「ミント」

基本情報
- 学名:Mentha
- 科名:シソ科
- 原産地:寒帯と中・南米、インド、中部・西アフリカを除く、ほぼ地球全域
- 開花時期:7月~9月(種類により異なる)
- 草丈:30~80cm程度
- 多年草/宿根草(寒さに強く、毎年芽を出します)
ミントについて

特徴
- 爽やかな香り
ミントといえば、スッとした清涼感のある香りが特徴です。この香りは、主成分である「メントール」に由来しています。種類によって香りの質が異なり、スペアミントやペパーミントなどがあります。 - 生命力が非常に強い
地下茎でどんどん増えるため、放っておくと庭一面を覆ってしまうほど。鉢植えでの管理が推奨されるほどです。 - 薬用・食用・香料としても優秀
古代ギリシャ・ローマ時代から、消化促進や気分をリフレッシュさせる薬草として使用されてきました。現代でもハーブティーやアロマ、料理のアクセントなど幅広く活躍しています。 - 小さく可憐な花を咲かせる
紫や白、ピンクなどの小さな花が、茎の先や葉の間に集まって咲きます。葉に注目されがちですが、花もとても可愛らしいです。
花言葉:「美徳」

ミントにはいくつかの花言葉がありますが、特に「美徳(Virtue)」という言葉は、以下のような理由に由来すると考えられています。
● 清潔感と誠実さを感じさせる香り
ミントの香りは、どこか清らかで潔癖な印象を与えます。古くから清掃や空気清浄にも使われてきたことから、「清潔=善き徳」と結びついたとされます。
● 人の心を癒すやさしさ
ミントは鎮静作用やリフレッシュ効果があり、人の心と体にやさしく働きかけます。そのような内面的な優しさや誠実さ=美徳とみなされたのでしょう。
● 古代神話との関係
ギリシャ神話では、ミントは冥界の神ハーデスに愛されたニンフ「ミンテ(Minthe)」が変身させられた植物とされています。彼女の純粋な心が、変わらぬ香りと姿で残されたという説話が、花言葉「美徳」に通じるとも考えられます。
「ミントの香りが届くころ」

街の片隅、小さなハーブ専門店「アテナの庭」は、いつも静かに時間が流れている。通り過ぎる人は多いが、その扉を開ける者はごくわずか。けれど、その数少ない誰かの心には、確かな何かを残していく――そんな不思議な場所だった。
店主の名は、ミナ。年齢不詳で、笑うとどこか懐かしい香りがした。彼女が好んで使うのは、いつもミントのエッセンシャルオイル。店内にはドライミントの束があちこちに飾られ、訪れた者の鼻先を、そっと撫でてゆく。

ある日、ひとりの少女が扉をくぐった。白い制服に身を包み、うつむいたままの表情。高校帰りらしく、肩には重そうな鞄。ミナは笑顔で「いらっしゃい」と声をかけた。
「ここ……ハーブ屋さん、なんですよね」
少女は棚を見つめながら言った。「母が好きだったって聞いたんです。ミントの香りが落ち着くって」
話を聞けば、少女の母親は半年前に病で亡くなったという。母娘の思い出は少ないが、最期に病室で言った一言が忘れられなかった。
――あの香りがあると、心が静かになるのよ。
少女は、ミントの束を一つ選び、店の奥で丁寧にラッピングしてもらった。

「ミントにはね、花言葉があるのよ。『美徳』っていうの」
ミナが包みながら、静かに話し始めた。
「清らかで誠実な心。人を思いやる優しさ。見返りを求めない、凛とした愛情……そんな徳が、香りの中にあるって、昔から言われてきたの。ギリシャ神話では、冥界の神に愛されたニンフが、姿を変えてミントになったのよ」
少女は目を丸くして、「ニンフ?」とつぶやいた。
「そう。『ミンテ』という名の美しい精霊。彼女は、ハーデスという神に愛されたけど、その愛は叶わなかった。けれどね、ミンテの心は、変わらぬ香りとして、ずっと人々に届き続けている。たとえ姿が見えなくなっても、そのやさしさは、誰かのそばにあるの」
しばらく沈黙が流れた。
「……母も、そうだったのかな」

少女が、ぽつりと言った。
「きっと、そうだと思うよ」
ミナはそっと包みを手渡した。「あなたが思い出すたびに、その香りは強くなる。美徳って、そういうものだから」
帰り際、少女は一度だけ振り返った。ミントの香りが、風に乗ってゆっくりと広がっていった。
その夜、少女は部屋でミントの束を花瓶に差した。母の写真のそばに置いて、深く深く、息を吸い込んだ。
胸の奥が、少しだけ、あたたかくなった気がした。
それは、言葉ではなく、香りで伝わる想い。
姿を変えても、失われないやさしさ。
――ミントの香りが届くころ、誰かの心には、確かな「美徳」が宿るのかもしれない。