8月31日、9月16日の誕生花「リンドウ」

「リンドウ」

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基本情報

  • 分類:リンドウ科リンドウ属(多年草)
  • 学名:Gentiana scabra var. buergeri
  • 原産地:日本(本州、四国、九州)、中国、朝鮮半島などアジア東部
  • 開花期:9月下旬~10月中旬
  • 花色:主に青紫、他に白やピンクもある
  • 草丈:20〜80cmほど
  • 利用:観賞用のほか、根は生薬「竜胆(りゅうたん)」として健胃・解熱・消炎に用いられてきた

リンドウについて

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特徴

  1. 深い青紫色の花
    リンドウといえば鮮やかな青紫の花色が特徴的。秋の澄んだ空を映したような色合いで、日本では古くから愛されてきました。
  2. つぼみのように見える花
    花は釣鐘型で、完全に開ききらず筒状のまま咲くため、少し控えめで奥ゆかしい印象を与えます。
  3. 薬草としての歴史
    根は強い苦味をもち、生薬「竜胆」として古くから使われてきました。この「胆が裂けるほど苦い」という意味から「竜胆」という漢字が当てられています。
  4. 秋の代表花
    菊やコスモスと並び、お彼岸や敬老の日の贈り花としても親しまれています。

花言葉:「悲しんでいるあなたを愛する」

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由来

リンドウの花言葉にはいくつかありますが、その中でも「悲しんでいるあなたを愛する」は特に印象的です。

その背景には以下のような理由があります。

  1. 花がうつむいて咲く姿
    リンドウの花は横向き〜やや下向きに咲きます。その姿が「悲しみに沈む人」のように見えることから、寄り添うような愛情の花言葉が生まれました。
  2. 秋に咲く花であること
    秋は別れや寂しさを象徴する季節とされます。そんな季節に咲くリンドウは、哀愁の中に寄り添う存在として受け取られました。
  3. 色合いの象徴性
    青紫色は「憂い」「深い思慕」を連想させる色であり、落ち着いた花色が「悲しみを包み込む愛」を表現するものとされました。

「悲しみを包む青」

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彼女の家の庭の片隅には、毎年秋になるとリンドウが咲いた。
 小さく、うつむきながらも澄んだ青紫を放つその花は、派手さこそないが、ひときわ目を引く存在だった。

 ──「悲しんでいるあなたを愛する」。
 母が生前よく口にしていたリンドウの花言葉が、ふと胸をよぎる。

 母を見送ってから、初めて迎える秋。家の中には母の声も、あたたかな足音もなく、ただ時計の針が規則正しく音を刻むだけだった。

 朝起きても食卓は静まり返り、夜になっても帰りを待つ人はいない。季節が巡っていくたびに、自分ひとりだけが置き去りにされたようで、心の奥が冷えていくのを感じていた。

 そんなある日、庭をふと見やると、あのリンドウが花をつけていた。
 深い青紫の花弁が、澄んだ空気にしんと溶け込むように咲き誇っている。けれどもその花は、まっすぐ空を仰ぐのではなく、ほんの少しうつむいて咲いていた。

 まるで自分と同じように、悲しみを抱えながら立っているように見えて、胸が詰まった。

 しゃがみ込んで花を覗き込むと、記憶の奥から母の声が蘇る。
 「人はね、悲しいときに無理に笑わなくてもいいんだよ。悲しみを知っている人だからこそ、人を思いやれるんだと思うの」

 リンドウの花言葉を教えてくれたのも、そのときだった。母は、少し寂しそうに笑いながらも、どこか誇らしげに花を見ていた。

 「悲しんでいるあなたを愛する」
 ──あのときは難しく感じた言葉の意味が、今になってようやく少しだけ分かる気がした。

 母はきっと、自分が悲しんでいることを責めたりはしない。むしろ、その悲しみごと抱きしめてくれる。
 だから、この花は母の心そのものなのかもしれない。

 ひんやりとした秋風が頬を撫でる。見上げれば、澄み渡る空の青が広がり、その足元でリンドウが静かに揺れていた。
 哀しみに沈む心を、決して否定せず、ただそっと支えてくれる存在。
 母の愛情が、そこに確かに息づいているようだった。

