「ラークスパー」

■ 基本情報
- 和名:ヒエンソウ(飛燕草)
- 学名:Delphinium spp.
- 英名:Larkspur
- 分類:キンポウゲ科 コンソリダ属
- 原産地:南ヨーロッパ、地中海
- 開花時期:春~初夏(5月~6月頃)
- 草丈:30cm〜2m(種類による)
- 花色:青、紫、ピンク、白など
ラークスパーについて

■ 特徴
- 花の形:鳥が飛んでいるような形をしており、「飛燕草(ひえんそう)」という和名はそこから来ています。
- 花の並び:縦に長く伸びる花穂に、蝶のような花が多数咲きます。
- 種類:一年草タイプと多年草タイプがあり、ガーデニングには一年草の「コンソリダ(Consolida)」がよく使われます。
- 栽培環境:日当たりと風通しの良い場所を好みます。暑さにはやや弱いため、日本では涼しい季節に育てるのが向いています。
- 用途:花壇、切り花、ドライフラワーとして人気があります。
花言葉:「軽やかさ」

- 軽やかさ(かろやかさ)
- 他にも「陽気」「快活」「自由」などの意味もあります。
「軽やかさ」という花言葉は、風に揺れる可憐な姿や、空に向かってすっと伸びる花の様子に由来しているとされています。
「風の声を聴く日」

春の終わり、初夏の風が町を包み始めたころ、彼女はいつも通り古い駅の近くにある小さな花壇に水をやっていた。
「今年もきれいに咲いたね、ラークスパー」
ふわりと風が吹き抜け、青紫の花が揺れた。その姿に、まるで返事をされたような気がして、少女は微笑んだ。
名前は灯(あかり)。高校二年生。母の遺した花壇を手入れするのが、彼女の日課だった。
母が生前、花壇に植えた最後の花がこのラークスパーだった。

「これはね、“軽やかさ”って花言葉なのよ。風に踊るように咲く姿が、きっとあなたに似てる」
そう言って笑った母の声が、今でも風の中に聞こえる気がする。
灯は明るく、元気な性格だった。けれど、母を病で失ってからは、その笑顔も少し影を帯びていた。人と話すのも、どこか億劫になった。無理に明るく振る舞うことにも、疲れていた。
それでも、花壇に立つと心が落ち着いた。特にこのラークスパーを見ると、なぜだか少しだけ軽くなる胸の重さ。母が選んだ理由が、少しだけわかる気がした。
ある日、灯が花壇にいたとき、見知らぬ少年が立ち止まった。制服姿からして、同じ高校のようだった。

「…綺麗に咲いてるね。それ、ラークスパー?」
灯は驚いた。花の名前を言い当てた人は、初めてだった。
「うん。知ってるの?」
「うち、花屋だから。小さいころから花と一緒に育ってきたようなもん」
彼は名を奏汰(そうた)と名乗った。灯とは違うクラスで、学校ではあまり目立たない存在らしい。
その日から、奏汰は時々花壇に来ては、灯と他愛もない話をするようになった。風の話、花の話、学校での出来事。静かで優しい声に、灯の心は少しずつ解けていった。

「この花ね、“軽やかさ”っていう花言葉があるんだよ」
ある日、灯がそう伝えると、奏汰は小さく頷いた。
「うん。風に揺れる姿が、本当に軽やかだよね。でも、それだけじゃない」
「え?」
「強いんだよ、この花。風に身を任せてるように見えて、ちゃんと根を張って、自分の意思で咲いてる。…誰かさんみたいにさ」
灯は言葉を失った。そして、不意に目元が熱くなった。
「…そうだったら、いいのにな」

「うん。きっと、そうだよ」
その日、灯は初めて母に報告した。
「ねえ、お母さん。今日、私、ちゃんと笑ったよ」
ラークスパーが風に揺れた。まるで祝福するように、軽やかに。
そして、季節は夏へと向かう。花壇には今日も風が吹き、青い花がそよいでいる。
そこには、母が遺した“軽やかさ”が、確かに息づいていた。