5月16日の誕生花「モッコウバラ」

「モッコウバラ」

基本情報

和名 :モッコウバラ(木香薔薇)
学名 :Rosa banksiae
英名 :Lady Banks’ rose
原産地 :中国西南部
分類 :バラ科 バラ属(つる性低木)
開花時期 :4月〜5月(春)
花の色: 黄色、白(白花の方が香りが強い)
香り:白花は強い芳香(スパイシーな香り)、黄花はやや弱め
耐寒性・耐暑性 強い(育てやすい)

モッコウバラについて

特徴

  • 棘(とげ)がない:多くのバラとは異なり、モッコウバラにはほとんど棘がありません。扱いやすく、庭やフェンスに向いています。
  • つる性で成長が早い:壁面やアーチ、フェンスなどに誘引することで、美しい緑と花で覆うことができます。
  • 病害虫に強い:比較的手がかからず、初心者にも育てやすいバラです。
  • 一季咲き:春に一度だけ咲くタイプで、開花期間は短いですが非常に華やかです。

花言葉:「初恋」

モッコウバラの花言葉の一つに「初恋」があります。その由来には以下のような背景が考えられています:

  • 可憐で控えめな美しさ:モッコウバラの花は、他のバラと比べて小さくて控えめ。それでも群れ咲く姿は非常に美しく、どこか淡く、はかない印象を与えます。これはまさに「初恋」のような、淡くてピュアな感情を連想させるものです。
  • 春に咲く一季咲きのはかなさ:一度だけ咲いて、短い期間で散ってしまうモッコウバラの花は、時に終わりを迎える「初恋」の儚さとも重なります。
  • 淡い色合い:淡い黄色や白い花は、柔らかく優しい印象を与え、純粋な感情を象徴します。

「モッコウバラのころ」

春の風が吹いた午後、古びた校舎の裏手に咲くモッコウバラを、静かに見つめている少女がいた。

高校三年生になったばかりの佐和は、この場所が好きだった。壁一面を覆うように咲く小さな黄色い花たちは、毎年、春が来たことを教えてくれる。淡くて、控えめで、けれど群れ咲く姿はどこか胸を打った。

モッコウバラを初めて知ったのは、二年前。雨上がりの放課後、傘を忘れて困っていた佐和に、一本の傘を差し出してくれたのが、同じ学年の男の子、湊(みなと)だった。

「このへん、滑りやすいから気をつけて」

優しい声と、少しだけ照れたような笑顔。

それがふたりの、静かな始まりだった。

会話は多くなかった。話したとしても、天気や授業のことくらい。でも、佐和にとってその何気ないやり取りが、特別だった。湊とすれ違うだけで、胸がふわりと浮くような感覚になった。

それが「好き」だと気づいたのは、春休みが終わるころ。モッコウバラがつぼみを膨らませはじめた季節だった。

けれど、佐和は気持ちを伝えられないまま一年が過ぎた。

そして今春、ふたりは別々のクラスになった。

廊下ですれ違っても、もう目が合うことはない。あの春のやさしい時間は、夢だったのかもしれないと、佐和は時折思う。

今日も、昼休みの隙間に、ひとりモッコウバラの前に立つ。そっと目を閉じて香りを吸い込むと、あのとき湊が言った言葉が、ふと蘇った。

「この花、いい匂いするんだよ。知ってた? 木香薔薇っていうんだって。花言葉はね、『初恋』なんだって」

あのときは、なんでもないように聞いていた。でも、もしかして――そう思っても、答えはもう過去に置いてきた。

ふいに風が吹いた。黄色い花びらが、一枚、二枚と舞う。

ふと、背後から足音が聞こえた。

「やっぱり、ここにいたんだね」

声の主は、湊だった。

佐和の胸が跳ねる。

「この花、今年も綺麗に咲いたね」

湊の声は、変わっていなかった。優しくて、少し照れている。

「うん…綺麗。…また、春が来たんだね」

「……俺、覚えてるよ。ここで初めて話した日」

佐和は息を呑んだ。

「俺、ずっと…言いたかったんだ」

モッコウバラの香りが、やさしく二人を包み込む。

その瞬間、黄色い花びらが舞い上がった。

まるで、それが二人の新しい春を祝福するように――

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