1月8日、9日の誕生花「スミレ」

「スミレ」

基本情報

  • 学名:Viola mandshurica
  • 科名/属名:スミレ科/スミレ属
  • 分類:多年草(種類によっては一年草)
  • 原産地:日本列島、中国東北部から東部、朝鮮半島、ウスリー
  • 開花時期:4〜5月
  • 草丈:5〜15cm程度
  • 生育環境:野原、道端、林縁、庭先など

スミレについて

特徴

  • 地面に近い低い位置で、可憐な小花を咲かせる
  • 紫・白・黄など花色が豊富で、種類も非常に多い
  • 強い香りはないが、やさしく親しみやすい印象を与える
  • ひっそりとした場所でもたくましく育つ
  • 早春に咲き、季節の訪れを静かに知らせる花


花言葉:「小さな幸せ」

由来

  • 小ぶりな花を足元でそっと咲かせる姿が、日常の中のささやかな喜びを連想させた
  • 目立たない場所でも確かに存在し、見つけた人の心を和ませることから象徴された
  • 派手さはないが、ふと気づいたときに心を温める美しさが「小さな幸せ」に重ねられた


「足元に咲く灯り」

 駅から自宅までの道は、特別なものではない。商店街を抜け、古い公園の脇を通り、少し坂を上る。それだけの、毎日変わらない帰り道だ。恵はその日も、スマートフォンの画面から目を離さないまま歩いていた。仕事の連絡、未読の通知、明日の予定。頭の中は常に先のことで埋まっている。

 ふと、足先に柔らかな違和感を覚え、恵は立ち止まった。舗道の端、コンクリートの隙間に、小さな紫色が見えた。しゃがみ込むと、それはスミレだった。背の低い花が、地面すれすれに、控えめに咲いている。踏まれそうな場所なのに、ちゃんとそこに在った。

 「こんなところに……」

 思わず声が漏れる。花は風に揺れても、こちらを見上げることはない。ただ、静かに、変わらぬ姿で咲いている。その小ささに、恵は胸の奥が少しだけ緩むのを感じた。

 最近、恵は「幸せ」という言葉が遠くなっていた。昇進もしたし、給料も上がった。周囲から見れば、順調そのものだ。それでも、満たされた実感は薄い。何かが足りない気がして、けれどそれが何なのか分からない。大きな目標ばかりを追いかけて、足元を見る余裕を失っていた。

 幼い頃、祖母と散歩をすると、祖母はよく立ち止まった。道端の草花を見つけては、「ほら、可愛いね」と微笑む。そのたび、恵は早く先へ行きたくて、手を引いたものだ。あの頃は、なぜ立ち止まるのか分からなかった。

 今、目の前のスミレは、まさに祖母が好きだった花だった。目立たない場所で、誰に褒められるわけでもなく、ただ咲く。その姿を見つけた人だけが、少しだけ得をする。そんな花。

 恵は写真を撮ろうとして、やめた。画面越しに残すより、今この瞬間を胸にしまいたかった。代わりに、深く息を吸う。春の空気はまだ冷たいが、どこか柔らかい。小さな花が、確かに季節を告げている。

 立ち上がると、いつもの道が少し違って見えた。公園の木の芽、店先の鉢植え、遠くの空の色。今まで見えていなかったものが、ゆっくりと浮かび上がる。

 幸せは、きっと大きな出来事だけではない。足元に咲く花に気づけること。少し立ち止まれること。その瞬間に、心が温まること。

 恵は歩き出した。スミレを踏まないよう、ほんの少しだけ進路を変えて。明日もまた、忙しい一日が始まるだろう。それでも、あの花を思い出せば、心はきっと軽くなる。

 足元に咲く、小さな幸せ。それは、いつもそこにあったのだ。気づかれるのを、静かに待ちながら。

12月24日、1月9日の誕生花「ノースポール」

「ノースポール」

基本情報

  • 和名:ノースポール
  • 別名:クリサンセマム・パルドサム
  • 学名Leucanthemum paludosum(Chrysanthemum paludosum)
  • 科名/属名:キク科/レウカンセマム属
  • 原産地:北アフリカ
  • 開花時期:12月〜5月(冬〜春)
  • 花色:白(中心は黄色)
  • 草丈:20〜40cm
  • 分類:一年草
  • 用途:花壇、鉢植え、寄せ植え

