「ハギ」

基本情報
- 分類:マメ科ハギ属(Lespedeza)
- 学名:Lespedeza thunbergii
- 原産地:日本(園芸起源と推定される)
- 草丈:0.5〜2mほど
- 花期:7月〜10月(秋の七草のひとつ)
- 花色:紅紫色、白色など
- 特徴:低木または多年草。枝先に蝶形の花を多数つける。秋風に揺れる姿が古くから歌に詠まれ、万葉集でも最も多く登場する植物。
ハギについて

特徴
- しなやかな枝
細く長い枝が弧を描くようにしだれ、風にそよぐ姿が印象的。枝は折れにくく、しなやかに揺れる。 - 蝶のような花
小さな蝶が群れ飛ぶように見える花を房状につける。華やかではないが、可憐で風情がある。 - 古典との関わり
秋を代表する花として、『万葉集』『古今和歌集』などに数多く詠まれる。「秋=萩」と連想されるほど、日本文化に根付いた植物。
花言葉:「柔軟な精神」

由来
- しなやかな枝ぶり
ハギの枝は細く長く、風に吹かれると大きくしなっても折れない。強風や雨にも耐えつつ、美しく揺れる姿が「柔軟さ」の象徴となった。 - 困難を受け入れる姿
他の花が立ち上がって咲くのに対し、萩は地面近くに枝を垂らすことも多い。まるで「状況に合わせて姿を変える」ようで、人間の精神に例えられた。 - 文化的イメージ
古歌でしばしば「儚さ」「移ろい」とともに「耐え忍ぶ優しさ」を表す花として詠まれてきた。柔軟に時を受け入れる心が「柔軟な精神」という花言葉に結びついている。
「萩の揺れる庭で」

夏の名残りが空気に混じりながらも、風の匂いは確かに秋を知らせていた。祖母の家の庭先で、萩の枝がしなやかに弧を描き、淡い紅紫の花を揺らしている。
「この枝はね、風に吹かれても折れないんだよ」
小さい頃、祖母がそう言って微笑んでいた光景が、ふいに甦る。
私はいま、久しぶりにその庭に立っていた。仕事での失敗をきっかけに自分を追い詰め、何もかもが硬直してしまったように感じていた。東京で過ごす日々は、立ち止まることを許してはくれない。柔軟に対応できない自分を責め、逃げるようにこの古い家に帰ってきたのだった。

風が吹き、萩の枝が大きく揺れる。だが、どれほどしなっても折れることはない。しなやかさの中に秘められた強さ。それは硬さとも頑固さとも違う、別の種類の強靭さだった。
縁側に腰を下ろすと、幼なじみの透が庭先から声をかけてきた。
「帰ってたんだな。仕事、大変だって聞いたけど」
私は苦笑いを返すしかなかった。言い訳をする気にもなれず、ただ目の前の萩を見つめる。
透はしばらく黙って私と同じ方向を眺め、それからぽつりと呟いた。
「昔、祖母さんが言ってたのを覚えてるか? 『萩はな、強さを見せつけたりはしない。でも、風に折れないのは本当に強い証拠なんだ』って」

私は頷いた。確かに覚えている。祖母の声は優しいのに、心の奥に響いて離れなかった。
「俺さ」透が少し照れたように続ける。「硬く構えて、無理に踏ん張るのが強さだと思ってたんだ。でも違った。萩みたいに、揺れても折れずに戻れるのが、本当の意味での強さなんじゃないかって」
その言葉に、胸の奥の氷が少しずつ溶けていくのを感じた。私はいつも「完璧でいなければならない」と思い込んでいた。折れてはいけない、揺らいではいけないと自分を縛りつけていたのだ。けれど、揺れることは決して弱さではない。受け入れながら立ち続けること、それが柔らかくも強い精神なのだ。

夕暮れが近づき、萩の影が長く伸びていく。透と並んで庭を見つめながら、私は静かに息をついた。
「……少し、戻れそうな気がする」
「いいじゃん。ゆっくりでいい」
その瞬間、ひときわ強い風が庭を駆け抜け、萩の枝が大きく波打った。だがやはり折れることはない。揺れながらも、確かにそこに立ち続けていた。
私は心の中で祖母に語りかけた。
――ありがとう。私も、萩のように生きていくよ。
秋の風は少し冷たく、けれどどこまでも優しかった。