「アスター」

基本情報
- 学名:Callistephus chinensis
- 分類:キク科 / シオン属(アスター属)
- 原産地:主に北アメリカ、ヨーロッパ、アジア
- 開花時期:6月上~7月下旬(秋まき) 7月中~9月中旬(春まき)
- 草丈:30cm〜150cm(品種による)
- 別名:エゾギク(蝦夷菊)、クジャクアスター、ミケルマスデイジー(欧米での呼称)
アスターについて

特徴
- 星のような形:「アスター(Aster)」はギリシャ語で「星(aster)」を意味し、その名の通り、花の形が放射状に広がり星を思わせる。
- 多彩な色:紫、ピンク、白、青、赤などバリエーション豊か。
- 丈夫で育てやすい:日当たりと水はけの良い場所でよく育つ。
- 秋の庭を彩る存在:他の花が少なくなる秋に咲くため、季節の移ろいを感じさせてくれる。
花言葉:「追憶」

アスターの花言葉にはいくつかありますが、その中でも有名なのが 「追憶(ついおく)」。この由来にはいくつかの説があります:
1. 秋に咲くことと関係
アスターは秋に咲く花であり、夏の終わりや過ぎ去った季節を思い出させる存在です。そのため、過ぎ去った日々への想い=「追憶」という意味が込められました。
2. 墓地に植えられることが多かった
ヨーロッパではアスターが墓地に植えられることが多く、亡き人を偲ぶ花としてのイメージが強まりました。この背景から、「追憶」「懐かしい思い出」「亡き人への想い」という花言葉が生まれたとされます。
3. 古代ギリシャの伝承
ギリシャ神話では、神々が地上に星をこぼしたとき、その星からアスターの花が生まれたという伝説があります。天に帰った星=思い出という象徴的な連想が、「追憶」という言葉と結びついたとも言われています。
「追憶のアスター」

秋の夕暮れ、風が静かに田舎の丘をなでていた。薄紫のアスターが揺れる丘の上に、一人の青年が佇んでいる。名を涼介という。彼がこの丘を訪れるのは、毎年この季節、決まってアスターが咲く頃だった。
丘の中腹には、小さな白い木製の十字架が立っている。誰の墓なのか、墓標に名前はない。ただ、その前に毎年新しいアスターが供えられていた。
「今年も来たよ、沙耶。」
涼介はポケットから一輪のアスターを取り出し、墓標の前にそっと置いた。その花は、沙耶が生前もっとも好きだった色、淡い藤色だった。

彼女と初めて出会ったのは、高校最後の秋だった。転校してきた沙耶は、どこか儚げな雰囲気を纏っていて、それがかえって涼介の目を引いた。話すうちに、沙耶が病気を抱えていること、長くはこの町にいられないことを知った。
それでも二人は、放課後になるとこの丘に通い、アスターの咲く中で未来の話をした。
「私は星が好き。星ってね、遠いけど、ずっとそこにある。たとえ見えなくなっても、心の中に残るの。アスターも、そんな花なんだって。」
沙耶はそう言って微笑んだ。その言葉が、涼介の心に深く刻まれた。

しかし、冬が訪れる前に沙耶は姿を消した。誰も何も教えてくれなかった。ただ、彼女の机の上に一通の手紙が置いてあり、「ありがとう。この秋は、宝物です。」とだけ書かれていた。
それから十年、涼介は毎年、彼女との記憶を辿るようにこの丘を訪れた。そして気づいたのだ。アスターの花言葉が「追憶」であることを。
調べていくうちに、アスターが秋に咲く花であること、ヨーロッパでは墓地に植えられ、亡き人を偲ぶ象徴だったこと、そしてギリシャ神話では星の化身とされたことを知った。

「沙耶、君はほんとうにこの花に似てるよ。」
涼介はつぶやく。空を見上げると、夕焼けの中に一番星が淡く輝きはじめていた。彼女が言っていた「遠くても、ずっとそこにある星」。あの言葉は、今も彼の心の中で光を放っている。
風がまた丘を吹き抜ける。アスターの花々が揺れ、その香りが微かに漂う。
涼介は立ち上がり、もう一度星空を見上げた。
「また来年も、ここで会おう。」
そして彼は、静かに歩き出した。追憶の花が揺れる丘に、ひとつの記憶がそっと重なっていく――。