7月28日、8月23日の誕生花「オシロイバナ」

「オシロイバナ」

基本情報

  • 和名:オシロイバナ(白粉花)
  • 学名Mirabilis jalapa
  • 英名:Four o’clock flower / Marvel of Peru
  • 科名:オシロイバナ科
  • 原産地:ペルーなど熱帯アメリカ
  • 花期:夏(6月~10月)
  • 草丈:50~100cmほど
  • 分類:多年草(日本では一年草扱い)

オシロイバナについて

特徴

  • 夕方に咲く花
     昼間は閉じており、夕方から夜にかけて咲くのが特徴的です(名前の由来の一因にもなっています)。
  • 豊富な花色と模様
     赤、黄、白、ピンク、斑入りなど色のバリエーションが豊かで、同じ株に複数色の花が咲くこともあります。
  • 芳香性がある
     夕方になると、甘くほのかな香りを放ち、夜間に活動する蛾などを引き寄せます。
  • 種に白粉のような粉
     黒い種の中に白い粉状の胚乳が含まれており、これが和名「白粉花(おしろいばな)」の由来です。
  • 丈夫で繁殖力が強い
     日本では放っておいても種がこぼれて自然に増えるほどで、庭先や道端でもよく見かけます。

花言葉:「内気」

オシロイバナの花言葉のひとつに 「内気(Shyness)」 があります。
この言葉は、植物の性質や咲き方に深く関係しています。

● 夕暮れにだけ咲く「控えめな姿」

日中の明るい時間を避け、人目を避けるように夕方からひっそりと咲くことが、「内気」や「恥ずかしがり屋」のような性格を連想させます。まるで、人前に出ることをためらっているかのように、日没後にそっと花を開くその様子が、内気な心を象徴しているのです。

● 儚く静かな美しさ

咲いている時間も比較的短く、翌朝にはしぼんでしまうことが多いため、その儚く目立たない咲き方も、「自己主張しない性格」や「控えめな美しさ」の象徴とされました。


「夕暮れにだけ咲く」

陽が沈む少し前、古い町の裏通りにある小さな庭で、彼女はいつものように静かに水をやっていた。

 この家には、誰も足を踏み入れない庭がある。表通りからは見えないその場所に、夕方になると花を咲かせる植物がいくつか育っていた。とりわけ一角に群れて咲くオシロイバナは、夕暮れの風にそっと揺れながら、その姿をほんのひとときだけ現す。

「咲いたのね」

 少女――葉月(はづき)は、そっと膝をつき、咲き始めたばかりの花に視線を落とす。昼間にはまだ固く閉じていた蕾が、夕方の空気を感じ取って、ようやくゆるやかに開きはじめていた。

 彼女は中学三年生。人と話すのが苦手で、クラスでもあまり目立たない存在だった。教室で手を挙げることも、誰かと一緒に昼食を食べることもない。ただ静かに時間を過ごし、下校後はこの庭に来るのが日課だった。

 「夕方にしか咲かないなんて、なんだか、わたしみたいだよね」

 ふと、そんな言葉がこぼれる。明るい時間に目立つ花はたくさんある。でもオシロイバナは違う。誰もが家に帰るころ、誰にも見られない時間帯に、ようやく花を開く。そして翌朝にはもうしぼんでしまう――そんな性質を持っている。

 葉月はその花に、自分自身を重ねていた。

 ある日、同じクラスの男子――新(あらた)が、彼女に声をかけてきた。

 「この前、図書室で詩を読んでたよね。……好きなの?」

 突然のことに、葉月は言葉を失った。誰かに話しかけられるなんて思ってもみなかった。小さくうなずいたあと、彼女は少しだけ微笑んだ。

 新は、まるで夕焼けみたいな少年だった。明るくて、まっすぐで、でもどこか淡くて優しい。彼は葉月の「静けさ」に興味を持っていた。騒がしさの中にいない彼女が、まるで別の時間を生きているように見えたのだ。

 それから、二人は少しずつ言葉を交わすようになった。放課後に図書室で本を読む日もあれば、時折、庭にも足を運ぶようになった。

「この花、オシロイバナっていうんだ」

 ある夕方、葉月はそう言って、咲いたばかりの花を指さした。

「夕方だけ咲くんだ。朝になると、もう閉じちゃう。……なんだか恥ずかしがり屋みたいでしょ」

 新は笑った。「でも、ちゃんと咲いてるんだね。誰かが気づいてくれるのを待ってるみたいに」

 その言葉が、胸の奥にすっと染みこんだ。

 ――誰かが見つけてくれる。それだけで、咲く意味がある。

 その夜、葉月はノートを開き、一行の詩を書いた。

 「わたしは、夕暮れにだけ咲く けれど、あなたにだけは見てほしい」

 オシロイバナの花言葉は「内気」。でもそれは、咲かないという意味じゃない。ただ、咲く時間が、ほんの少し静かなだけ。人知れず咲く花にも、やさしい想いと強さがある。

 それを知っている人が、一人でもいるなら――きっと、それでいい。

7月19日、8月23日の誕生花「ゲッカビジン」

「ゲッカビジン」

基本情報

  • 学名Epiphyllum oxypetalum (クジャクサボテン属)
  • 和名/別名:月下美人/月来香(ゲツライコウ)
  • 原産地:中南米(メキシコ〜中米)の森林に自生する着生サボテン
  • 植物タイプ:常緑多肉の多年生、草丈は1〜2 mほどに成長

