「ヒガンバナ」

基本情報
- 学名:Lycoris radiata
- 科属:ヒガンバナ科ヒガンバナ属
- 原産:中国(日本へは古代に持ち込まれたとされる)
- 別名:曼珠沙華(マンジュシャゲ)、死人花、地獄花、狐花など
- 開花期:9月中旬〜下旬(秋のお彼岸の頃)
- 花色:赤が一般的。白花や黄色花の品種もある。
- 毒性:鱗茎(球根)には有毒のアルカロイド(リコリンなど)を含み、誤食すると嘔吐や下痢を引き起こす。かつては田畑や墓地の周囲に植えられ、モグラやネズミ避けの役割を果たした。
ヒガンバナについて

特徴
- 花と葉が同時に出ない
花は秋に咲くが、そのとき葉はなく、花が終わってから冬に葉を伸ばす。
→「葉見ず花見ず」と呼ばれる特異な性質。 - 鮮やかな赤色と独特の形
細く長い花弁が反り返り、糸のように伸びる雄しべが放射状に広がる。群生するとまるで炎のじゅうたんのよう。 - 繁殖はほぼ栄養繁殖
種子を作ることが少なく、主に地下の鱗茎(球根)が分かれて増える。日本のヒガンバナは三倍体で種子を作れないため、人の手で全国に広がったとされる。
花言葉:「あなたに一途」

由来
ヒガンバナには複数の花言葉がありますが、「あなたに一途」という意味は次のような特徴から生まれました。暦の「お彼岸」の頃に必ず花を咲かせる規則正しさが、「ぶれることのない一途さ」を象徴するとされた。
1.葉と花が決して出会わないことから
- 花が咲く時期には葉がなく、葉がある時期には花がない。
- 「同じ株から生まれながら、互いに会えない存在」として、強く思い合いながらもすれ違う恋人たちにたとえられた。
- その切なさが「一途に想い続ける」という解釈につながった。
2.群れ咲く姿の印象
- 一株一株が互いに寄り添い、燃えるように咲く様子は、ひとつの思いを貫く情熱を思わせる。
3.彼岸の季節に必ず咲く律儀さ
- 暦の「お彼岸」の頃に必ず花を咲かせる規則正しさが、「ぶれることのない一途さ」を象徴するとされた。
「すれ違う季節に咲く花」

夏の終わりを告げる蝉の声が遠ざかり、夜風に秋の匂いが混じり始めた頃、川沿いの土手に真っ赤な花が咲き揃った。
彼岸花――炎のように揺れるその群れは、まるで何かを訴えかけるように、ひときわ鮮やかに大地を染めていた。
陽菜は立ち止まり、その花をじっと見つめた。
「花と葉が、同時に出会えないんだよ」
かつて祖母がそう語ってくれた言葉を思い出す。花が咲くときには葉はなく、葉が伸びるときには花がない。

同じ根から生まれたのに、決して出会えない。
――それでも毎年、必ず律儀に咲き続ける。
「まるで、私と悠人みたい」
思わず口にした呟きが、秋の風に溶けた。
悠人は幼なじみだった。
同じ小学校に通い、同じ道を帰り、川沿いの土手で虫を捕った。けれど、中学からは別々の道を歩き始めた。部活や友人関係、夢や将来――いつしか会う機会は減り、やがて言葉を交わすことさえ少なくなった。
それでも陽菜の心の奥には、いつも悠人がいた。すぐそばにいながら、決して重ならない時間。それが苦しくても、想いは消えなかった。

彼岸花の群れを見つめていると、不意に声がした。
「やっぱり、ここにいたんだな」
振り向くと、そこに悠人が立っていた。背が伸び、少し大人びた顔つきになった彼が、懐かしい笑顔を向けている。
「毎年、この花を見に来てるんだろ?」
「……知ってたの?」
「昔、ばあちゃんに聞いたんだよ。『陽菜は彼岸花が好きで、毎年見に行く』って」
陽菜は胸の奥が熱くなるのを感じた。
「この花、知ってる? 葉と花が絶対に一緒に出ないんだって。同じ根から生まれてるのに、会えないんだよ」
「……まるで俺たちみたいだな」
悠人が苦笑する。陽菜は驚いて彼を見つめた。

彼も同じことを感じていたのだろうか。ずっとすれ違って、同じ場所にいるのに重ならなかった二人。
群れ咲く赤が、夕暮れに燃え盛る炎のように広がっていた。
「でもさ」悠人が言葉を続ける。
「花と葉は一緒にいられないけど、毎年必ず咲くんだろ? それって、一途に想ってるってことなんじゃないか」
陽菜の心臓が大きく跳ねた。
彼岸花は、同じ株から生まれながら出会えない。
それでも律儀に、季節が巡れば必ず咲く。
強く、切なく、それでいて真っ直ぐに。
陽菜は小さく頷いた。
「……うん。だから、私も待ち続ける。一緒に歩ける日まで」
悠人は静かに笑い、視線を彼岸花の群れに向けた。
秋の風が吹き、赤い花々が一斉に揺れた。
すれ違う季節の中でも、一途な想いは消えない。
そのことを確かめるように、二人は並んで立ち尽くした。