12月28日の誕生花「ミカン」

「ミカン」

基本情報

  • 学名:Citrus unshiu(ウンシュウミカン)、C.reticulate(ポンカン)、C.kinokuni(キシュウミカン)
  • 分類:ミカン科 ミカン属
  • その他の名前:温州みかん、紀州みかん、ポンカン、クネンボ(九年母)、タチバナ(橘)、コウジ(柑子)
  • 原産地:中国南部〜インド北東部
  • 開花時期:5月上旬~中旬
  • 収穫時期:10〜2月(品種による)
  • 花色:白
  • 用途:果樹、観賞用(花)、食用

ミカンについて

特徴

  • 丸く小ぶりな果実で、手で簡単に皮をむける
  • 甘酸っぱく親しみやすい味わい
  • 白い小花は可憐で、爽やかでやさしい香りを放つ
  • 果実・花・葉のすべてに温かみのある印象がある
  • 日本の風土や暮らしに深く根付いた果樹

花言葉:「愛らしさ」

由来

  • 小さく可憐な白い花姿が、素朴で無垢な可愛らしさを連想させた
  • 強く主張しないが、近づくと甘くやさしい香りを放つ点が、慎ましい魅力として捉えられた
  • 丸くころんとした果実の形が、親しみやすく微笑ましい印象を与える
  • 子どもから大人まで愛される果物であることから、「誰からも好かれる可愛さ」を象徴
  • 日常に寄り添う存在としての温もりが、「愛らしさ」という花言葉につながった

「陽だまりの中の、やさしい丸」

庭にミカンの木がある家で育った人は、きっとその記憶を忘れない。
 春になると、白くて小さな花がひっそりと咲き、近づいた人だけに、甘くやさしい香りをそっと分けてくれる。主張はしないのに、気づけば心に残る――そんな花だ。

 紬は、祖母の家に久しぶりに帰ってきていた。
 玄関を開けると、変わらない土の匂いと、どこか懐かしい静けさが迎えてくれる。

 「裏のミカン、今年も咲いたよ」

 祖母はそう言って、ゆっくりと庭へ案内した。
 枝先には、指先ほどの白い花がいくつも集まっている。派手さはない。でも、風が吹いた瞬間、空気がふわりと甘くなる。

 「相変わらず、控えめな花だね」

 紬がそう言うと、祖母は小さく笑った。

 「でもね、こういう子ほど、近くにいると可愛いもんよ」

 確かに、離れて見れば目立たない。けれど、しゃがみ込んで覗き込むと、花びらの白さや中心の淡い黄色がとても愛らしい。
 自分から目立とうとしないのに、気づいた人の心をそっと掴んで離さない。

 紬は、都会での生活を思い出していた。
 成果を出すこと、声を上げること、存在を示すこと。いつの間にか、それが当たり前になっていた。
 静かにしていると、置いていかれるような気がして。

 「昔はね、冬になると、このミカンをこたつで食べたの」

 祖母は木を見上げながら言った。

 「丸くて、ころんとしてて。特別じゃないけど、みんなが自然と手を伸ばす。あれも、この木の可愛さだと思うのよ」

 紬は頷いた。
 ミカンは、誰かに誇る果物ではない。
 でも、子どもから大人まで、気づけば笑顔になっている。

 それは、無理をしない可愛さ。
 背伸びをしない魅力。

 「ねえ、おばあちゃん。可愛いって、なんだと思う?」

 ふと浮かんだ問いを、紬は口にした。

 祖母は少し考え、それから庭を見渡した。

 「誰かの生活に、自然に溶け込めることじゃないかしら」

 その言葉に、胸の奥が静かに温かくなった。

 ミカンの花は、誰かに見せるために咲いているわけではない。
 ただ、季節が巡れば咲き、香りを放ち、実を結ぶ。
 その当たり前が、人の心に寄り添う。

 紬は枝にそっと触れた。
 花は小さく、壊れそうなのに、そこには確かな生命があった。

 「愛らしい、ってこういうことかもしれないね」

 思わずこぼれた言葉に、祖母は何も言わず、ただ微笑んだ。

 夕方、庭に差し込む光の中で、白い花はほとんど目立たなくなっていた。
 それでも、紬は確かに感じていた。
 日常の中で、気づけばそばにある温もりを。

 派手でなくてもいい。
 誰かの心をそっと和ませる存在でいられたなら。

 ミカンの花は、今日も静かに咲いている。
 誰からも好かれる理由を、声に出さずに抱えたまま。