8月27日、9月18日の誕生花「ホウセンカ」

「ホウセンカ」

基本情報

  • 学名Impatiens balsamina
  • 科名:ツリフネソウ科
  • 原産地:インドや東南アジア
  • 一年草
  • 花期:夏(7月〜9月頃)
  • 花色:赤、桃、白、紫、絞り模様など
  • 別名:爪紅草(つまくれないぐさ)、爪紅(つまべに)
    • 花びらを揉んで汁を取り、女の子たちが爪を染めて遊んだことから。

ホウセンカについて

特徴

  • 草丈は30〜60cmほど。
  • 花は葉の付け根に一つずつ咲き、八重咲き・一重咲きの品種がある。
  • 果実(さや)は熟すと少しの刺激で弾け、中の種を勢いよく飛ばす性質を持つ。
    • 学名の Impatiens は「我慢できない」の意味で、この性質を表している。
  • 水やりを好み、日当たりの良い場所でよく育つ。

花言葉:「私に触れないで」

由来

  • ホウセンカは、熟した果実に軽く触れるだけで弾けて種を飛ばす
    まるで「触らないで!」と拒むような反応をすることから、この花言葉が生まれた。
  • 英語圏でも同様に Touch-me-not(私に触れないで)という呼び名がある。
  • 花姿の可憐さとは裏腹に、近づくとパッと弾ける繊細な性質が、控えめな人の心情や触れられたくない気持ちを象徴する。

「私に触れないで」

―ホウセンカの花言葉の由来―

ホウセンカは、熟した果実に軽く触れるだけで弾けて種を飛ばす。
まるで「触らないで!」と拒むような反応をすることから、この花言葉が生まれた。

英語圏でも同様に Touch-me-not(私に触れないで) という呼び名がある。

花姿の可憐さとは裏腹に、近づくとパッと弾ける繊細な性質が、控えめな人の心情や触れられたくない気持ちを象徴する。

短編小説

 夏の午後、校舎の裏庭に咲くホウセンカの列を、真奈はそっと見つめていた。
 鮮やかな赤や桃色の花は、どこか懐かしい。子どものころ、祖母が「爪紅にしてあげる」と言って、花びらをすりつぶし、真奈の小さな爪を染めてくれた。指先が赤く染まると、まるで特別な飾りをつけてもらったように嬉しかった。

 だが、いま目にしているホウセンカは、当時の記憶よりもずっと切ない輝きを放っていた。
 彼女は胸の奥に、どうしても触れられたくない秘密を抱えていたからだ。

 「真奈」
 背後から呼ぶ声に振り向くと、同級生の悠斗が立っていた。彼はいつも真っ直ぐで、誰にでも優しい。そんな彼に、真奈は心を許したいと思いながらも、なぜか一歩を踏み出せずにいた。

 「こんなところにいたんだ」
 悠斗が微笑んで近づいてくる。だが真奈は無意識に半歩後ずさる。その仕草を見て、悠斗の笑顔が一瞬だけ揺れた。

 「ごめん……」
 声がかすれる。理由もなく謝ってしまうのは、触れられることへの怖さが、自分でもうまく説明できないからだった。

 風が吹き、ホウセンカの実がひとつ、はじけ飛んだ。軽い音とともに小さな種が四方に散らばる。その様子に悠斗は目を丸くした。
 「すごい……触ったら弾けるんだな」
 「そう。だから、ホウセンカの花言葉は『私に触れないで』なんだって」
 真奈は小さくつぶやいた。

 悠斗はその言葉を聞くと、真剣な表情で彼女を見つめた。
 「……じゃあ、無理に触れない。真奈が、自分から手を伸ばしてくれるまで待つよ」

 その一言に、胸の奥がじんわりと熱くなる。拒まれることを恐れていたのは、相手にではなく、自分自身の心だった。誰かに触れられるのではなく、自分から触れてしまうことが怖かったのだ。

 ホウセンカの赤い花が、夕陽を受けて揺れている。触れられれば弾けてしまう実のように脆い心でも、誰かが待っていてくれるなら、いつかはその殻を破ってもいいのかもしれない。

