「ツンベルギア」

基本情報
- 分類:キツネノマゴ科 (Acanthaceae)
- 学名:Thunbergia alata(代表的な品種)
- 英名:Black-eyed Susan vine(ブラックアイド・スーザン・バイン)
- 原産地:アジア、アフリカの熱帯~亜熱帯の地域
- 開花期:初夏〜秋(5月~10月頃)
- 草丈:1.5〜3メートル(つる性)
- 栽培環境:日当たりと風通しのよい場所、水はけのよい土壌
ツンベルギアについて

特徴
- 花色:オレンジ、黄色、白、紫など(中心に黒や濃い色の目のような模様があるのが特徴)
- 形状:5枚の花弁を持つ円形の花で、中心部に暗色の目のような部分があります。
- 生育:ツルを伸ばして成長し、トレリスやフェンス、鉢植えでのハンギングにも適しています。
- 利用:ガーデニング、壁面緑化、バルコニー装飾などに活用されます。
花言葉:「美しい瞳」

ツンベルギアの代表的な品種であるThunbergia alata(ブラックアイド・スーザン・バイン)は、花の中心に濃い黒や茶色の「目」のような部分があるのが特徴です。この「瞳のような花姿」から、「美しい瞳」という花言葉がつけられました。
また、花弁の明るいオレンジや黄色と中心の黒の対比が、まるで人の瞳のように引き立って見えることから、人を惹きつけるような魅力的な「まなざし」を連想させたともいわれています。
「美しい瞳の庭」

夏の始まり、祖母の庭はツンベルギアの花で溢れていた。
オレンジや黄色の花弁の中心に、黒く深い色を湛えた“瞳”がこちらを見つめているように揺れていた。
「この花の名前は、ツンベルギアっていうのよ。美しい瞳っていう花言葉があるの」
幼い頃、祖母が教えてくれたその言葉を、私は今でも鮮明に覚えている。

祖母の家には、夏になるたび母と一緒に帰省していた。都会の喧騒とは違う、蝉の声と土の匂い、夕立の気配に包まれるその庭は、私にとって異世界だった。そしてツンベルギアの花は、まるで庭の守り神のように、どの年も同じように咲いていた。
祖母はもうこの世にはいない。けれどその庭は、今、私の手元にある。相続の手続きが終わり、久しぶりにひとりでこの家を訪れた私は、かつての面影を探すように庭に出た。
そして、ツンベルギアを見つけた。

フェンス沿いに絡みついたツルの先に、小さくも力強く咲いているオレンジの花。その中心には、あの「瞳」があった。
私は思わずしゃがみこみ、その花と目を合わせる。どこか懐かしくて、優しくて、でも何かを見透かすような、強い意志を感じる瞳。小さな花が語りかけてくる。
「大丈夫。あなたならできるわ」
そんな気がした。
ふいに、子供の頃の記憶が蘇る。

祖母はいつも私の目を見て話してくれた。話を聞いてくれるときも、叱るときも、笑うときも。視線を逸らさず、まっすぐに私を見つめていた。
「あなたの瞳はとってもきれいよ。だからね、嘘はつかない瞳でいなさい」
そう言って、ツンベルギアの前で微笑んだ祖母の姿が浮かぶ。
私はその日、庭に手を入れ始めた。荒れた雑草を抜き、花の周りの土を耕し、ツンベルギアに新しい支柱を立てた。
ひとつ手をかけるたびに、祖母との記憶がよみがえる。あの夏、スイカを食べながら見た夕焼け。縁側で眠ってしまった夜。手を引かれて歩いた近所の道。

「美しい瞳」という花言葉は、ただ見た目の話ではないのかもしれない。
真っ直ぐで、優しくて、そして人の心を見守るような――そんな想いが、あの花には宿っている。
秋の風が吹くころ、庭はすっかり整っていた。通りすがりの近所の人が立ち止まり、「きれいなお庭ですね」と声をかけてくれるようになった。
私は微笑み、「ツンベルギアっていうんです。美しい瞳っていう花言葉なんですよ」と返す。まるで、かつて祖母が私にそうしたように。
小さな瞳の花が、今日も風に揺れている。
その眼差しが、これからの私の背中をそっと押してくれる。
この庭で、私はまた一歩、自分の人生を歩き出す。