそっと撫でた。細い茎の先に、小さな紅紫の花がいくつも連なっている。ひとつひとつは儚いのに、集まるとまるで祈りの列のようだった。

 ――この花を見ると、どうしても思い出してしまう。

 彼の名は蓮。高校の写真部で出会い、夏になるといつも一緒に撮影に出かけた。
 蓮は水辺の風景を撮るのが好きで、真帆は花ばかりを撮っていた。
 「花って、誰かを待ってるみたいだね」
 そんなことを言って、彼は笑った。
 あの日、川の向こうで光を見つめる横顔を、真帆は今でも鮮明に覚えている。

 その夏の終わり、蓮は突然この世を去った。
 事故だった。誰も悪くなかった。ただ、運が悪かったとしか言えなかった。
 お盆の日、彼の家の仏前に供えられていたのは、淡い紅紫のミソハギだった。
 「盆花」と呼ばれるその花を見たとき、真帆は初めて知った。
 ――彼が最後に撮っていた写真のフォルダ名が「Misohagi」だったことを。

 翌年から、真帆は毎年、蓮が好きだった川辺に足を運ぶようになった。
 湿地に差す陽光の中で、ミソハギは静かに咲いている。風が吹くたび、細い茎がかすかに揺れ、まるで誰かの心を慰めるように震えた。
 花弁に触れると、ひんやりと冷たい。
 その冷たさが、不思議と心を落ち着かせる。

 「今年も、ちゃんと咲いてるね」
 小さく呟くと、川面が光を反射してきらめいた。
 ――返事の代わりみたいに。

 ミソハギの花言葉は「切ないほどの愛」。
 湿った大地に根を張り、静かに咲き続けるその姿が、届かぬ想いを抱いた人のようだからだという。
 真帆はその意味を、身に染みて知っていた。
 彼がもういない現実を受け入れながら、それでも想いは消えない。
 忘れようとしても、風に乗って、香りのように蘇ってしまう。

 帰り際、真帆は小さな花を一輪、そっとカメラのストラップに挟んだ。
 「ねえ、蓮。来年も一緒に見ようね」
 そう呟く声が風に溶け、川の音に紛れた。

 その瞬間、遠くで雷鳴が鳴った。
 空はまだ青いのに、夏の終わりの気配が確かに漂っていた。
 真帆はカメラを構え、シャッターを切った。
 ファインダーの中で、紅紫の花が光を受けて揺れる。
 まるで彼が、今もそこに立っているように。

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