「アジサイ」

基本情報
- 学名:Hydrangea macrophylla
- 和名:アジサイ(紫陽花)
- 科名 / 属名:アジサイ科 / アジサイ属(ハイドランジア属)
- 原産地:日本(中国や韓国にも自生)
- 開花時期:6月~9月上旬
- 花色:青、紫、ピンク、白など(※土壌のpHによって変化)
アジサイについて

特徴
- 色が変わる花
アジサイの最大の特徴は「土壌の酸性度に応じて花の色が変化する」ことです。- 酸性土:青系の花色
- 中性〜アルカリ性土:赤やピンク系の花色
- 花のように見えるのは「がく」
一般に花だと思われている部分は、実は「装飾花」と呼ばれる「がく」で、真の花はその中央の小さな部分。 - 長く咲き続ける
開花期間が長く、梅雨の雨に濡れてもなお美しく咲き続ける姿が印象的。 - 品種の多さ
日本原産で、世界中に多くの園芸品種があります。ガクアジサイ、西洋アジサイ、アナベルなど種類も豊富。
花言葉:「辛抱強さ」

「辛抱強さ」という花言葉は、以下のようなアジサイの性質や見た目に由来しています。
- 梅雨の雨に耐えながら咲く姿
- アジサイは湿気が多く雨の続く時期にも色鮮やかに咲き続けます。
- 長雨や風にもめげずに咲いている様子が「耐える姿」「辛抱する姿」と重なることから。
- 花の色が変化しつつも美しく咲くこと
- 土壌の変化に適応しながら色を変えて咲き続ける様子が、「柔軟に対応しつつ、変わらず咲き続ける強さ」を象徴しています。
- 土壌の変化に適応しながら色を変えて咲き続ける様子が、「柔軟に対応しつつ、変わらず咲き続ける強さ」を象徴しています。
- 日本の風土と深い結びつき
- 昔から日本の梅雨時に咲く花として親しまれており、その姿に「耐え忍ぶ」美徳を見出したとも言われています。
「紫陽花坂の約束」

坂の途中に、一本のアジサイが咲いている。
毎年、梅雨になると、青や紫、時には赤みがかった色を見せて、人々の目を楽しませてくれるその花は、「紫陽花坂」と呼ばれるこの場所の象徴になっていた。
あの坂には、由紀子と祖母の記憶が染み込んでいる。
小学校低学年の頃、雨の日も風の日も、祖母は由紀子の手を引いて、毎朝あの坂を一緒に登った。小さな長靴でぬかるみに足をとられ、泣きそうになった日もある。だが、祖母はいつもこう言った。

「見てごらん、あのアジサイ。どんな雨でも、ちゃんと咲いてる。咲くのをやめないんだよ。あれは“辛抱強い”ってことなんだ」
意味はよくわからなかったが、アジサイを見上げると、確かに強く、堂々と咲いていた。
それから十年以上が過ぎた。
祖母は数年前に亡くなり、由紀子も高校を卒業して、今は東京の大学に通っている。
梅雨の帰省。久しぶりに実家へ戻ると、あの坂道が目に入った。
見慣れたはずの坂道だが、ふと、足が止まる。
青、紫、淡いピンクが混ざるように咲くアジサイは、昔と変わらない。でも、何かが違って見えた。

スマホを取り出し、何気なく写真を撮ると、祖母の声が頭の奥で蘇った。
「咲くのをやめないんだよ」
祖母の晩年、病室で弱々しい声になっても、「もう少しだけ頑張ってみるわ」と笑った姿が忘れられない。
病気に苦しみながらも、誰よりも人を気遣い、咲き続けようとする強さがあった。
そうだ。
アジサイはただ美しいだけじゃない。
雨の中でも咲く花だからこそ、「辛抱強さ」という花言葉が似合う。
移り変わる空模様に合わせて、自分の色を変えながらも、決して根を張ることをやめない。
祖母も、あの花のように、時に泣き、時に笑いながら、咲き続けていたのだ。

次の日、由紀子は小さなアジサイの苗を買ってきた。
祖母が育てていた庭の片隅にそっと植える。
雨がやみ、雲の切れ間から差す光が、葉に落ちる水滴を照らした。
「ばあちゃん、私もあの坂のアジサイみたいに、咲き続けるね」
その言葉は、空に向かって放った祈りのようだった。
紫陽花坂のアジサイは、今年も変わらず咲いている。
辛抱強く、しなやかに、雨に打たれながらも。