 私は思わず花に向かってつぶやいた。
 「……ありがとう」

 声は誰に届くわけでもない。それでも、リンドウの青がわずかに深みを増したように見えた。
 その花の傍らで、私は初めて心の底から泣くことができた。

 悲しみを包み込むように咲く青紫のリンドウ。
 その花は、失われた母の代わりに、静かに私を抱きしめてくれているようだった。

6月26日、9月16日の誕生花「ペンタス」

「ペンタス」

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基本情報

  • 学名:Pentas lanceolata
  • 和名:クササンタンカ(草山丹花)、別名:エジプシャンスター(Egyptian Star Flower/Star Cluster)
  • 科属:アカネ科・ペンタス属
  • 原産地:熱帯東アフリカ〜アラビア半島(イエメンなど)
  • 分布:一年草として一般的だが、霜の降りない温暖地(USDAゾーン10~11)では多年草

ペンタスについて

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特徴

  • 花の形・色:径1〜2cmの星型咲きの花が散房状(半球形)に密集。赤・ピンク・白・紫・ラベンダーなどバリエーション豊富で、バイカラーや八重咲きもある
  • 草丈・大きさ:草丈30〜80cm(種苗改良品種では矮性で30cmほど)。原種では最大で高さ1.5mになることもある
  • 育ちやすさ:日当たりと水はけの良い場所を好み、夏の暑さや乾燥に強く、病害虫にも比較的強い
  • 花期:5〜10月頃まで長時間咲き続け、連続開花性が高く、切り戻しや花がら摘みをするとさらに長持ち
  • 魅力:蝶やハチ、ハチドリなどの花粉媒介者を引き寄せ、ガーデニングや寄せ植えに人気

花言葉:「希望が叶う」

ペンタスの花姿が「星が集まったよう」に見えることから、願い事を星に託すイメージと重なり、「希望が叶う」「願い事」という花言葉になったとされています

学名の “pentas” はギリシャ語の「5(pente)」に由来し、花びらが5枚であることに由来。星形に見えること、規則正しい花姿から「調和」「願い」「希望」という象徴性も評価されています


「星を集める庭」

Bishnu SarangiによるPixabayからの画像

「おばあちゃん、この花の名前、なあに?」

少女が指差したのは、小さな鉢に咲いた星のような赤い花だった。

「それはね、ペンタスって言うの。五枚の花びらが集まって、まるで夜空の星みたいでしょう?」

陽の傾き始めた夕方、小さな花屋の奥で、祖母はいつものように穏やかに笑った。

夏休みの間、花屋に預けられていた美羽は、最初こそ退屈で仕方なかったけれど、次第に店の一角の小さな花壇が気に入りはじめていた。

「この花、願い事が叶うんだって」

「ほんとに?」

「ほんとよ。昔の人は、夜空の星に願いを託してたでしょ? この花はね、まるでその星が地上に降りてきたみたいだから。だから、“希望が叶う”って花言葉がついたの」

美羽は小さく頷いた。家では両親がいつも忙しそうで、まともに話すことも少なかった。自分の気持ちを話しても、いつも「あとでね」で終わってしまう。

でも、ここにいると、誰かが耳を傾けてくれるような気がした。

「願いごと、してもいい?」

「もちろん」

少女は両手をそっとペンタスの鉢に添えた。そして、目を閉じてつぶやいた。

「また、家族みんなで夕ご飯を食べられますように」

静かな風が吹いた。葉が揺れて、ペンタスの花もわずかに震えた。

それから数日、美羽は毎日その鉢を世話し、水をやり、咲いた花を数えては笑った。

夏休みの最後の日、母が迎えに来た。花屋の前で、美羽は一鉢のペンタスを抱えていた。

「おばあちゃん、この花、持って帰ってもいい?」

「いいわよ。あんたの願いが詰まってるんだもの」

家に戻ってすぐ、美羽は食卓の真ん中にその鉢を置いた。夕方、珍しく父も母も時間通りに帰ってきて、揃って食卓に座った。

「……なんか、久しぶりだね、こうやって食べるの」

母が笑って言った。

「うん。なんか、星が降ってきたみたい」

美羽の視線の先には、小さな星たちが咲くペンタスの花があった。

その夜、窓の外を見上げると、本物の星空が広がっていた。けれど、美羽はもう空に願いをかける必要はなかった。

彼女の願いは、もうそこに咲いていた。