7月15日の誕生花「ネムノキ」

「ネムノキ」

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基本情報

  • 学名Albizia julibrissin
  • 科名/属名:マメ科/ネムノキ属
  • 原産地:日本(東北以南)、朝鮮半島、中国、台湾、ヒマラヤ、インド
  • 開花時期:6月〜7月(初夏)
  • 別名:ネム、ネムノキソウ、シルクツリー

ネムノキについて

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特徴

  • 花の特徴
     細い糸状の花がふわふわと放射状に広がり、淡いピンク色の雲のような見た目が特徴的です。夜になるとふわっと閉じる姿が優雅で幻想的。
  • 葉の特徴
     昼間は開いていますが、夜になると葉が閉じる「就眠運動(しゅうみんうんどう)」をすることでも知られています。この性質から「眠る木=ネムノキ」という名がついたと言われています。
  • 樹形
     成木は枝を大きく横に広げ、傘のような形になります。公園や庭木としても人気があります。

花言葉:「胸のときめき」

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ネムノキの花言葉の一つに「胸のときめき」があります。その由来には以下のような理由が考えられます。

◎ 花の姿が、やさしく触れるような甘やかさ

ネムノキの花は、糸のように細くて柔らかく、ふわりと空気をまとうように咲きます。遠くから見ると、まるで恋心がふんわりと花開いたような、繊細でやわらかな印象を与えます。

◎ 夜に眠る葉と、静かな情感

夕方になると葉が閉じて眠るようすは、誰かを想ってそっと胸を押さえるような、静かなときめきや感情の動きを連想させます。

◎ 見た人の心に残る、幻想的な美しさ

咲くのは夏の夕暮れ。淡紅色の花と涼しげな緑の葉が夕風に揺れるさまは、どこか儚く、見た人の胸に「なぜか心がざわめくような」気持ちを呼び起こします。


「夕暮れの合歓木(ねむのき)」

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坂の途中、古い図書館の裏手に、大きなネムノキがある。誰が植えたのかは知らない。けれど、夏になると決まって淡いピンクの花を咲かせて、まるで空気に溶け込むように、ふわふわと枝を揺らす。

 その木の下で、私はいつも彼を待っていた。

 彼の名前は直(なお)。
 大学のサークルで出会って、なぜか自然と話すようになって、でもいつの間にか、私の方ばかりが彼を目で追うようになった。講義のあとも、飲み会のあとも、二人でこの木の下を歩いた。恋人未満の曖昧な距離。でも、その時間が好きだった。

 「この木、知ってる? ネムノキって言うんだよ」
 ある日、直がそう言った。
 「“合歓”って書くんだ。葉っぱが夜に眠るから、“眠る木”って意味らしい」
 「眠る木……」
 「なんか、優しいよな。疲れたとき、そっと目を閉じるみたいでさ」
 そう言って、彼は葉の影を見上げた。夕方の光が彼の頬に当たって、細いまつげの影が頬に落ちていた。私はその横顔を、胸の奥がきゅっとなる思いで見ていた。

 それが、私の「ときめき」の始まりだったのかもしれない。

 季節が進んでも、私たちの距離は変わらなかった。近くて、遠い。心は触れそうなのに、指先はまだ届かない。

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 夏の終わり、私は勇気を出して聞いた。
 「直、誰か好きな人、いるの?」
 しばらく沈黙があって、彼は静かに笑った。
 「いるよ。でもたぶん、気づいてもらえてない」

 その言葉の意味が、自分を指しているのか、それとも違う誰かなのか、私は聞き返すことができなかった。

 そして秋が来て、彼は海外の大学院に進むことになった。お別れはあっけなくて、私たちは最後も、ネムノキの下で会った。

 「この木のこと、たぶんずっと忘れない」
 そう言った彼の声が、ひどく遠くに感じた。
 「……うん。わたしも」
 と答えるのが精一杯だった。

 その夜、ネムノキの葉は、いつもと同じように眠るように閉じていた。まるで私の胸の奥で、小さくたたまれる想いを真似るように。

 それから数年が経ち、私はこの町に戻ってきた。図書館の裏手、ネムノキは変わらずそこに立っていた。枝は少しだけ大きくなっていて、花はやっぱりふわりとしたまま、夏の夕暮れに揺れていた。

 そっと手を伸ばして、花に触れる。
 やさしく、甘やかで、そして少しだけ切ない。
 胸の奥に、あのときと同じ感情が浮かぶ。

 ――ときめき。
 触れられそうで、触れられなかった想い。

 「……久しぶり」
 後ろから、聞き覚えのある声がした。

 振り返ると、直がいた。あの頃と変わらない笑顔で、私を見ていた。

 「この木、まだ咲いてるんだな」
 「うん。……あのときと同じ」
 「いや、ちょっとだけ、違う」
 そう言って、彼は私の隣に立った。

 ネムノキの花が、私たちの頭上で揺れていた。
 夕風が吹き、胸の奥で、小さなときめきが再び目を覚ます。
 今度こそ――触れられるような気がした。