10月18日の誕生花「メランポジウム」

「メランポジウム」

メランポジウムは、メキシコなどを原産とするキク科の一年草です。初夏から秋にかけて、黄色い小花を次々と咲かせます。暑さに強く、育てやすいことから、花壇や鉢植えに人気があります。花言葉は「元気」です。

基本情報

  • 学名:Melampodium paludosum
  • 科名:キク科
  • 属名:メランポジウム属
  • 原産地:メキシコ~中央アメリカ
  • 開花時期:5月~11月ごろ
  • 花の色:黄色
  • 草丈:20~40cmほど
  • 分類:一年草

メランポジウムについて

特徴

  • 小さな黄色い花を次々と咲かせ、株いっぱいに花を広げる、明るく愛らしい植物。
  • 暑さに強く、夏の厳しい日差しの中でも元気に花を咲かせ続ける。
  • 花がらを自然に落としながら新しい花を咲かせる性質があり、花壇を長期間美しく彩る。
  • コンパクトにまとまりやすく、花壇の縁取りや寄せ植え、鉢植えなどに適している。
  • 丈夫で育てやすく、ガーデニング初心者にも人気がある。
  • 明るい黄色の花が太陽を思わせ、夏の庭に活気と華やかさを添える。


花言葉:「元気」

由来

  • 暑さに負けず咲き続ける姿が、生命力にあふれた健康的な印象を与えることに由来するといわれている。
  • 鮮やかな黄色の花色が、太陽の光や明るい笑顔を連想させ、前向きで活発なイメージにつながっている。
  • 次々と花を咲かせる旺盛な性質が、困難にも負けずに前へ進む力強さや、尽きることのない活力を感じさせる。
  • こうした明るい花色と、夏の暑さの中でも生き生きと咲く姿が結びつき、「元気」という花言葉につながったと考えられている。


「黄色い花が教えてくれたこと」

 夏の太陽が容赦なく照りつける、小さな町の片隅に、一軒の古い花屋があった。
 店の名前は「花のひだまり」。
 白い木枠の窓には季節ごとの花が飾られ、店先には色とりどりの鉢植えが並んでいる。春にはチューリップやパンジーが風に揺れ、秋にはコスモスやキクが訪れる人々の目を楽しませた。
 けれど、八月のある日、店の前を通りかかる人は少なかった。
 焼けつくような暑さに、町の人々は外出を控えていたのである。
 そんな夏の午後、花屋の店先で、ひときわ鮮やかな黄色い花が咲いていた。
 メランポジウムだった。


 小さな黄色い花が、緑の葉の間から次々と顔をのぞかせている。太陽の光を浴びながら、まるで夏を楽しんでいるかのように、元気いっぱいに咲いていた。
 その花を、店の奥から眺めている少女がいた。
 名前は美咲。十六歳の高校一年生だった。
 美咲は以前、何をするにも積極的な少女だった。
 学校では友達と笑い合い、文化祭では率先して準備を進め、困っている人を見つければ迷わず声をかけた。将来は花に関わる仕事がしたいという夢もあり、休日には祖母が営むこの花屋を手伝っていた。
 しかし、春に参加した高校の吹奏楽部での出来事をきっかけに、彼女の心は少しずつ沈んでいった。
 美咲は昔からフルートを吹くのが好きだった。中学校では吹奏楽部に所属し、三年生のときにはソロパートを任されたこともある。


 高校でも音楽を続けたいと考え、迷わず吹奏楽部に入部した。
 ところが、周囲には自分よりも演奏の上手な生徒が大勢いた。
 楽譜を一度見ただけで難しい旋律を吹きこなす同級生。音程もリズムも正確で、先生から何度も褒められる先輩。美咲が何時間も練習してようやくできるようになったことを、簡単そうにやってのける仲間たち。


 最初のうちは、負けたくないという気持ちが練習を支えていた。
 けれど、何度練習しても思うように吹けない日が続くと、その気持ちは次第に焦りへと変わっていった。
 ある日の合奏で、美咲は大切なフレーズを何度も間違えた。
 先生は責めることなく、もう一度ゆっくり練習するように言った。しかし、周囲の視線が自分に集まったように感じた美咲は、顔を上げることができなかった。
 帰り道、楽器ケースを抱えながら、彼女は思った。
 自分には才能がないのかもしれない。
 いくら努力しても、みんなのようにはなれないのかもしれない。
 そう考えるようになると、フルートを手に取ることさえ苦しくなった。
 やがて、美咲は部活を休みがちになった。