 真奈は小さく息を吸い込み、そっと一歩、悠斗のほうへ近づいた。

5月5日、9月18日の誕生花「アザミ」

「アザミ」

RalphによるPixabayからの画像

基本情報

  • 学名:Cirsium japonicum
  • 分類:キク科アザミ属
  • 原産地:世界各地(日本にも自生種多数あり)
  • 開花時期:夏から秋(ノアザミでは4月~10月)
  • 花色:紫、赤紫、ピンク、まれに白
  • 草丈:30cm〜1.5m程度

アザミについて

特徴

  • トゲ:葉や茎に鋭いトゲがあり、動物から身を守る役割を果たしています。
  • 花の形:丸い球状の花を咲かせ、花弁の先が細く分かれた独特の姿です。
  • 繁殖力:地下茎や種子で増えるため、野山で群生して見られることも。
  • 自生環境:山地、草原、河原、道端など、日当たりのよい場所を好む。

花言葉:「権威」

Uschi DugulinによるPixabayからの画像

アザミの花言葉はいくつかありますが、その中でも「権威(けんい)」は印象的なもののひとつです。この花言葉の背景には、以下のような理由があります:

  • トゲのある見た目:アザミは近寄りがたい印象を与えるトゲを持ち、他を寄せつけない厳格さや威厳を感じさせます。
  • スコットランドの国花:スコットランドではアザミが国家の象徴となっており、歴史的には防衛や誇りのシンボルとされました。伝説では、アザミのトゲにより侵入者が気づかれて撃退されたことから、国を守った花として称えられたと言われています。
  • 気高さと威厳:外敵を退けるその姿勢が「支配者の力」「守護の強さ」と重なり、「権威」という言葉に結びついたとされています。

他にも、アザミの花言葉には「独立」「報復」「触れないで」などがあり、その強さや防御的な性質を反映しています。


「薊の国の姫」

RonileによるPixabayからの画像

遥か昔、霧深い山々に囲まれた小さな国があった。国の名は「スカディア」。豊かな自然に恵まれ、争いとは無縁の平和な国だったが、その平穏は突如破られた。

 ある晩、スカディアの北の砦に立つ兵士が、山道をひそかに進む敵兵の姿を目撃した。国王の元に急報が届けられ、城内は混乱に包まれた。だが王はひるまず、静かに娘の名を呼んだ。

「リヴィア、そなたの出番だ」

 姫リヴィアは若く、美しく、何よりも強かった。王族の娘でありながら剣を取り、民と国土を守ることを誓っていたのだ。だが彼女の真の武器は、剣ではなく「薊の花」だった。

 リヴィアは代々王家に伝わる、アザミの加護を受けた戦装束を身にまとう。肩や裾に鋭いトゲのような装飾をあしらったその衣は、触れる者を拒み、見た者に威厳と畏怖を与えた。アザミの精霊に祈りを捧げたときから、彼女には不思議な力が宿った。彼女のまとう気配は敵を遠ざけ、その眼差しひとつで場が静まり返る。

 「戦わずして勝つ、それが本当の“権威”だと、父はおっしゃった」

 敵軍はついにスカディアの平原に姿を現す。しかし奇妙なことに、誰ひとり武器を振るわなかった。先頭に立つリヴィアの姿を見たとき、敵将の手が震えたのだ。彼女の背後に咲く無数のアザミの花、まるで国を護る刃のごとく立ち並んでいた。風が吹くたびに、鋭利な葉が音を立てる。

 「これが…アザミの姫か…」

 かつてこの地を攻めようとして退いた軍の伝説を、敵将は思い出した。「あの花のトゲに足を傷つけ、叫び声をあげた兵がいた。その声で奇襲は露見し、我らは敗れた」と。

 姫は静かに馬を進め、ただ一言、告げた。

「ここを退けば、血は流れぬ。アザミのトゲは、侵す者にのみ牙をむく」

 その声には剣よりも重い響きがあった。敵軍は沈黙し、やがて全軍が撤退した。

 スカディアは再び平和を取り戻した。

 リヴィアはその後も剣を持つことなく、国の象徴として民に寄り添い続けた。彼女の姿を見て、人々はアザミの花に込められた意味を悟る。強さとは、力を振るうことではない。威厳とは、恐れられることではなく、敬われることであると。

 今もスカディアの城門には、一輪のアザミが咲いている。それは、かつて一度も血を流さずに国を守った姫の、気高さと“権威”の証なのだ。