11月21日の誕生花「ベルフラワー」

「ベルフラワー」

基本情報

  • 和名:ベルフラワー(※一般的にはカンパニュラの一部品種を指す呼び名)
  • 学名Campanula portenschlagiana など(品種により異なる)
  • 科・属:キキョウ科・ホタルブクロ(カンパニュラ)属
  • 原産地:ヨーロッパ、地中海沿岸
  • 開花時期:4〜7月(春〜初夏)
  • 分類:多年草
  • 別名:カンパニュラ、釣鐘草(つりがねそう)

ベルフラワーについて

特徴

  • 小さな鐘型の花が一面に広がり、可愛らしい雰囲気を持つ。
  • 主に紫・青・白の花色が多い。
  • 茎が横に広がる性質があり、グラウンドカバーや鉢植えに最適
  • 寒さに強い一方、蒸れに弱いため、風通しの良い環境を好む。
  • 一度咲き始めると花つきが非常によく、長く楽しめる
  • 比較的育てやすいが、梅雨時期の過湿は苦手。

花言葉:「感謝」

由来

  • ベルの形をした花が人に呼びかけるように、静かで優しい印象を与えることから、
    → 「心を込めた気持ち」「丁寧な想い」が連想される。
  • 一面に小花が咲く姿が、誰かの気持ちに寄り添うように見えることから、
    → 日常の中の小さな“ありがとう”を象徴する花として扱われた。
  • 西洋の文化では、カンパニュラは感謝や誠実を伝える花と位置づけられることが多く、
    → そこから日本でも「感謝」の花言葉が広まったとされる。
  • 鐘型の花=祈りの象徴(教会の鐘など)と結びつき、
    → 誰かに向けた祈り=「ありがとう」の意味へ発展したという説もある。

「小さな鐘の音が聞こえる庭で」

六月の風が、庭の片隅に植えられたベルフラワーをそっと揺らしていた。紫色の小さな花々が、まるで小さな鐘をたくさん並べたように、光の粒を抱いて揺れている。
 「きれい……」
 茉莉はしゃがみ込み、指先でそっと花の影をなぞった。

 この家に戻ってくるのは、三年ぶりだった。離れて暮らすことになってから、母とは少し距離ができたまま、時間だけが静かに流れた。大学生活は忙しく、新しい人間関係もあった。気づけば、家に電話をする回数は減り、メッセージもそっけないものになっていた。

 今回の帰省は、母の体調を案じた叔母からの連絡がきっかけだった。幸い、大事には至らなかったが、娘として何かを見落としていたのではないかという不安が胸の奥に残ったままだった。

 「茉莉、帰ってきてたのね」
 ふいに背後から声がし、茉莉は振り返った。母が立っていた。思っていたより元気そうで、少しだけ胸の緊張がほどける。

 「うん。庭、変わってないね」
 「あなたが好きだったでしょう。ベルフラワー」

 母は花に目を向け、優しく微笑んだ。

 「この花ね、ヨーロッパでは“感謝”の気持ちを伝える花なのよ。小さな鐘の形だから、祈りの象徴でもあるんですって。誰かの幸せを願う鐘……そういう意味があるらしいわ」

 母が静かに言う言葉は、どこか懐かしい響きがあった。茉莉は少し俯く。

 「……ねぇ、お母さん」
 「なあに?」
 「いままで……あんまり連絡しなくて、ごめん。忙しいって言い訳して、大事なことを後回しにしてたと思う」

 母は驚いたように目を見開いたが、すぐに柔らかな笑みを浮かべた。

 「茉莉、来てくれた。それで十分よ。連絡の回数で愛情は測れないわ」
 「でも……」
 「大丈夫。こうやって帰ってきて、顔を見せてくれた。それが一番の“ありがとう”よ」

 ベルフラワーの花が風に揺れ、微かな音が聞こえたように感じた。もちろん、本当に音が鳴ったわけではない。けれど、その揺れは、まるで母の言葉に寄り添うように優しく響いていた。

 「そういえばね、花が一面に咲くと、まるで誰かの気持ちに寄り添っているように見えるでしょう?」
 母は花を見ながら続ける。
 「小さな“ありがとう”をたくさん並べたみたいで、私は好きなの」

