7月13日の誕生花「ホテイアオイ」

「ホテイアオイ」

基本情報

  • 学名Eichhornia crassipes
  • 分類:ミズアオイ科ホテイアオイ属
  • 原産地:南アメリカ(ブラジル・アマゾン流域)
  • 開花期:夏(6月〜11月頃)
  • 生育環境:池、沼、水田、ビオトープなどの淡水中
  • 別名:ウォーターヒヤシンス、ウォーターポピー
  • 草丈:10〜30cm程度(浮遊性の多年草)

ホテイアオイについて

特徴

  1. ぷっくりとした浮き袋状の葉柄
     葉の根元がふくらんでいて、まるで「布袋様(ほていさま)」のお腹のように見えることが和名の由来。水に浮かぶことができる秘密はここにあります。
  2. 淡紫色の美しい花
     ヒヤシンスに似た6弁の花を咲かせます。中心部の花弁には黄色の斑点があり、観賞価値が高いです。
  3. 急速な繁殖力
     株分けによって爆発的に増える性質があり、条件が整うと水面を覆いつくすほど繁茂します。一方で、生態系への影響が懸念され、侵略的外来種として問題になることも。
  4. ビオトープやメダカ飼育に人気
     水質浄化能力があり、水中の窒素やリンを吸収することから、観賞だけでなく環境整備にも使われます。

花言葉:「揺れる心」

「揺れる心」という花言葉は、ホテイアオイの浮遊する姿や、水面でふわふわと揺れ動く様子に由来します。

  • ホテイアオイは土に根を張らず、水面に漂うように浮かんでいます。
     風や水流に身を任せてゆらゆらと揺れるその様子が、気持ちの揺れや、決めかねている心情を象徴しているとされます。
  • また、淡く幻想的な花の色合いも、はかなく移ろいやすい感情や、一時の恋心などを連想させることから、恋愛における「迷い」や「不安定さ」を表す言葉としても使われます。

※他の花言葉としては「恋の悲しみ」「移ろいやすい恋」など、儚さや不安定な感情をイメージさせるものが多く見られます。


「水面に咲く花」

風のない朝だった。川辺の水面は鏡のように静まり返り、その上にホテイアオイの群れが漂っていた。淡い紫の花が、まるで水面に咲いた幻のように揺れている。

 「揺れてるなあ……」

 そうつぶやいたのは、美琴。駅から少し離れたこの川沿いの小道を、彼女は毎朝のように歩いている。隣には、同じ大学に通う拓海の姿があった。彼は決まって、前を歩きながら時折振り返り、美琴に話しかける。

 「ホテイアオイって、浮かんでるんだよね。根っこ、どこにもついてないのに」

 「……うん、知ってる。風に流されるままなんだって」

 二人の会話は、とりとめもなく続く。でも、美琴の胸の奥には、いつも言えない言葉が沈んでいた。春に知り合って、夏になり、こうして川沿いの道を並んで歩くようになった。でも――。

 彼には、好きな人がいる。それも、美琴ではない誰かが。

 だから、彼の言葉に頷きながらも、美琴の心はいつも揺れていた。言いたいことも、笑顔の裏に隠して。彼が優しくするたび、それが「友達として」だと分かっているのに、どうしても期待してしまう自分がいる。

 「ホテイアオイって、見た目はきれいだけど、増えすぎると困るんだよね。流れを止めちゃうから」

 拓海が言ったその言葉に、美琴は少しだけ心がざわめいた。

 「……うん、わたしも同じ。気持ちが増えすぎると、止まっちゃうの」

 彼が振り向いた。

 「え?」

 「ううん、なんでもない」

 言葉を呑み込んだ。何度目だろう、この感じ。言いたいことを水面の下に沈めるたび、ホテイアオイみたいに、心がふわふわと揺れてしまう。

 夕暮れの光が水面に差し込んだとき、美琴はふと立ち止まり、川のほうを見つめた。

 「花言葉、知ってる? ホテイアオイの」

 「え? 知らない。なに?」

 「“揺れる心”だって」

 「……へえ。なんか、今の俺たちにぴったりかもな」

 その言葉に、美琴は一瞬心が跳ねた。けれど、拓海はきっと深い意味など込めていない。それが分かっていても、やっぱり心は揺れてしまう。

 ――好きだって、言えたらいいのに。

 でも言えば、この距離が壊れてしまうかもしれない。そんな怖さが、美琴の言葉をまた水面の下に沈めていく。

 「そろそろ行こっか。授業、遅れちゃうよ」

 拓海が歩き出す。美琴もまた、それに続いた。ホテイアオイの群れは、朝の光の中でゆっくりと、流れに身を任せている。まるで、自分の心そのもののように。

 風が吹いた。水面がわずかに揺れ、花々がそっと揺らいだ。まるで、誰にも言えない恋のように――。