「ハナトラノオ」

基本情報
- 学名:Physostegia virginiana
- 分類:シソ科ハナトラノオ属(フィソステギア属)の多年草
- 原産地:北アメリカ東部
- 開花期:7〜9月頃(夏から初秋)
- 草丈:50〜100cmほど
- 花色:ピンク、白、淡紫など
- 和名の由来:花穂が虎の尾のようにまっすぐ立ち上がる姿から「花虎の尾」と呼ばれる。
ハナトラノオについて

特徴
- 花姿
穂状に並んで咲く唇形花。花は下から上へと順に咲き進み、全体が虎の尾のように見える。 - 性質
日当たりと水はけのよい場所を好み、丈夫で育てやすい。地下茎を伸ばして群生しやすいため、庭では繁殖力に注意が必要。 - 別名
「カクトラノオ(角虎の尾)」とも呼ばれる。
花言葉:「達成」

由来
ハナトラノオに「達成」という花言葉が与えられたのは、次のような特徴に基づきます。
- 花穂がまっすぐ伸びる姿
虎の尾のように力強く空へ向かって伸びる花穂が、「目標に向かって一直線に進む」姿を連想させる。 - 下から上へ順序よく咲く
花が一斉にではなく、下から順に積み重なるように咲いていく様子が、「段階を経て成果を収める=達成」に結びついた。 - 群生して見事な景観を作る
たくさんの花が揃って立ち上がる姿が「努力の結晶」「成し遂げた結果」を思わせる。
達成 ―ハナトラノオに寄せて―

夏の終わり、校庭の片隅にある花壇には、薄桃色の花穂がすらりと並んでいた。ハナトラノオ――まるで虎の尾のようにまっすぐ空へ伸びるその姿を、涼香は毎日のように眺めていた。
涼香は中学三年生。来週には最後の陸上大会を控えている。彼女の種目は1500メートル。入学以来ずっと挑み続けてきたが、一度も県大会への切符を手にしたことはなかった。走るたびにタイムは縮まった。努力は決して無駄ではなかったはずだ。それでもあと数秒が、どうしても埋まらない。

放課後、涼香は一人でトラックを走った。汗が頬を伝い、息が乱れ、足が重くなる。ふと目をやると、グラウンドの端に揺れるハナトラノオの群生が視界に入った。
――下から上へ順に咲いていくんだ。
去年、理科の先生がそう教えてくれたことを思い出す。積み重ねるように、焦らずに。
「努力って、意味あるのかな」
ぽつりとつぶやくと、ちょうど帰り道に差し掛かった顧問の先生が耳にした。
「おまえの走りは、ハナトラノオに似てる」
「……え?」

「真っ直ぐに、ひとつずつ重ねてきただろう。花が上へ伸びて咲くように、タイムもきっと積み重なっていく。最後までやり遂げてみろ」
その夜、涼香は机にノートを広げた。練習メニューの記録で埋まったページの最後に、先生の言葉を記した。――「ハナトラノオは達成の花」。
迎えた大会当日。スタートラインに立つと、胸が高鳴った。笛の音と同時に走り出す。最初の一周、呼吸を整える。二周目、ライバルの背中を必死に追う。三周目には足が鉛のように重くなり、視界がにじむ。

――一歩ずつ。下から上へ、順番に。
花の姿が頭に浮かぶ。積み重ねてきた練習の数だけ、自分の足は前へ進む。最後の直線、全身の力を振り絞った。
結果は、県大会出場ラインぎりぎりのタイム。涼香の名前が掲示板に載った瞬間、胸に熱いものが込み上げた。大きな歓声が響く中、彼女は花壇に視線を向けた。真っ直ぐに伸びたハナトラノオが、風に揺れていた。
涼香はそっと心の中でつぶやく。
――私は、やり遂げたんだ。
その花は、まるで祝福するかのように鮮やかに咲き誇っていた。