 茉莉の胸に、何か温かいものが広がった。
 忙しさの中で、伝えるべき気持ちをしまい込んでいた自分に気づく。
 “ありがとう”は、もっと素直に言ってよかったのだ。

 「……お母さん、ありがとう。ほんとに」
 茉莉がそう言うと、母は少し涙ぐみながら笑った。

 夕暮れが近づき、庭のベルフラワーが淡い光を受けてまた揺れた。
 その姿は、小さな鐘が心のどこかに優しく触れていくようだった。

 その日、茉莉は思った。
 ――感謝という言葉は、こんなにも静かで、温かい響きを持っていたのだと。

 庭いっぱいに咲くベルフラワーは、まるで母と娘の想いが重なり合うように、柔らかな紫の波を広げていた。

7月8日の誕生花「カンパニュラ」

「カンパニュラ」

Yvonne HuijbensによるPixabayからの画像

基本情報

  • 和名:ツリガネソウ(釣鐘草)
  • 学名Campanula medium
  • 科名:キキョウ科(Campanulaceae)
  • 属名:カンパニュラ属
  • 原産地:南ヨーロッパ(フランス南東部からイタリア半島)
  • 開花時期:5月〜7月(種類によって異なる)
  • 草丈:約20cm〜1m前後(品種による)
  • 多年草または一年草:主に多年草(ただし一年草扱いされるものもあり)

カンパニュラについて

ingeborglindauerによるPixabayからの画像

特徴

  • 花の形が鐘(ベル)に似ていることから、ラテン語で「小さな鐘」を意味する「Campanula」が名前の由来。
  • 花色は紫・青・白・ピンクなどがあり、涼しげで上品な印象を与える。
  • 種類が豊富で、立ち性・ほふく性・つる性など様々な草姿がある。
  • 寒さに強く、耐寒性が高いため、寒冷地でも栽培しやすい。
  • 鉢植えや花壇、切り花としても人気が高い。
  • 中世ヨーロッパでは修道院の庭などで薬草や観賞用として栽培されていた歴史がある。

花言葉:「感謝」

Jan HaererによるPixabayからの画像

カンパニュラの花が風にゆれる様子や、控えめで可憐な姿が、人に何かを伝えたくてそっと話しかけているように見えることから、「感謝」「ありがとう」という気持ちを象徴するようになった。

釣鐘型の花が**「ありがとう」とお礼の言葉を告げるベルのよう**に見える、というイメージが背景にある。

花が下向きに咲く品種が多く、控えめで謙虚な印象が、感謝の気持ちを静かに表す姿と重なる。

誰かにそっと贈りたくなる、静かな思いやりの象徴として「感謝」の花言葉が定着したとされる。


「風のベルが鳴るとき」

Annette MeyerによるPixabayからの画像

駅から少し離れた場所に、小さな花屋がある。
 古い木の扉、白いペンキが少しはがれかけた看板、そして店先に並ぶ鉢植えたち。その一角に、紫と白の可憐な花が静かに揺れていた。

「……これ、カンパニュラっていうんだ」
 そう言ったのは、あのときの君だった。

 高校を卒業してから、もう十年以上が経つ。別々の道を選び、それぞれの場所で大人になった。だけど今でも、あの花を見れば君の声がよみがえる。風にそっと揺れるあの釣鐘型の花が、まるで「ありがとう」と小さくささやいているように思えてしまうのだ。

 あの日も風が吹いていた。卒業式のあと、私は花束を持って君のもとへ向かった。けれど、何も言えなかった。ただ花を差し出して、ぎこちなく笑っただけだった。
 君は、ふっと目を細めて、
「これ、僕の好きな花だ」
 そう言ってカンパニュラの花に指を伸ばした。

 君がこの花を好きだなんて知らなかった。偶然だった。だけどそれが、私たちの最後の会話になった。

 あれからずっと、「ありがとう」の言葉が言えずにいた。励まされていたこと、救われていたこと、君がさりげなく私にくれていた優しさのすべてに、何一つ返せないまま、私は大人になってしまった。

Foto-RaBeによるPixabayからの画像

 ——でも、もし、あの頃の自分に何かできるとしたら。
 花を通して、伝えることができるのなら。

 私は今、花屋で働いている。
 君のことがきっかけだった。カンパニュラに惹かれて、花の仕事を選んだ。言葉では伝えられなかった気持ちを、そっと花に託すようになった。

 今日も、あの花が風に揺れている。

 釣鐘型の小さな花が、まるで風とともにメッセージを奏でるように――。

「ありがとう」
 誰かに、そう伝えたくてここに来る人たちの気持ちを、私はそっと受け取る。

 控えめで可憐な花、カンパニュラ。
 下向きに咲くその姿は、まるで遠慮がちに頭を下げているよう。だけど、だからこそ美しい。静かで謙虚なその花姿は、言葉よりも深く感謝の心を映している。

 私は今日も一輪のカンパニュラをラッピングする。
 いつかの自分のように、言葉にならない「ありがとう」を胸に抱えて、この店の扉をくぐる誰かのために。

 風がまた、店先の花を揺らす。
 カンパニュラが、小さくベルを鳴らすように、優しく――静かに。