 学校から帰ると部屋に閉じこもり、好きだった音楽も聴かなくなった。以前なら友達からの誘いに喜んで出かけていたのに、今では断る理由ばかり探していた。
 そんな孫の変化に、祖母の千代は気づいていた。
 千代は、花屋を四十年以上営んできた女性だった。背中は少し丸くなり、指には長年の仕事でできた細かな傷があったが、花を扱う手つきは今も丁寧だった。
 ある日、店の奥でうつむいている美咲に、千代は声をかけた。
「美咲、ちょっと手伝ってくれるかい?」
「何をすればいいの?」


「店先の花に水をあげてほしいんだよ。今日は暑いからね」
 美咲は黙って立ち上がり、じょうろを手にした。
 店先に出ると、強い日差しが肌を刺した。アスファルトからは熱気が立ち上り、遠くの景色がゆらゆらと揺れている。
 美咲は鉢植えの土を確かめながら、順番に水を与えていった。
 そのとき、小さな黄色い花が目に留まった。
 メランポジウムだった。
 暑さにぐったりしている花もあるなかで、その株は驚くほど生き生きとしていた。細い茎の先には黄色い花がいくつも咲き、まだつぼみも残っている。
「おばあちゃん、この花、暑くないのかな」
 美咲が尋ねると、千代は隣に立って微笑んだ。
「暑いだろうね。でも、この花は暑さに強いんだよ。夏の間も、次々と花を咲かせてくれるんだ」
「こんなに暑いのに?」
「そう。もちろん、何もしなくても平気というわけじゃないよ。水も必要だし、ちゃんと世話をしてあげなくちゃいけない。でもね、この花は夏の暑さの中でも、ずいぶん元気に育ってくれるんだ」
 美咲は、メランポジウムをじっと見つめた。


 小さな花は、特別に大きいわけでも、華やかな形をしているわけでもない。それなのに、鮮やかな黄色が集まると、そこだけ太陽の光が降り注いでいるように見えた。
「この花にはね、『元気』という花言葉があるんだよ」
 千代の言葉に、美咲は顔を上げた。
「元気?」
「そう。暑さに負けずに咲き続ける姿や、この明るい黄色が、元気いっぱいの印象を与えるからだといわれているんだ」
 千代は花のひとつにそっと触れた。
「黄色は太陽や明るい笑顔を思い出させてくれるだろう? それに、この花は次々と新しい花を咲かせるんだ。ひとつの花が終わっても、また別の花が咲いてくる。そんな姿を見ていると、何度でも前に進めるような気がするんだよ」
 美咲は、黄色い花の間に隠れていた小さなつぼみを見つけた。
 まだ開いていないつぼみは、周りの花に比べると頼りなく見えた。けれど、これから花を咲かせるために、懸命に育っているのだろう。
「でも、元気って、いつも明るくしていることなのかな」
 気がつくと、美咲はそんなことを口にしていた。
 千代はすぐには答えなかった。
 しばらく花を眺めたあと、静かな声で言った。


「どうして、そう思うんだい?」
「私、最近、全然元気じゃないから。学校でもうまくいかないし、フルートも前みたいに吹けない。頑張ろうと思っても、すぐに落ち込んじゃうんだ。みんなはできるのに、私だけできない。そんな自分が嫌になるの」
 美咲は、胸の奥に押し込めていた言葉をひとつずつ吐き出した。
「前は、もっと頑張れたのに。今は何をするのも面倒で、笑うことさえ疲れちゃう。こんな自分じゃ駄目だと思うのに、どうしたらいいのかわからない」
 話し終えると、美咲はうつむいた。
 弱音を吐いたことが恥ずかしかった。
 祖母を心配させてしまったかもしれない。こんなことを言っても、何も変わらないかもしれない。
 けれど、千代は美咲を叱らなかった。
「美咲。元気がないときに、無理して元気なふりをする必要はないんだよ」
 その言葉に、美咲はゆっくりと顔を上げた。
「でも……」
「花だって、ずっと同じように咲いているわけじゃない。つぼみのときもあれば、花を咲かせるときもある。咲き終わった花だってある。それでも、株全体を見れば、また新しい花が育っているだろう?」
 千代は、メランポジウムの葉をそっと持ち上げた。
「この花は、ひとつひとつの花が永遠に咲き続けるわけじゃないんだよ。終わる花もあれば、これから咲く花もある。大切なのは、どの花も同じように咲かなければいけないと思わないことなんじゃないかな」
 美咲は黙って聞いていた。
「人間だって同じだよ。いつも頑張れる日ばかりじゃない。失敗する日もあるし、何もしたくない日だってある。それでも、少し休んで、またやってみようと思えたら、それも立派な前進なんだ」
 千代の声は、夏の風のように穏やかだった。
「元気というのは、いつも笑っていることだけじゃない。つらいときに、つらいと認めることも大切だよ。そして、いつかもう一度やってみようと思えたなら、その小さな気持ちを大事にしてあげればいいんだ」
 美咲は、目の前の黄色い花を見つめた。
 今まで彼女は、元気でいることとは、何事にもくじけず、いつでも明るく、失敗してもすぐに立ち直ることだと思っていた。
 だからこそ、落ち込んでしまう自分を許せなかった。
 しかし、祖母の話を聞いているうちに、胸の奥に張りつめていたものが、少しずつ緩んでいくのを感じた。


