1月7日、11日の誕生花「セリ」

「セリ」

基本情報

  • 学名:Oenanthe javanica
  • 科名/属名:セリ科/セリ属
  • 分類:多年草
  • 原産地:日本全土、朝鮮、中国、ロシアインド、パキスタン、東南アジア
  • 開花時期:7~8月
  • 生育環境:湿地、水辺、田のあぜなど
  • 旬:春(特に早春)
  • 利用:食用(七草粥、和え物、鍋物など)

セリについて

特徴

  • 清らかな水辺に自生し、みずみずしい香りと歯切れのよい食感をもつ
  • 細く伸びた茎と、切れ込みのある明るい緑色の葉が特徴
  • 白く小さな花を多数咲かせ、可憐で目立たない姿
  • 強い生命力があり、地下茎で広がる
  • 香味野菜として古くから日本人の食文化に根付いている


花言葉:「清廉で高潔」

由来

  • 汚れた水では育たず、澄んだ環境を選んで生きる性質が、清らかな心を連想させた
  • 見た目は控えめでも、凛とした香りと姿勢を保つ様子が、高潔な生き方に重ねられた
  • 日常の中で人々の健康を支えてきた存在が、誠実で清廉な徳を象徴すると考えられた


「澄水(すみみず)のほとりで」

 春まだ浅い頃、村の外れを流れる小川は、冬の名残を抱えながらも静かに澄んでいた。山から引かれた水は冷たく、底の小石までくっきり見える。その流れに沿って、細く柔らかな緑が揺れている。セリだった。

 遥は久しぶりにその川辺に立っていた。都会での生活に疲れ、仕事を辞め、逃げるように戻ってきた故郷。ここには何も変わらないものがあると思っていたが、自分だけが変わってしまったような気がして、胸の奥がざわついていた。

 祖父は生前、この川をよく手入れしていた。ゴミを拾い、流れを整え、余計なものが溜まらないようにする。「水はな、正直なんだ」と祖父は言っていた。「汚れれば、育つものも育たん。澄んでいれば、ちゃんと命が応えてくれる」

 遥は子どもの頃、その言葉の意味がよく分からなかった。ただ、祖父と一緒に川に入って、足先が冷たくなるのを面白がり、摘み取ったセリの香りを嗅いで笑っていた。青く、少し苦く、鼻の奥に残る匂い。それは今でも記憶の底に、鮮やかに残っている。

 都会では、結果を出すことがすべてだった。多少の不正や妥協も、「仕方がない」の一言で流される。遥もいつの間にか、それに慣れていた。違和感を覚えながらも、声を上げることはなかった。その結果、心の中に濁りが溜まっていったことに、気づかないふりをしていた。

 川辺にしゃがみ込み、遥はセリに手を伸ばす。茎は細く、派手さはない。それでも、流れに逆らわず、凛と立っている。指で軽く触れると、清々しい香りが立ち上った。その瞬間、胸の奥にあった重たいものが、少しだけ和らいだ。

 「ここは、変わらないね」

 背後から声がして、遥は振り返った。近所に住む美代子だった。祖父が亡くなったあとも、この川を気にかけてくれている人だ。

 「セリが育ってるってことは、水がまだ大丈夫だって証拠よ」と美代子は言う。「正直な植物だからね。ごまかしがきかない」

 遥は小さく笑った。自分はどうだろう。ごまかしながら生きてきた自分は、どんな場所でなら、ちゃんと育てるのだろうか。

 その日、遥はセリを少しだけ摘んで帰った。夕飯に、おひたしにするためだ。派手な料理ではないが、体にすっと染み込む味。口に含んだ瞬間、子どもの頃の食卓と、祖父の背中が蘇った。

 翌日から、遥は毎朝川に通うようになった。水を見て、セリの様子を確かめ、ゴミがあれば拾う。誰に頼まれたわけでもない。ただ、自分の中の濁りを、少しずつ澄ませたかった。

 すぐに何かが変わるわけではない。それでも、セリは今日も同じ場所で、凛とした香りを放っている。控えめで、誠実で、清らかに。

 遥は思った。清廉で高潔な生き方とは、声高に正しさを主張することではないのかもしれない。澄んだ場所を選び、静かに根を張り、誰かの健康や暮らしを支えること。日常の中で、それを続けていくこと。

