「ザクロ」

基本情報
- 学名:Punica granatum
- 分類:ミソハギ科ザクロ属(※旧分類ではザクロ科)
- 原産地:イラン〜ヒマラヤ西部、地中海沿岸など
- 開花時期:10月上旬~11月中旬
- 結実時期:9月~10月
- 花の色:赤・オレンジ・まれに白
- 果実の特徴:丸い果実の中に赤く透き通った小さな粒(種衣)が詰まっており、甘酸っぱい味わいが特徴
ザクロについて

特徴
◎ 鮮やかな花と独特の果実
ザクロは、初夏になると真紅やオレンジの花を咲かせます。花はベルのような形で、光沢のある萼(がく)が残るのが特徴です。
秋には果実が熟し、裂けるようにして中のルビーのような果肉(種衣)が現れます。
◎ 観賞用と食用の両方で楽しまれる
果実はジュースやジャム、料理にも使われる一方、花の美しさから庭木や盆栽としても人気があります。
◎ 生命力が強く、乾燥にも比較的強い
中東などの乾燥地帯でも育ち、やせた土地でも実をつけることから、古来より「豊穣」や「繁栄」の象徴とされてきました。
花言葉:「優美」

ザクロの花は、他の果樹の花に比べて色鮮やかで厚みがあり、ふっくらとした花弁が美しく広がります。
その凛とした佇まいが、「上品さ」や「気高さ」を感じさせるため、「優美」という言葉が与えられました。
● 果実の中に秘められた美しさ
実が裂けて現れる鮮紅の種衣は、まるで宝石のよう。
外からは想像できないような鮮やかな内面の美しさが、「内に秘めた優美さ」という印象を与えます。
● 古代からの象徴性(神話や宗教との関わり)
ギリシャ神話やペルシア神話など、多くの文化圏でザクロは「美」や「神聖」の象徴とされてきました。
特に愛と美の女神アフロディーテと結び付けられることもあり、そこから「優美」のイメージが強調されました。
「優美の庭で」

古びた洋館の庭に、それはひっそりと咲いていた。
ザクロの木。春を越え、夏の入り口に差しかかる頃、その木は濃い緑の葉の間から、ふっくらとした真紅の花を咲かせる。
「おばあさま、この花、なんていうの?」
七歳のレイナが指をさすと、祖母は目を細めた。
「ザクロ。――優美、という言葉がぴったりでしょう?」
それから、毎年この季節になると、レイナは祖母と並んでザクロの木の下に立ち、同じ会話を交わした。花は艶やかで、厚みのある花弁が開くさまはまるで着物の襟のようだった。

レイナが十七になった年、祖母は静かに息を引き取った。
遺品整理のためにひとりで館を訪れたレイナは、あの木の前で立ち止まった。もう花は落ち、枝には小さな果実がいくつも実っている。
「ザクロ……優美……」
つぶやいたその言葉が、祖母の声と重なって耳に響いた。
秋になると、果実は熟し、自然と口を開く。
その裂け目から覗くのは、まるでルビーを詰め込んだかのような赤い粒。
外からは想像もつかない、秘められた美しさがそこにあった。
祖母がこの木を愛していた理由が、少しわかった気がした。

気品ある花の姿。
そして、外見では測れない内面の輝き。
レイナは果実をひとつ手に取った。
かすかに甘酸っぱい香りが鼻をくすぐる。
「なんだか、おばあさまみたい……」と笑った。
その夜、祖母の遺した日記を読みながら、レイナはさらに深くザクロの意味を知る。
ギリシャ神話の中で、ザクロは愛と美の女神・アフロディーテと結びつけられていた。
ペルセポネの神話では、ザクロを食べたことで冥界に縛られたとも書かれていた。
そこには「美」だけではなく、「運命」や「結びつき」、そして「再生」の象徴としての側面もあるという。

翌朝、レイナは庭に出て、ザクロの木を見上げた。
この木は、祖母の「内に秘めた美しさ」を表していたのかもしれない。
普段は静かで控えめだった祖母が、心の奥に持っていた強さや優しさ。
それはまさに、実が割れて初めて現れる宝石のような果肉のように、目に見えないところに宿っていた。
「来年も、きっと咲くよね」
レイナはそっと、実から種を取り出して小さな鉢に埋めた。
またひとつ、新しい命の循環が始まろうとしていた。
優美な記憶とともに。