 元気がなくなったからといって、自分のすべてが失われたわけではない。
 今は前に進めなくても、いつかまた歩き出せるかもしれない。
 その可能性まで、自分で閉ざす必要はないのだ。
 その日から、美咲は少しずつ生活を変えていった。
 最初にしたのは、朝、カーテンを開けることだった。
 以前なら、目を覚ましても布団から出られず、何度も時計を確認していた。けれど、まずは窓を開け、外の空気を吸ってみることにした。
 青い空を見上げると、遠くから蝉の声が聞こえた。
 暑さは相変わらず厳しかったが、朝の光は思っていたよりも柔らかかった。
 次に、美咲は一日十分だけフルートを吹いてみることにした。
 以前のように、難しい曲を完璧に演奏しようとは考えなかった。
 音階をゆっくり吹く。息を整える。好きな曲の一部分だけを練習する。
 うまく吹けない日もあった。
 音がかすれたり、指が思うように動かなかったりすると、悔しさが込み上げてくることもあった。
 それでも、美咲はすぐに楽器をしまわないようにした。
 今日はここまでできた。
 明日は、もう少し吹いてみよう。
 そう考えて、練習を終えることにした。
 花屋の手伝いも続けた。


 毎朝、メランポジウムの鉢を確認し、土の乾き具合を見ながら水を与える。咲き終わった花を取り除き、葉の様子を観察する。
 世話を続けていると、小さな変化に気づくようになった。
 昨日はつぼみだった場所に、黄色い花が開いている。
 少し離れたところでは、新しいつぼみが膨らんでいる。
 ひとつの花が終わっても、次の花が咲いてくる。
 その繰り返しが、美咲には不思議なほど心地よかった。
 ある日、近所に住む小さな男の子が、店先で足を止めた。
 男の子は、母親の手を握りながら、メランポジウムを指さした。
「お母さん、このお花、ひまわりみたい!」
「本当ね。黄色くてかわいいわね」
 男の子は花を見つめながら、ぱっと笑った。
「なんだか元気になるね!」
 その言葉に、美咲は思わず微笑んだ。
 自分も、同じことを感じていたからだ。
 メランポジウムは、誰かを励まそうとして咲いているわけではない。
 大きく見せようとしているわけでも、誰かと競い合っているわけでもない。
 ただ、与えられた場所で、太陽の光を浴び、必要な水を吸い、花を咲かせている。


 それなのに、その姿を見た人の心を明るくしているのだ。
 美咲は、花に水を与えながら思った。
 自分も、誰かと比べることばかり考えなくてもいいのかもしれない。
 自分にできることを、ひとつずつ続けていけばいい。
 そう思えるようになったころ、吹奏楽部の友人から連絡が届いた。
『今度の練習、来られそう? 久しぶりに一緒に吹きたいな』
 画面を見つめながら、美咲は迷った。
 また失敗したらどうしよう。
 みんなに遅れを取っていたら、どう思われるだろう。
 以前なら、そんな不安だけで参加を諦めていたかもしれない。
 けれど、窓辺に置いたメランポジウムが目に入った。
 鮮やかな黄色い花の向こうに、まだ開いていないつぼみが見える。
 美咲は、ゆっくりと息を吐いた。
『行ってみるね。まだ上手に吹けないけど、少しずつ練習してるよ』
 そう返信すると、すぐに友人から返事が届いた。
『待ってるね! 無理せず、一緒に頑張ろう』
 美咲の胸に、温かなものが広がった。
 翌週、美咲は久しぶりに音楽室の扉を開けた。
 仲間たちは、いつもと変わらない様子で彼女を迎えてくれた。
「美咲、久しぶり!」
「また一緒に吹けるね」


