「カラー」

基本情報
- 学名:Zantedeschia
- 科名:サトイモ科
- 属名:オランダカイウ属(ザンテデスキア属)
- 原産地:南アフリカ
- 開花時期:5~7月(品種によって異なる)
- 種類:多年草(球根植物)
カラーについて

特徴
- 花のように見える部分:実は花ではなく「苞(ほう)」と呼ばれる葉が変化したもの。中心にある黄色い棒状の部分が本来の花(花序)。
- 形:ラッパ状や漏斗状で、滑らかで光沢のある質感。
- 色:白が最も一般的だが、ピンク、紫、黄色、オレンジなど品種改良により多彩。
- 葉:矢じり形で濃緑、白い斑点が入ることもある。
- 用途:切り花やブーケ、鉢植え、庭植えとして人気が高い。
花言葉:「乙女のしとやかさ」

カラーの花言葉には複数ありますが、その中のひとつが「乙女のしとやかさ」です。
この花言葉の由来は、以下のようなカラーの性質にちなんでいます:
- 優雅で上品な姿:花(苞)はすっとしたラインで、落ち着いた雰囲気を持ち、華やかさの中に静けさを感じさせる。
- 控えめな美しさ:派手ではないが凛とした佇まいが、しとやかな女性を思わせる。
- 白いカラーが特に象徴的:純白のカラーは、無垢さや純真さの象徴ともされ、まさに「乙女らしさ」を体現している。
このように、カラーの気品あふれる姿が「しとやかで控えめな乙女の姿」と重ねられ、この花言葉が生まれたとされています。
「白い苞(ほう)の約束」

駅から少し離れた丘の上、小さな温室の中に、白いカラーが静かに咲いている。
花屋を営む綾子は、毎朝その温室を訪れては、そっと花たちに話しかける。中でも、このカラーには特別な思いを寄せていた。それは、十七歳の春に他界した姉・澪(みお)が、最後に遺した花だったからだ。
「この花、なんだか、すごく綺麗……でも、目立たないね」
病室の窓辺で、姉はそう言って微笑んだ。
「わたし、こんな風に静かに咲ける女の人になりたかったな」

まだ病のことも、未来のことも、語るには早すぎた年頃。けれど、澪の声には確かな覚悟がにじんでいた。綾子はそのとき、何も答えられなかった。ただ、姉の白い指が触れたその花を、記憶に焼きつけた。
それから十年以上が過ぎた。
綾子は花屋を継ぎ、店の一角にはいつも白いカラーが飾られている。お客様に花の意味を問われるたび、彼女は静かにこう答える。
「乙女のしとやかさ、という花言葉なんです。静かで、上品な女性の姿を映しているんですよ」
けれどそれは、綾子自身がなりたかった姿でもあった。

姉のように、凛として、誰かの心にそっと寄り添える人に。
ある日、店に一人の若い女性が現れた。年の頃は十七、八歳。制服姿のまま、緊張した面持ちでカウンターに立った。
「……あの、白いカラーを一本だけ、買えますか?」
綾子は微笑み、花を一本、丁寧に包んだ。
「どなたに贈るのですか?」
その問いに、少女は少し恥ずかしそうにうつむいた。
「……亡くなったお姉ちゃんに。明日が命日なんです。お姉ちゃん、しとやかで優しい人で……この花、似てる気がして」

その言葉に、綾子の胸が静かに震えた。
「きっと喜びますね。その花は、そういう人のために咲いているんです」
少女が帰った後、綾子は温室の中の白いカラーを見つめた。
控えめだけれど、すっと伸びる姿。純白の苞は、まるで大切な想いを包み込むかのようだった。
——いつか、誰かの心に残る花のように、わたしもなれるだろうか。
綾子はそっと、苞に触れた。そのぬくもりは、遠い記憶の中の姉の手のようだった。