8月3日、11月5日の誕生花「マツバボタン」

「マツバボタン」

基本情報

  • 学名Portulaca grandiflora
  • 科名:スベリヒユ科(Portulacaceae)
  • 原産地:南アメリカ(ブラジル、ウルグアイ、アルゼンチンなど)
  • 分類:一年草
  • 開花期:6月~9月(夏の間ずっと咲き続ける)
  • 花色:赤、ピンク、オレンジ、黄色、白、複色など
  • 草丈:10〜20cmほどの小型
  • 別名:ヒデリソウ(日照り草)

マツバボタンについて

特徴

◎ 松葉のような細長い葉

マツバボタンの名前の由来は、松の葉のように細くて多肉質な葉の形状によるものです。乾燥に強く、水やりが少なくてもよく育つ点も魅力です。

◎ 日光が大好きな「ヒデリソウ」

別名の「ヒデリソウ」は、太陽の光を受けて初めて花を開く性質に由来します。曇りや雨の日には花が閉じてしまうほど、日差しが大切な植物です。

◎ カラフルで豊富な花色

花は直径3〜5cmほどで、重なり合う花びらが美しく、ビビッドで豊富な色彩が特徴です。八重咲きや一重咲きなど、園芸品種も多くあります。


花言葉:「可憐」

◎ 小さく控えめな美しさ

マツバボタンは、背丈も低く、花も小ぶりでありながらも、その色彩や形は非常に美しく、儚げで魅力的です。この「小さな体に宿る美しさ」が、「可憐」という花言葉につながっています。

◎ 強さと繊細さの共存

炎天下でも咲き続けるたくましさを持ちながら、花の姿はどこか繊細で愛らしい――そのアンバランスな魅力が、「可憐」という言葉にぴったりなのです。


「陽だまりのマツバボタン」

その夏、祖母の家の庭は、色とりどりのマツバボタンで埋め尽くされていた。
 背丈の低いその花たちは、地面を這うように広がり、まるで小さな陽だまりが無数に散らばっているようだった。

 「この花はね、朝の光がないと咲かないんだよ」

 小学生の頃、祖母がそう教えてくれたのを思い出す。朝、カーテンを開けると、昨日まで緑だけだった土の上に、いきなり鮮やかな赤やピンクが顔を出していて、不思議でしょうがなかった。どうして昨日は咲いてなかったのに、今日はこんなにきれいなんだろう、と。

 それから十数年の月日が流れた。祖母が亡くなってから、家は長く無人になっていたけれど、この春、私は思い切って都会の仕事を辞めて、戻ってきた。理由はうまく言葉にできない。ただ、あの庭をもう一度見たかった――それだけだった気がする。

 六月の終わり。雑草を抜き、石をどけ、柔らかくなった土にマツバボタンの種を蒔いた。
 朝早く水をやり、昼間は少しずつ部屋の片づけをした。誰にも急かされず、誰にも認められず、ただ植物と向き合う毎日。けれど、不思議と心は静かだった。

 そして七月の半ば、最初の花が咲いた。
 目をこらさなければ見落としてしまうほど小さな花。けれど、朝日に透けるように咲くその姿は、あまりにも美しかった。花びらの縁がほんの少し波打ち、中心へ向かって柔らかく色がにじむ――まるで何かをそっと語りかけるような、静かな輝きだった。

 ふと、祖母の言葉が蘇る。

 「小さくても、ちゃんと咲いてる。それだけで、えらいよね」

 子どもの頃にはわからなかったその言葉が、今はまっすぐ胸に届く。
 マツバボタンは可憐だった。ひたむきで、健気で、そして強い。雨の翌日は咲かず、曇りの日も静かに閉じている。けれど、晴れた朝には決して遅れず、変わらぬ美しさを見せてくれる。

 そんな花を、私は今まで気づかないうちに見過ごしてきたのかもしれない。
 誰かに評価されることばかり気にして、大きく咲くことばかりを目指していた。でも、見下ろせば足元にも、こんなに健気な命があったのだ。ちゃんと咲いている花が、こんなにもそばに。

