「アベリア」

基本情報(概要)
- 学名:Abelia × grandiflora
- 和名:ハナツクバネウツギ(花衝羽根空木)
- 分類:スイカズラ科 ツクバネウツギ属
- 原産地:野生種は、日本、中国、ヒマラヤ、メキシコに15種が分布
- 形態:落葉または半常緑低木(地域により変化)
- 樹高:およそ1~1.5メートル(品種により〜2m程度まで)
- 開花時期:5月〜10月(長期間咲く)
アベリアについて

特徴
◎ 長く咲き続ける丈夫な花木
- 花期は非常に長く、初夏から晩秋まで咲き続けるのが最大の特徴。
- 花が小さいため派手ではありませんが、枝先にまとまって咲く姿は上品で可憐です。
◎ 萼(がく)も美しい
- 花が散ったあとに残る萼が紅色に色づき、美観が続くため、長く楽しめる植物です。
- 見た目は小花が咲いているように見えるほど美しいです。
◎ 丈夫で育てやすい
- 耐暑性・耐寒性ともに高く、剪定にも強いため、初心者にもおすすめの庭木です。
- 病害虫にも強く、放任でもある程度育つほどタフな植物です。
◎ 樹形がまとまりやすい
- 半球状に自然に整う樹形なので、生垣や低めの植え込みにもぴったり。
- 強剪定にも耐え、管理がしやすいです。
◎ 観葉としての魅力も
- 品種によっては斑入りの葉や、紅葉する葉などもあり、花のない季節にも楽しめます。
花言葉:「強運」

🌸 由来1:花が終わっても美しさが続く「萼(がく)」の存在
アベリアの花は咲いた後、すぐに散ってしまいますが、花の土台となる萼がそのまま枝に長く残り、紅色に色づいて美しく変化していきます。
まるで、運が尽きたように見えても、その後も“魅力”が続いていく姿が、「強運」「運を手放さない」ことの象徴と捉えられました。
🌿 由来2:驚くほどの強さと生命力
アベリアは以下のような性質を持っています:
- 長期間の開花(5月〜10月):半年近く咲き続ける花は珍しい
- 病害虫に強く、手間がかからない
- 強い剪定にも耐える
- 乾燥や暑さ・寒さにも強い
このように、どんな環境にも適応し、丈夫で枯れにくい性質から、「どんな運命にも負けない強さ」「困難をはね返す強運さ」といった花言葉が生まれたとされています。
🌱 総合的に見ると…
アベリアの「強運」は、
ただ幸運が舞い込むという意味ではなく、
『試練に耐え、静かに、しかし確かに美しさを保ち続ける力』
に由来しています。
だからこそ、アベリアは「強さを信じて進みたい人」や、「困難を乗り越えた人」への贈り物にもぴったりな花です。
「強運の庭」

風がやわらかく吹いた。玄関先の鉢植えがわずかに揺れ、白い小花がそっと頬を撫でるように揺れた。
アベリア。
小さくて、誰の目にも留まりにくいその花は、あまり手入れの行き届いていないこの庭の中でも、変わらず毎年咲いてくれた。祖母が大切にしていた木のひとつだ。
「この花ね、強運って花言葉があるのよ。あんたにも、少しわけてあげたいくらいだわ」
子どもの頃、病弱だった私の手を握りながら、祖母はそう言って笑った。強運なんて、ずいぶん都合のいい言葉だと思った。けれど、あのころの私は、何かにすがりたかったのだろう。素直に「うん」とうなずいたのを覚えている。

十年ぶりに戻ってきた実家の庭は、ところどころ雑草に覆われていた。けれど、アベリアだけは変わらず枝を伸ばし、小さな白い花を咲かせていた。萼(がく)もまだしっかり枝に残っていて、先のほうがほのかに紅色を帯びている。まるでまだ咲いているかのように、楚々とした美しさがあった。
――地味なのに、しぶとい。
誰にも気づかれないように咲き、花が終わっても、その存在を静かに残す。
そういえば祖母もそうだった。

派手に誰かを引っ張ったり、人前で大声を出すような人ではなかったけれど、何か大事なときにはいつも後ろに立って、そっと背中を押してくれた。母が病気で倒れたときも、父が転職で悩んでいたときも、そして私が高校進学をあきらめようとしたときも。
「強いって、こういうことなんだよ」
祖母が亡くなったのは五年前。知らせを聞いたとき、私は海外にいた。夢だった建築の勉強のため、やっと奨学金をもらって留学していた最中だった。
電話の向こうで、父がぽつりとつぶやいた。
「おばあちゃん、最後まで庭のアベリア見てたよ。……今年は、花が長く咲いてたな」
運がいい、って言葉は、どこか軽くて、努力も痛みも省略してしまうようで苦手だった。けれど、あの花を見ていると、少しだけその意味がわかる気がする。

日当たりがいいわけでも、肥料をこまめに与えられていたわけでもない。それでも、気づけば毎年、風にそよいでいる。
強い運というより、「運に負けない強さ」とでも言えばいいのかもしれない。
私はスコップを持って、鉢の周囲の土を掘り返し始めた。草を抜き、枯葉を取り除く。大きな庭はとても手がかかる。けれど、祖母が遺してくれたこの小さな生命の庭を、もう一度きれいに整えてみたくなった。
強運は、与えられるものではない。
それはきっと、誰にも気づかれなくても、自分の居場所でひっそりと咲き続ける力なのだ。
夕方、玄関の灯りに照らされたアベリアが、そっと風に揺れた。
小さなベルのような花が、まるで微笑むように、こちらを見ていた。