8月3日の誕生花「マツバボタン」

「マツバボタン」

基本情報

  • 学名Portulaca grandiflora
  • 科名:スベリヒユ科(Portulacaceae)
  • 原産地:南アメリカ(ブラジル、ウルグアイ、アルゼンチンなど)
  • 分類:一年草
  • 開花期:6月~9月(夏の間ずっと咲き続ける)
  • 花色:赤、ピンク、オレンジ、黄色、白、複色など
  • 草丈:10〜20cmほどの小型
  • 別名:ヒデリソウ(日照り草)

マツバボタンについて

特徴

◎ 松葉のような細長い葉

マツバボタンの名前の由来は、松の葉のように細くて多肉質な葉の形状によるものです。乾燥に強く、水やりが少なくてもよく育つ点も魅力です。

◎ 日光が大好きな「ヒデリソウ」

別名の「ヒデリソウ」は、太陽の光を受けて初めて花を開く性質に由来します。曇りや雨の日には花が閉じてしまうほど、日差しが大切な植物です。

◎ カラフルで豊富な花色

花は直径3〜5cmほどで、重なり合う花びらが美しく、ビビッドで豊富な色彩が特徴です。八重咲きや一重咲きなど、園芸品種も多くあります。


花言葉:「可憐」

◎ 小さく控えめな美しさ

マツバボタンは、背丈も低く、花も小ぶりでありながらも、その色彩や形は非常に美しく、儚げで魅力的です。この「小さな体に宿る美しさ」が、「可憐」という花言葉につながっています。

◎ 強さと繊細さの共存

炎天下でも咲き続けるたくましさを持ちながら、花の姿はどこか繊細で愛らしい――そのアンバランスな魅力が、「可憐」という言葉にぴったりなのです。


「陽だまりのマツバボタン」

その夏、祖母の家の庭は、色とりどりのマツバボタンで埋め尽くされていた。
 背丈の低いその花たちは、地面を這うように広がり、まるで小さな陽だまりが無数に散らばっているようだった。

 「この花はね、朝の光がないと咲かないんだよ」

 小学生の頃、祖母がそう教えてくれたのを思い出す。朝、カーテンを開けると、昨日まで緑だけだった土の上に、いきなり鮮やかな赤やピンクが顔を出していて、不思議でしょうがなかった。どうして昨日は咲いてなかったのに、今日はこんなにきれいなんだろう、と。

 それから十数年の月日が流れた。祖母が亡くなってから、家は長く無人になっていたけれど、この春、私は思い切って都会の仕事を辞めて、戻ってきた。理由はうまく言葉にできない。ただ、あの庭をもう一度見たかった――それだけだった気がする。

 六月の終わり。雑草を抜き、石をどけ、柔らかくなった土にマツバボタンの種を蒔いた。
 朝早く水をやり、昼間は少しずつ部屋の片づけをした。誰にも急かされず、誰にも認められず、ただ植物と向き合う毎日。けれど、不思議と心は静かだった。

 そして七月の半ば、最初の花が咲いた。
 目をこらさなければ見落としてしまうほど小さな花。けれど、朝日に透けるように咲くその姿は、あまりにも美しかった。花びらの縁がほんの少し波打ち、中心へ向かって柔らかく色がにじむ――まるで何かをそっと語りかけるような、静かな輝きだった。

 ふと、祖母の言葉が蘇る。

 「小さくても、ちゃんと咲いてる。それだけで、えらいよね」

 子どもの頃にはわからなかったその言葉が、今はまっすぐ胸に届く。
 マツバボタンは可憐だった。ひたむきで、健気で、そして強い。雨の翌日は咲かず、曇りの日も静かに閉じている。けれど、晴れた朝には決して遅れず、変わらぬ美しさを見せてくれる。

 そんな花を、私は今まで気づかないうちに見過ごしてきたのかもしれない。
 誰かに評価されることばかり気にして、大きく咲くことばかりを目指していた。でも、見下ろせば足元にも、こんなに健気な命があったのだ。ちゃんと咲いている花が、こんなにもそばに。

 夕方、花はそっとしぼみ始める。まるで「今日はこれでおしまい」とつぶやくように、静かに。

 私はしゃがみこみ、咲き終わった花に向かって小さく声をかけた。

 「今日も、きれいだったよ」

 日が傾いてゆく。
 明日もまた、あの小さな花たちは、変わらずに咲いてくれるだろう。

 そのことが、今はただ、嬉しい。