 夕方、花はそっとしぼみ始める。まるで「今日はこれでおしまい」とつぶやくように、静かに。

 私はしゃがみこみ、咲き終わった花に向かって小さく声をかけた。

 「今日も、きれいだったよ」

 日が傾いてゆく。
 明日もまた、あの小さな花たちは、変わらずに咲いてくれるだろう。

 そのことが、今はただ、嬉しい。

6月26日、9月16日、11月5日の誕生花「ペンタス」

「ペンタス」

Bishnu SarangiによるPixabayからの画像

基本情報

  • 学名:Pentas lanceolata
  • 和名:クササンタンカ(草山丹花)、別名:エジプシャンスター(Egyptian Star Flower/Star Cluster)
  • 科属:アカネ科・ペンタス属
  • 原産地:熱帯東アフリカ〜アラビア半島(イエメンなど)
  • 分布:一年草として一般的だが、霜の降りない温暖地(USDAゾーン10~11)では多年草

ペンタスについて

hartono subagioによるPixabayからの画像

特徴

  • 花の形・色:径1〜2cmの星型咲きの花が散房状(半球形)に密集。赤・ピンク・白・紫・ラベンダーなどバリエーション豊富で、バイカラーや八重咲きもある
  • 草丈・大きさ:草丈30〜80cm(種苗改良品種では矮性で30cmほど)。原種では最大で高さ1.5mになることもある
  • 育ちやすさ:日当たりと水はけの良い場所を好み、夏の暑さや乾燥に強く、病害虫にも比較的強い
  • 花期:5〜10月頃まで長時間咲き続け、連続開花性が高く、切り戻しや花がら摘みをするとさらに長持ち
  • 魅力:蝶やハチ、ハチドリなどの花粉媒介者を引き寄せ、ガーデニングや寄せ植えに人気

花言葉:「希望が叶う」

ペンタスの花姿が「星が集まったよう」に見えることから、願い事を星に託すイメージと重なり、「希望が叶う」「願い事」という花言葉になったとされています

学名の “pentas” はギリシャ語の「5(pente)」に由来し、花びらが5枚であることに由来。星形に見えること、規則正しい花姿から「調和」「願い」「希望」という象徴性も評価されています


「星を集める庭」

Bishnu SarangiによるPixabayからの画像

「おばあちゃん、この花の名前、なあに?」

少女が指差したのは、小さな鉢に咲いた星のような赤い花だった。

「それはね、ペンタスって言うの。五枚の花びらが集まって、まるで夜空の星みたいでしょう?」

陽の傾き始めた夕方、小さな花屋の奥で、祖母はいつものように穏やかに笑った。

夏休みの間、花屋に預けられていた美羽は、最初こそ退屈で仕方なかったけれど、次第に店の一角の小さな花壇が気に入りはじめていた。

「この花、願い事が叶うんだって」

「ほんとに?」

「ほんとよ。昔の人は、夜空の星に願いを託してたでしょ? この花はね、まるでその星が地上に降りてきたみたいだから。だから、“希望が叶う”って花言葉がついたの」

美羽は小さく頷いた。家では両親がいつも忙しそうで、まともに話すことも少なかった。自分の気持ちを話しても、いつも「あとでね」で終わってしまう。

でも、ここにいると、誰かが耳を傾けてくれるような気がした。

「願いごと、してもいい?」

「もちろん」

少女は両手をそっとペンタスの鉢に添えた。そして、目を閉じてつぶやいた。

「また、家族みんなで夕ご飯を食べられますように」

静かな風が吹いた。葉が揺れて、ペンタスの花もわずかに震えた。

それから数日、美羽は毎日その鉢を世話し、水をやり、咲いた花を数えては笑った。

夏休みの最後の日、母が迎えに来た。花屋の前で、美羽は一鉢のペンタスを抱えていた。

「おばあちゃん、この花、持って帰ってもいい?」

「いいわよ。あんたの願いが詰まってるんだもの」

家に戻ってすぐ、美羽は食卓の真ん中にその鉢を置いた。夕方、珍しく父も母も時間通りに帰ってきて、揃って食卓に座った。

「……なんか、久しぶりだね、こうやって食べるの」

母が笑って言った。

「うん。なんか、星が降ってきたみたい」

美羽の視線の先には、小さな星たちが咲くペンタスの花があった。

その夜、窓の外を見上げると、本物の星空が広がっていた。けれど、美羽はもう空に願いをかける必要はなかった。

彼女の願いは、もうそこに咲いていた。

5月8日、11月5日の誕生花「マツバギク」

「マツバギク」

manseok KimによるPixabayからの画像

■ 基本情報

  • 和名:マツバギク(松葉菊)
  • 学名:Lampranthus、Delospermaなど(複数の種が「マツバギク」と呼ばれます)
  • 科名:ハマミズナ科(ツルナ科とも)
  • 原産地:南アフリカ
  • 形態:多年草(常緑の多肉植物)
  • 花期:4月~5月(ランプランサス属)、6月~10月(デロスペルマ属)