 その声を聞いたとき、美咲は少しだけ泣きそうになった。
 自分がいない間も、みんなは自分を忘れずにいてくれたのだ。
 合奏が始まると、最初は緊張で指が震えた。音も思うように出なかった。それでも、美咲は楽器を置かなかった。
 何度か間違えながらも、最後まで演奏を続けた。
 練習が終わったあと、友人が笑顔で声をかけてきた。
「また一緒に練習しようね」
 美咲は、今度は迷わずうなずいた。
「うん。私、もう一度頑張ってみたい」
 その言葉は、誰かに認めてもらうためのものではなかった。
 以前の自分を取り戻さなければならないという焦りから出た言葉でもなかった。
 ただ、もう少し音楽を続けてみたいと思ったのだ。


 その気持ちがあるだけで、今は十分だった。
 夏の終わりが近づくころ、花屋のメランポジウムは、相変わらず鮮やかな黄色い花を咲かせていた。
 朝夕には少しずつ涼しい風が吹くようになり、店先を訪れる人も増えてきた。
 美咲は、鉢植えの前にしゃがみ込み、新しく咲いた花を見つめた。
「おばあちゃん、この花、まだまだ咲きそうだね」
「そうだね。元気な花だよ」
 千代は微笑みながら答えた。


「私ね、前は元気って、ずっと頑張り続けることだと思っていたの」
 美咲は、黄色い花を見つめたまま話し始めた。
「でも、今は少し違う気がする。疲れたら休んでもいいし、失敗したら落ち込んでもいい。そこから、また何かを始められたらいいんだよね」
 千代は、うれしそうにうなずいた。
「そうだね。自分の歩き方を見つければいいんだよ」
「私、まだフルートは上手じゃないよ。みんなに追いつけるかどうかもわからない」
「それでも、続けたいと思えたんだろう?」
「うん」
 美咲は、はっきりとうなずいた。
「だから、もう少し頑張ってみる」
 千代は何も言わず、孫の肩にそっと手を置いた。
 店先には、午後の光が降り注いでいた。
 黄色い花びらが風に揺れ、緑の葉の間で小さなつぼみが膨らんでいる。
 その光景を見つめながら、美咲は思った。
 人生には、思いどおりにいかない日がある。
 努力しても結果が出ないこともあれば、自分だけが取り残されたように感じることもある。
 そんなとき、無理に笑う必要はない。
 誰かより優れていなければならないわけでもない。
 大切なのは、自分の心が疲れていることに気づき、必要なら休み、また一歩を踏み出せる日を待つことなのだ。


 メランポジウムの花は、太陽の光を浴びながら、今日も小さな花を咲かせている。
 ひとつの花が終われば、また新しい花が開く。
 その繰り返しは、決して派手ではない。けれど、絶えることなく続いていく姿には、確かな力強さがあった。
 美咲は立ち上がり、店の奥に置いてあるフルートケースを手に取った。
 これからも、うまくいかない日はあるだろう。
 自信を失うことも、誰かと比べて落ち込むこともあるかもしれない。
 それでも、もう一度やってみようと思える自分を、少しずつ育てていきたい。
 そう考えると、胸の奥に小さな光が灯ったような気がした。
 美咲は、店先のメランポジウムに向かって、そっと笑いかけた。
「ありがとう。私も、自分らしく咲いてみるね」
 黄色い花は、風に揺れながらそこに咲いていた。
 まるで、いつでも戻っておいでと告げるように。
 そして、その明るい色は、夏の空の下でひときわ鮮やかに輝いていた。
 花言葉は「元気」。


 それは、いつも明るく、決して弱音を吐かないことではない。
 何度つまずいても、自分を責めすぎず、また歩き出そうとする心のことなのかもしれない。
 小さな花が次々と咲くように、人の心にも、新しい希望が芽生える日がやってくる。
 その希望は、最初から大きくなくてもいい。
 ほんの少しの勇気でも、かすかな笑顔でもいい。
 今日を乗り越え、明日を迎えようとする気持ちがあるのなら、それはきっと、元気という名の小さな花なのだ。
 美咲はフルートケースを抱え、夕暮れの町へ歩き出した。
 空には、柔らかなオレンジ色の光が広がっていた。
 その光を浴びながら、彼女の足取りは、昨日よりほんの少しだけ軽くなっていた。