12月31日の誕生花「ユズ」(柚子)

「ユズ」(柚子)

基本情報

  • 学名:Citrus junos
  • 科名/属名:ミカン科/ミカン属
  • 分類:常緑小高木
  • 原産地:中国中部〜チベット周辺(日本へは古くに伝来)
  • 開花時期:5〜6月
  • 結実時期:10〜12月
  • 用途:果実利用(料理・香味料・入浴)、庭木、鑑賞用

「ユズ」(柚子)について

特徴

  • 白く小さな花を咲かせ、強く清々しい香りを放つ
  • 果実は酸味が強く、独特の芳香がある
  • 寒さに比較的強く、日本の気候に適応しやすい
  • 実・皮・種まで幅広く利用でき、無駄が少ない
  • 古くから食文化や季節行事(冬至の柚子湯)に深く結びついている

花言葉:「永遠の美」

由来

  • 常緑樹で一年を通して葉を落とさず、変わらぬ姿を保つことから連想
  • 花・実・香りが季節を越えて人々の生活に寄り添い続けてきた歴史が象徴
  • 派手さはないが、長く愛され続ける存在感が「時を超える美しさ」と重ねられた

「変わらない香り」

祖母の家の庭には、一本のユズの木があった。背は高くないが、幹は太く、葉は一年中深い緑を保っている。春には白い小さな花を咲かせ、夏には青い実をつけ、冬になると黄金色に熟す。その姿は、季節が移ろっても、どこか変わらない。

 真理は久しぶりに帰省し、縁側からその木を眺めていた。仕事に追われ、生活は目まぐるしく変わるのに、ここだけは時間がゆっくり流れているようだった。祖母はもういない。それでも、ユズの木は同じ場所に立ち、同じように風を受けている。

 「変わらないって、不思議だね」

 思わず口にすると、答える人はいない。だが、葉の擦れる音が、静かに応えた気がした。

 祖母はよく言っていた。「美しさってね、新しいものだけじゃないよ。ずっとそこにあるものにも、ちゃんと宿るんだから」。その言葉の意味を、真理は当時、深く考えたことがなかった。流行の服や、最新の話題、更新され続ける価値観。変わることこそが前に進むことだと、信じていた。

 しかし今、仕事で成果を求められ、結果が出なければ存在を疑われる日々の中で、真理は疲れていた。変わり続けることは、時に自分をすり減らす。何が本当に大切なのか、分からなくなっていた。

 庭に降りると、ユズの木の下に、いくつか実が落ちている。手に取ると、皮に触れただけで、懐かしい香りが広がった。幼い頃、冬至の夜にユズを浮かべた風呂。湯気の中で祖母が笑い、寒さが嘘のように和らいだ記憶。香りは、時間を越えて、その情景を鮮やかに蘇らせる。

 花も、実も、香りも。ユズは形を変えながら、いつも人の暮らしのそばにあった。目立つ存在ではないが、なくなると寂しい。長い年月、人々に寄り添い続けてきた理由が、少し分かった気がした。

 真理は、ポケットからスマートフォンを取り出し、画面を消したまま握りしめた。通知や数字から離れ、ただ香りに身を委ねる。変わらないものがあるからこそ、人は変わっていけるのかもしれない。軸となる何かがあるから、新しい季節を迎えられる。

 夕暮れが庭を包む。常緑の葉は、薄暗がりの中でも色を失わない。派手ではないが、確かな存在感。時を超えて、そこに在り続ける美しさ。

 真理は実を一つ、そっと木の根元に戻した。明日、また新しい日々へ戻るとしても、この香りは胸の奥に残るだろう。変わらないものが、確かにここにある。その事実が、静かな勇気を与えてくれた。

 ユズの木は、何も語らない。ただ、いつもと同じように風に揺れ、季節を受け止めていた。永遠の美とは、きっとこういうものなのだと、真理は思った。