マツバギクについて

manseok KimによるPixabayからの画像

■ 特徴

  • :名前のとおり、松葉のように細長く、肉厚な多肉質の葉が特徴です。
  • :デイジーに似た形の鮮やかな花を咲かせます。ピンク、紫、オレンジ、白などカラーバリエーションが豊富です。
  • 性質:非常に乾燥に強く、日当たりの良い場所を好みます。砂利地やロックガーデン、斜面の地被植物として使われることも多いです。
  • 育てやすさ:耐寒性・耐暑性ともに強く、放っておいても育つほど丈夫です。

花言葉:「心広い愛情」

manseok KimによるPixabayからの画像

マツバギクの花言葉「心広い愛情」は、以下のような特徴に由来していると考えられます。

  • 咲き誇る花の姿:マツバギクは小さな株でもたくさんの花を一斉に咲かせ、周囲を明るく彩ります。その様子が、見返りを求めず広く愛を与える姿に例えられています。
  • 丈夫で世話いらずな性格:乾燥や過酷な環境でもよく育ち、周囲の環境に順応する懐の深さが「心の広さ」に通じます。
  • 長い開花期間:春から秋にかけて長く花を咲かせ続ける姿は、尽きることのない愛情の象徴とされています。

「ひとひらの広がり」

manseok KimによるPixabayからの画像

真夏の陽射しがじりじりとアスファルトを焼いていた。古びた団地の一角、小さな庭に咲く鮮やかな紫の花が、ひときわ目を引いた。雑草の間から溢れるように顔をのぞかせているその花は、マツバギク。誰が世話をしているのかも分からないまま、毎年この季節になると律儀に咲き、住民たちの目を楽しませていた。

七十を越えた昌子さんは、その花に誰よりも親しみを感じていた。

「今年もよう咲いたねえ」

と、水をやるふりをしながらマツバギクに語りかけるのが日課だ。かつては手入れをする人もいたが、今はもう姿を見せない。だけど不思議なことに、誰にも手をかけられなくなってからの方が、この花は元気に咲くようになった気がする。

昌子さんには息子が一人いた。若い頃に家を出てから音沙汰もなく、最後に会ったのはもう二十年以上前だ。電話も手紙も来ない。はじめの数年は泣いたが、今はもう泣くこともない。ただ、彼が子どもの頃に「お母さんの花だね」と言ったこのマツバギクだけが、記憶のなかで彼とつながる唯一のものだった。

「花はいいね。誰かに見てほしいって思ってるわけじゃないのに、こんなに咲いて」

ある日、団地の隣に引っ越してきた若い母親が、小さな女の子の手を引いて花の前で足を止めた。

「きれいねえ、この花。ママ、これなんて名前?」

「ええっとね、たしか……マツバギク、って言うのよ」

その声に驚いて振り返ると、母親は少し照れながら会釈をした。

「すみません、勝手に見させてもらって……うちの子、この花が気に入ったみたいで」

「いいのよ。この花はね、見る人の心を明るくするの」

「本当に、そうですね。なんだか元気が出ます」

その日から、親子は毎日のように花の前に来て、にこにこと話すようになった。ある日、女の子が昌子さんに小さな絵を渡してくれた。そこにはマツバギクと、「おばあちゃん、ありがとう」の文字。

「ありがとうって、何が?」

「いつも、花、きれいにしてくれてるから」

昌子さんは笑った。

「この子ね、自分で育ってるのよ。誰にも文句言わず、文句言われず、ただ、咲くの。……あなたも、そうやって咲けばいいよ」

日が傾くなかで、マツバギクの花びらが夕陽に透けて光っていた。

そしてその夜、玄関先に一通の手紙が届いた。差出人は、あの息子からだった。

「母さん、元気ですか。ずっと連絡できなくてごめんなさい。最近、娘ができました。マツバギクを見るたび、あなたを思い出します——」

昌子さんは、そっと手紙を胸に当てた。涙は出なかった。ただ、胸の奥が、じんわりとあたたかかった。

花は、見返りを求めず咲き続ける。誰かがそれに気づき、受け取ったとき、広い愛情は静かに、しかし確かに伝わるのだ。

まるで——マツバギクのように。