 夕暮れの川面に光が揺れる。セリは流れに身を任せながらも、確かにそこに在り続けていた。遥は深く息を吸い、胸いっぱいにその香りを取り込む。

 この場所のように、自分の心も、いつかまた澄んでいく。そう信じられるだけの静かな強さを、セリは何も言わずに教えてくれていた。

1月5日、11日の誕生花「ミスミソウ」

「ミスミソウ」

基本情報

  • 和名:ミスミソウ(三角草)/ユキワリソウ(雪割草)
  • 学名:Hepatica nobilis
  • 科名:キンポウゲ科
  • 分類:多年草
  • 開花時期:2月~5月(早春)
  • 原産地:日本(本州~九州)
  • 自生環境:落葉樹林の林床、山地の湿り気のある場所

ミスミソウについて

特徴

  • 雪が残る時期に地面すれすれで花を咲かせる早春の山野草
  • 葉が三つに裂けた形(三角形)をしていることが名前の由来
  • 花色は白・紫・青・ピンクなど変化が豊富
  • 花は晴れた日に開き、寒さや曇天では閉じる性質がある
  • 成長は非常にゆっくりで、開花までに数年かかることもある

花言葉:「忍耐」

由来

  • 厳しい寒さと雪に覆われた環境の中で、じっと春を待ち続ける姿から
  • 地上に出る時期が早い一方、成長は緩やかで長い時間を要する性質に由来
  • 林床の弱い光の中でも耐え、毎年確実に花を咲かせる生命力が重ね合わされた
  • 派手さはないが、静かに季節の訪れを告げる存在感が「耐え抜く強さ」を象徴した

「雪の下で待つ声」

その冬は、いつまでも終わらないように思えた。山あいの町に暮らす澪は、朝起きるたび、窓の外に広がる白い世界を見て同じ感情を抱く。寒さそのものよりも、「まだ続く」という感覚が、心を少しずつ削っていった。

 町役場で働く澪は、目立つ仕事を任されることはなかった。誰かの補佐、書類の整理、滞りなく進むように裏側を整える役目。必要だとは言われるが、評価される場面は少ない。同期が次々と異動や昇進の話を手にする中で、澪は足踏みをしているような気持ちを拭えずにいた。

 「焦らなくていい」

 祖母はそう言って、いつも同じ山道を散歩に誘った。雪が残る林の中は静かで、音といえば踏みしめる雪のきしむ音だけだった。

 「春になれば、ここに花が咲くのよ」

 祖母が指さしたのは、今は何もない地面だった。枯葉と雪に覆われ、命の気配は見えない。

 「何もないように見えてもね、下ではちゃんと待ってる」

 澪は曖昧に頷いた。待つことは、得意ではなかった。待つ時間は、不安が膨らむ時間でもあるからだ。

 それからしばらくして、雪解けが少し進んだある日、澪は一人でその道を歩いた。足元に、小さな色があることに気づく。しゃがみ込むと、薄紫の花が、枯葉の隙間から顔を出していた。

 ミスミソウだった。小さく、控えめで、派手さはない。それでも、凍えるような冬を越え、ここに咲いている。

 澪はしばらく動けなかった。誰に見られるわけでもなく、称えられるわけでもない場所で、ただ季節が来るのを信じて咲いた花。その姿は、どこか自分に重なって見えた。

 花はすぐに大きくはならない。成長は緩やかで、時間がかかる。それでも毎年、確実にこの場所で花を咲かせる。林床の弱い光の中で、耐えながら。

 澪は息を吸い込み、ゆっくり吐いた。焦りが消えたわけではない。ただ、少しだけ見方が変わった気がした。すぐに結果が出なくても、今は見えなくても、積み重ねた時間は確かに自分の中にある。

 数日後、職場でまた雑務を任されたとき、澪は黙って引き受けた。誰かが前に進むために必要な場所を整えること。それもまた、意味のある役目だと、今は思える。

 窓の外では、まだ風が冷たい。それでも、季節は確実に進んでいる。雪の下で、静かに春を待つものがあるように、自分の中にも、芽吹く準備をしている何かがあるはずだ。

 帰り道、澪は足元を見ながら歩いた。もしまたあの花に出会えたら、今度は迷わず立ち止まろうと思った。

 忍耐とは、耐え続けることではない。信じて待つことなのだと、ミスミソウは何も言わず、教えてくれていた。