ゲッカビジンについて

特徴

  • 開花時期:主に日本では7月から11月にかけて夜に開花。高温期の真夏は避け、適期は夏の夜
  • 一夜花:夕方に蕾が開き始め、夜~深夜に満開となり、翌朝にはしぼむ儚い性質
  • 香り:ジャスミンに似た甘く濃厚な芳香があり、夜空に漂う強い香りは「月来香」の名の通り
  • 受粉の仕組み:夜咲きしコウモリによって受粉される進化を遂げている

花言葉:「はかない恋」

ゲッカビジンには多くの花言葉がありますが、代表的なものとして「儚い恋(はかない恋)」「はかない美」「艶やかな美人」「ただ一度会いたくて」などがあります 。

「はかない恋」「はかない美」

花が一晩でしぼんでしまう短命さに由来し、その儚さが“恋”や“美”に重ねられたからです 。

「艶やかな美人」

大輪の白い花と強い香りが、夜の女王のような艶やかさを感じさせることからです 。

「ただ一度会いたくて」

一夜花の切ない一瞬の出会いを切望するような、ロマンティックな思いが込められています。


🏷️ 名前の由来

  • 月明かりの下で咲くこと:その神秘的な花姿から名付けられたという説があり。
  • 昭和天皇の台湾訪問時のエピソード:皇太子時代の昭和天皇がこの花に心奪われ、「月下の美人」と称されたという逸話も

「ただ一度、会いたくて」

夏の終わり、都会の喧騒を離れた古い山荘に、私は一人で滞在していた。
 かつて祖母が暮らしていたその家には、手入れの行き届かない小さな温室があり、蔦に覆われたガラス越しに、夏の名残の陽が差し込んでいた。

 祖母が大切にしていた花がある。
 それは――月下美人。

 「夜にしか咲かないのよ。そして、一晩だけ。まるで夢みたいな花なの」

 子どもの頃、祖母がそう語っていたのをよく覚えている。私にはその儚さがよくわからなかった。ただ、白く大きな花が夜の暗がりの中にぽっと浮かぶように咲く、その光景だけが妙に心に残っている。

 大学時代のある夜、彼に出会ったのも、そんな夏の終わりだった。

 「咲いたよ」と、彼は一本の枝を見せてくれた。私が通っていた植物学ゼミの先輩で、研究熱心な人だったけれど、不器用で、少し照れ屋だった。

 「月下美人。君に見せたかったんだ」

 満開の白い花は、まるで夜の静寂を引き裂くように、強く甘い香りを放っていた。その一瞬だけ、私の世界が変わった気がした。

 けれど――それきりだった。
 彼は卒業後、地方の研究所に移り、連絡は自然と途絶えた。私も就職して、忙しさにかまけて、あの夜のことは胸の奥にそっとしまっていた。

 そして今年、祖母の十三回忌を機に、この山荘に戻ってきた。
 あの温室に、まだ月下美人は残っているだろうか。そんな思いに駆られ、夕方、庭に足を運んだ。

 温室の中はすっかり荒れていたが、一角にしっかりと根を張った葉が伸びていた。茎の先に、ひとつだけ、つぼみが揺れている。

 ――咲くかもしれない。

 夜が更け、月が昇るころ、私はひとり椅子を出して、温室の前で待っていた。

 そして――
 静かな時のなか、つぼみはゆっくりと開き始めた。

 白く大きな花が、まるで星が地上に降りてきたかのように、音もなく輝きを放つ。ジャスミンに似た濃厚な香りが空気を満たしていく。

 そのときだった。

 「やっぱり、咲いたんだな」

 その声に、私は振り向いた。

 ――そこに、彼がいた。

 白髪が混じりはじめた髪。少し痩せた輪郭。けれど、その瞳は昔と変わらない優しさを湛えていた。

 「……どうして、ここに?」

 「祖母様が生前、君の話をよくしてくれてたんだ。十三回忌だって聞いて、もしやと思って。……それに、この花も」

 彼はそっと、月下美人に目を向けた。

 「たった一晩だけ、咲いて、散る。それがわかっていても、見たくなる。……まるで、君とのことみたいだと思ってた」

 私は何も言えなかった。けれど、彼の隣に腰を下ろし、二人で黙って花を見つめた。

 夜空の下、真白な花が静かに揺れている。

 「はかない恋」
 「はかない美」
 「艶やかな美人」
 「ただ一度会いたくて」

 すべてが、この一瞬に詰まっていた。
 そして私は知った。――それでも、この花は美しいと。
 だからこそ、人はまた、出会いたくなるのだと。

 もう一度。
 ただ一度、会いたくて。