ノースポールについて

特徴

  • 白と黄色のコントラストが鮮やか
    清楚な白い花弁と、明るい黄色の花芯が印象的で、遠くからでもよく目立つ。
  • 寒さに強く、長く咲き続ける
    冬の寒さに耐え、霜にも比較的強いため、花の少ない季節にも庭を明るくする。
  • 手入れが簡単で育てやすい
    丈夫で病害虫にも強く、ガーデニング初心者にも向く。
  • 次々と花を咲かせる性質
    一輪が終わってもすぐに新しい花をつけ、全体として長期間花壇を彩る。
  • 控えめだが親しみやすい姿
    派手さはないが、整った形と素直な咲き方が安心感を与える。

花言葉:「誠実」

由来

  • まっすぐで素直な花姿から
    花弁が均等に並び、歪みのない姿が、嘘や飾りのない心=誠実さを連想させた。
  • 環境に左右されず咲き続ける性質
    寒さや多少の悪条件でも、変わらず花を咲かせる様子が「一貫した心」「裏切らない姿勢」を象徴している。
  • 長い開花期が示す信頼感
    派手に咲いてすぐ散るのではなく、静かに、しかし長く咲き続けることが、継続する誠意や信頼につながった。
  • 白い花色の象徴性
    白は純粋さ・正直さを表す色とされ、ノースポールの印象と重なり「誠実」という花言葉が与えられた。

「白は、嘘をつかない」

冬の朝、真帆はマンションのエントランス横に並ぶ花壇の前で、ほんの数秒だけ足を止める。白い小さな花が、寒風に揺れながらも整った形を崩さずに咲いていた。ノースポールだ、と彼女は名前を知っているわけでもないのに、なぜか心の中でそう呼んでいた。

 花弁は均等で、中心の黄色を囲むようにまっすぐ並んでいる。華美な色でも、甘い香りでもない。それなのに、毎朝目に入るたび、少しだけ胸が落ち着いた。

 真帆は、嘘が苦手だった。
 正確には、嘘をつかずに生きることが、年々難しくなっていると感じていた。

 職場では、空気を読むことが最優先される。曖昧な返事、濁した言葉、賛成でも反対でもない表情。それらを使いこなせる人ほど「大人」と呼ばれ、評価される。真帆はそれができなかった。
 正直に言えば角が立ち、黙れば誤解される。誠実でいようとするほど、不器用さだけが目立った。

 ある日、会議で提出された企画案に、真帆は違和感を覚えた。数字の整合性が取れていない。見栄えはいいが、実行すれば現場が疲弊する。
 言うべきか、黙るべきか。
 迷っている間に、会議は終わった。

 その夜、帰宅途中で花壇の前に立ち止まった。
 ノースポールは、相変わらず同じ姿で咲いている。寒さのせいで他の花が弱っている中、白い花弁は歪まず、欠けもせず、淡々とそこにあった。

 派手に自己主張するわけでもない。
 だが、昨日と同じ姿で、今日も咲いている。

 「……ずるいな」

 真帆は小さく息を吐いた。
 変わらずにいることが、こんなにも強いなんて。

 翌朝、彼女は会議室で手を挙げた。
 声は震えた。視線が集まるのが怖かった。それでも、事実だけを、飾らずに伝えた。感情は抑え、数字と現場の状況を淡々と。

 一瞬、空気が止まった。
 だが、誰かがうなずき、別の誰かが補足を加え、議論が生まれた。最終的に企画は修正され、より現実的な形に落ち着いた。

 評価がどうなるかは分からない。
 それでも、真帆の胸には、奇妙な軽さがあった。

 帰り道、花壇の前でまた足を止める。
 ノースポールは、やはり白いままだった。
 風に揺れても、形は崩れない。昨日と同じように、今日も咲き続けている。

 誠実とは、派手な正しさではない。
 誰かに認められるための姿勢でもない。
 たぶんそれは、自分の中で一度決めた「嘘をつかない」という約束を、何度も、何日も、裏切らずに守り続けること。

 白は、嘘をつかない。
 汚れやすいからこそ、誤魔化しがきかない。

 真帆は小さく微笑み、再び歩き出した。
 明日も、同じ花が咲いているだろう。
 そして自分もまた、同じ心でいられたらいい。

 ノースポールは何も語らない。
 それでも、その静かな白は、今日も変わらず、誠実だった。