「ヒマワリ」

基本情報
- 学名:Helianthus annuus
- 科名:キク科
- 属名:ヒマワリ属
- 原産地:北アメリカ
- 開花時期:7月〜9月(夏〜初秋)
- 花色:黄色(まれに赤みを帯びた品種も)
- 英名:Sunflower(サンフラワー)
ヒマワリについて

特徴
- 太陽を追う花:成長途中の若いヒマワリは「向日性(ヘリオトロピズム)」と呼ばれる性質を持ち、日中は太陽の動きに合わせて花の向きを変えることがあります(成熟すると東を向いたままになることが多い)。
- 大きな花と茎:1〜3メートルに育つこともあり、太い茎の先に大きな黄色い花(実際は多数の小花の集合体)を咲かせます。
- 種子が豊富:花が終わると種が実り、食用(ひまわり油やスナック)や鳥の餌にも利用されます。
花言葉:「あなただけを見つめています」

この花言葉は、ヒマワリの**太陽を追いかける性質(向日性)**に由来しています。
- 若いヒマワリは、太陽が昇る東から西へと動くにつれて、その花の向きも変えていきます。まるで一途に太陽だけを見つめているかのようなその姿が、誰かに対して「あなたしか見ていない」という強い想いを象徴するものとされました。
- また、花の姿自体が太陽のように輝いていることから、「太陽=愛しい人」と見立てて、恋心や忠誠心を重ねる文化も背景にあります。
「向日葵の向く方へ」

駅前の花屋で、ひときわ大きなヒマワリが風に揺れていた。
あの花が嫌いだったはずなのに――咲の足は、自然と止まっていた。
「ねぇ、咲。ヒマワリって、太陽しか見ないんだって。知ってた?」
その言葉を最後に、彼は咲の前からいなくなった。三年前の夏。
大学最後の夏休みに入ったばかりの頃だった。
突然の事故。なんの前触れもなかった。
彼――直人は、咲に何も言い残さず、夕立のように消えてしまった。

花屋の前に並ぶ鉢植えの向こうに、直人の面影を見た気がした。
でも、それはきっと気のせいだ。
だって、彼のように、あんなに真っすぐな人はいない。
「俺、ヒマワリが好きなんだ」
そう言って、真顔で花束を差し出してきた初デートの日。
他の男の人ならバラやカスミソウを選ぶところを、彼は迷わずヒマワリだった。
「なんか、咲っぽいなって思って」
「え? 大きいってこと?」
「違うって! ほら、太陽に向かって伸びてる感じ? いつも前向きで、元気で、俺のこと引っ張ってってくれるとこ」
照れながらそう言った彼に、咲は言葉を返せなかった。
たった一輪のヒマワリが、あんなにまぶしく思えたのは、あれが最初で最後だった。

以来、ヒマワリを見るたびに胸が痛くなった。
まるで自分だけを見てくれていた彼のまなざしが、今もどこかで咲を見つめているようで。
でも、咲は彼に背を向けたままだった。
――前を向かなきゃいけないのは分かってる。でも、どうしても振り返ってしまう。
「……あなただけを見つめています、か」
花屋の店先に添えられた札に、そう書かれていた。
まるで、ヒマワリが咲に語りかけているかのようだった。
そのままヒマワリを一鉢買って、部屋に飾った。
東向きの窓辺、朝日が差し込む場所。
ヒマワリはすぐに、明るい光のほうへと顔を向けはじめた。

――ねぇ、咲。太陽がどこにいるか、分かる?
その声が、ふと耳に蘇る。
咲は立ち上がり、ヒマワリの向きを見た。
しっかりと光を捉えようとするその姿に、あの日の彼の瞳を重ねた。
「……私も、ちゃんと見つけないとね。もう一度、前を」
ヒマワリのように、まっすぐに。
誰かに向かって、心から「あなた」と言えるその日まで。
咲はゆっくりと、部屋のカーテンを開いた。
窓の外には、真夏の空と、輝く太陽。
そしてそれを見つめる、一輪のヒマワリが揺れていた。