11月4日の誕生花「サフラン」

「サフラン」

基本情報

  • 学名Crocus sativus
  • 科名:アヤメ科(Iridaceae)
  • 属名:クロッカス属(Crocus)
  • 原産地:地中海東部(ギリシャ〜小アジア地域)
  • 開花期:秋 10月中旬~12月上旬
  • 多年草(球根植物)
  • 別名:アキザクラ(秋桜)、サフランクロッカス

サフランについて

特徴

  • 紫色の花を咲かせ、中心部から3本の赤い雌しべが伸びる。
  • その雌しべを乾燥させたものが高級香辛料「サフラン」
  • わずか1gのサフランを得るために、約150花分の雌しべが必要。
  • 香りと色が非常に強く、料理(パエリア、ブイヤベースなど)や薬用、染料にも利用される。
  • 花は繊細で、朝開いて夕方にはしぼむ一日花。
  • 見た目はクロッカスに似るが、春咲きのクロッカスとは別種。

花言葉:「節度の美」

由来

  • サフランは派手な香りや色を持ちながらも、花姿は控えめで上品
  • 鮮やかな赤い雌しべはわずかに花の中からのぞく程度で、自己主張しすぎない美しさを見せる。
  • また、サフランの香りや色も少量で十分に効果を発揮することから、
    → 「過剰ではなく、ほどよい分量・節度こそが美を生む」
     という意味が込められている。
  • このように、内に秘めた魅力・控えめな品格を象徴して、「節度の美」という花言葉がつけられた。

「香りの届く距離」

秋の終わり、町外れの小さな温室に、サフランの花が咲いていた。
 ガラス越しの光を受けて、薄紫の花びらが静かに開いている。その中心には、かすかに赤い雌しべがのぞいていた。

 「今年も、きれいに咲いたね」
 由香はしゃがみ込み、そっと指先で花の影をなぞった。母が生前、毎年欠かさず育てていた花だ。
 ――“サフランはね、派手すぎないところがいいのよ。”
 そう言って、母はいつも笑っていた。

 そのときの笑顔を思い出すたび、胸の奥が少し痛んだ。

 大学を出てから、由香はデザイン会社に勤めている。華やかな広告や商品のパッケージを手がける仕事だ。
 けれど、最近は何かが違う気がしていた。
 派手な色、強い言葉、目を引く形。
 どれも大切だとわかっているけれど、そればかりを追いかけているうちに、自分の描く線がどこか嘘っぽく感じられるようになっていた。

 そんなとき、久しぶりにこの温室に足を運んだのだ。

 指先にふと、香りが残った。
 サフランの香り――けれど、強くはない。
 顔を近づけなければわからないほどの、やわらかな香りだった。
 由香は目を閉じた。

 ――少しで、いいのよ。
 ――香りってね、届きすぎたら、疲れちゃうの。

 母の声が耳の奥で響く。
 そういえば、料理でもそうだった。母はいつもサフランをほんのひとつまみしか使わなかった。
 けれど、炊き上がったご飯は金色に輝き、食卓がふわりと明るくなった。

 その「少し」が、ちゃんと届くこと。
 それが、母の美しさだったのかもしれない。

 由香は立ち上がり、温室のドアを開けた。
 外はもう夕暮れだった。西の空がオレンジ色に染まり、風が冷たく頬を撫でる。
 手帳を取り出して、新しいページを開く。

 ――次の企画、「控えめな美しさ」をテーマに。
 ペンを走らせながら、彼女は微笑んだ。
 派手さではなく、内にある光を描けるものを。
 少しの色で、十分に伝わるものを。

 温室の中で、サフランが風に揺れた。
 花びらの奥で、赤い雌しべが夕陽を受けてかすかに光る。
 それはまるで、「節度の美」という言葉のかたちそのものだった。

 ――過剰ではなく、ほどよく。
 ――静かに、でも確かに。

 その香りが、由香の背中をやさしく押した。
 彼女は再び街へと歩き出す。
 控えめで、けれど確かな想いを胸に抱いて。

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