6月22日の誕生花「ガマズミ」

「ガマズミ」

基本情報

  • 学名:Viburnum
  • 科名:レンプクソウ科(旧分類ではスイカズラ科)
  • 原産地:日本、中国、朝鮮半島
  • 分類:落葉低木
  • 開花時期:5~6月
  • 花色:白
  • 実の観賞時期:秋~冬
  • 実の色:鮮やかな赤色
  • 樹高:2~4m程度
  • 山野や里山に自生し、庭木としても利用される

ガマズミについて

特徴

  • 初夏に小さな白い花を枝先にまとまって咲かせる
  • 秋になると赤く美しい実をたくさん付ける
  • 花・葉・実の三つの季節の変化を楽しめる
  • 実は冬まで残ることがあり、野鳥の食料にもなる
  • 日本の自然風景によくなじむ素朴な美しさを持つ
  • 丈夫で育てやすく、庭木や生垣にも利用される
  • 秋には葉が赤く色づき、美しい紅葉も楽しめる


花言葉:「結合」

由来

  • 小さな白い花が枝先で密集して咲く様子が、人々が寄り添い結び付いている姿を連想させることから。
  • 秋に実がひとかたまりとなって赤く実る様子が、強い絆や団結を象徴しているため。
  • 多くの花や実が互いに支え合うように集まる姿が、人と人との結び付きや協力を表していることから。
  • 山野で他の植物や生き物と共存しながら育つ性質が、調和やつながりを連想させるため。
  • 家族や仲間との絆、心と心を結び合わせる象徴として、「結合」という花言葉が付けられた。


「赤い実がつなぐもの」

 秋の風が吹いていた。

 山あいの小さな町は、紅葉の色にゆっくり染まり始めている。

 健太は駅から続く坂道を歩いていた。

 十年ぶりの帰郷だった。

 都会で働き始めてから、故郷へ帰る機会はほとんどなかった。

 仕事が忙しい。

 そんな理由を並べていたが、本当は別の理由があった。

 父との確執だった。

 高校卒業後、健太は地元を離れた。

 父は家業の工務店を継いでほしいと願っていたが、健太は建築デザインの仕事を目指して上京した。

 その日以来、二人はまともに話していない。

 電話をしても用件だけ。

 帰省しても会話は数分。

 気まずさだけが年月とともに積み重なっていた。

 そんな父が倒れた。

 大事には至らなかったが、母から連絡を受けた健太は久しぶりに帰る決心をしたのだった。

 実家へ向かう途中、小さな神社の前で足を止める。

 子どもの頃によく遊んだ場所だった。

 境内の脇には一本のガマズミが立っていた。

 鮮やかな赤い実を枝いっぱいに実らせている。

 懐かしい景色だった。

 「まだあったんだな……」

 思わず呟く。

 すると後ろから声が聞こえた。

 「その木、覚えとるか?」

 振り返ると、神社の宮司を務める老齢の男性が立っていた。

 子どもの頃から世話になっていた人だった。

 「覚えてます。昔からありましたよね」

 「おう。毎年よう実を付ける」

 老人は赤い実を見上げる。

 「ガマズミの花言葉は知っとるか?」

 健太は首を振った。

 「結合じゃ」

 「結合?」

 「人と人を結ぶという意味だ」

 老人は枝先を指差した。

 そこには無数の赤い実が寄り添うように集まっていた。

 「春には白い花がたくさん集まって咲く。秋にはこうして実がまとまる。だから昔から縁や絆の象徴とも言われとる」

 健太は静かに頷いた。

 赤い実は確かに支え合うように並んでいた。

 どれ一つ離れずに。

 どれ一つ孤立せずに。

 まるで家族のようだった。

 実家に着くと、父は居間で新聞を読んでいた。

 少し痩せたように見える。

 だが相変わらず無口だった。

 「帰ったか」

 「うん」

 それだけだった。

 母だけが嬉しそうに台所を行き来している。

 夕食の時間になっても会話は少なかった。

 健太は落ち着かない気持ちで箸を動かした。

 翌日。

 父は工務店の作業場へ向かった。

 まだ完全には回復していないはずなのに。

 健太は心配になり、後を追った。

 作業場では父が若い職人たちに指示を出していた。

 皆が慕っているのが分かる。

 厳しいが信頼されている。

 そんな姿だった。

 仕事を終えた帰り道。

 二人は並んで歩いた。

 久しぶりだった。

 しかし会話はない。

 沈黙だけが続く。

 やがて父が口を開いた。

 「東京はどうだ」

 「忙しいよ」

 「そうか」

 また沈黙。

 けれど以前より少しだけ違った。

 父が話しかけてくれたことが嬉しかった。

 数日後。

 母が古いアルバムを持ち出してきた。

 そこには幼い頃の写真がたくさんあった。

 運動会。

 夏祭り。

 釣り。

 キャンプ。

 どの写真にも父がいた。

 厳しい顔ではなく、笑っている父が。

 健太は驚いた。

 いつの間に忘れていたのだろう。

 父が自分を大切にしてくれていたことを。

 ある夕方。

 健太は再び神社へ向かった。

 ガマズミの赤い実が夕日に照らされている。

 老人が境内を掃除していた。

 「どうじゃ、久しぶりの故郷は」

 「いろいろ考えさせられます」

 老人は笑った。

 「ガマズミはな、花も実も集まって咲く」

 健太は木を見上げる。

 風が吹き、実が揺れた。

 「一つではないから強いんじゃ」

 その言葉が胸に残った。

 人も同じなのかもしれない。

 一人で生きているつもりでも、本当は違う。

 家族がいる。

 仲間がいる。

 支えてくれる人がいる。

 だから前へ進める。

 その夜。

 健太は思い切って父に声をかけた。

 「親父」

 父が顔を上げる。

 「今まで……ありがとう」

 父は少し驚いた顔をした。

 そして照れくさそうに笑った。

 「急にどうした」

 「なんとなく」

 しばらく沈黙が続いた。

 やがて父が静かに言う。

 「お前が好きな道を選んだこと、後悔しとらん」

 健太は目を見開いた。

 「え?」

 「最初は反対した。けどな、お前が頑張っとることは知っとる」

 父は窓の外を見た。

 「立派になったな」

 その一言で十分だった。

 胸の奥に長年溜まっていたものが溶けていく。

 父もまた、不器用だったのだ。

 伝え方が分からなかっただけで。

 翌朝。

 空はよく晴れていた。

 帰京するため駅へ向かう途中、健太は再びガマズミの前で立ち止まった。

 赤い実が朝日に輝いている。

 小さな実たちは寄り添いながら一つの房を作っていた。

 誰かとつながること。

 支え合うこと。

 心を結び合わせること。

 それは決して当たり前ではない。

 だからこそ尊いのだろう。

 ガマズミが「結合」という花言葉を持つ理由が、今なら分かる気がした。

 春には無数の白い花が集まって咲く。

 秋には赤い実が寄り添って実る。

 山野では鳥や虫たちと共に生きる。

 その姿は、人と人との絆そのものだった。

 家族。

 友人。

 仲間。

 離れていても消えないつながり。

 時間が過ぎても失われない心の結び付き。

 健太は赤い実を見つめながら微笑んだ。

 風が吹く。

 ガマズミの枝が揺れる。

 まるで祝福するように。

 そして彼は歩き出した。

 今度は一人ではない。

 目には見えなくても、たくさんの絆に支えられながら。

 赤い実が結ぶ想いを胸に抱いて。