「オレンジ色のバラ」

基本情報
- 学名:Rosa
- 和名:バラ(薔薇)
- 科名 / 属名:バラ科 / バラ属
- 原産地:アジア、ヨーロッパ、中近東、北アメリカ、アフリカの一部
- 落葉低木。
- 一般的な開花期:5~6月、秋に返り咲きする品種も多い。
- オレンジ色の品種は、19世紀後半~20世紀にかけて交配により生まれた比較的新しい花色。
- 花色は「黄色 × 赤」の交配による中間色で、暖かさ・活力を象徴する色として人気が高い。
- 切り花・ガーデニングどちらでもよく用いられる。
オレンジ色のバラについて

特徴
- 太陽の光を思わせる明るい色合いで、元気で開放的な印象を与える。
- 花色は品種により、明るいオレンジ、アプリコット寄り、濃い朱色寄りなど幅広い。
- 芳香は品種によって異なるが、フルーティーやスパイシー系の香りを持つものが多い。
- エネルギッシュな色ゆえ、庭のアクセントカラーとしても重宝される。
- 花持ちが比較的よいものが多く、花束にすると存在感が強い。
花言葉:「無邪気」

由来
- オレンジ色は、太陽・光・元気を象徴する暖色で、子どものような明るさや屈託のなさを感じさせることから「無邪気」と結びついた。
- 黄色のバラが「友情・平和」、赤のバラが「愛・情熱」を象徴し、その二つから生まれたオレンジは「愛情の明るい面」「開放的な心」を表す。
- 見た人を自然に笑顔にするような、明るくポジティブな花色が、純粋で素直な感情をイメージさせ「無邪気」という花言葉につながったとされる。
- ほかのオレンジ色の花(マリーゴールド、ガーベラ など)も同様に「元気・明るさ・子どもらしさ」を象徴するため、そのイメージがバラにも反映された。
「オレンジ色の約束」

放課後の校庭には、まだ昼の名残のような明るさが漂っていた。夏の始まりの空気は少し熱を帯びていて、風が吹くたびに木々の葉がきらきらと揺れた。
花壇の前でしゃがみこんでいる少女・花奈は、そっと手を伸ばし、オレンジ色のバラの花びらを指先でなぞった。夕陽の光を受けて、花びらは柔らかく輝いている。
「……ほんとに、無邪気って感じだなぁ」
思わずつぶやくと、背後から声がした。
「誰のこと?」
驚いて振り向くと、クラスメイトの悠斗が立っていた。彼は汗に濡れた額を手で払いながら、にっと笑う。部活帰りらしい。
「花のことだよ。ほら、見て。オレンジ色のバラ」

花奈が指さすと、悠斗も花壇にしゃがみ込み、バラに顔を近づけた。
「へぇ、きれいだな。バラって赤とかピンクのイメージだけど……こういう色もあるんだ」
花奈は小さくうなずく。
「オレンジ色は太陽とか光とか、元気を象徴する色なんだって。見てるだけで、なんか気持ちが明るくなるでしょ?」
悠斗はじっと花を見つめたまま、ふっと笑った。
「たしかに。……お前みたいだ」
「え?」
唐突な言葉に、花奈の心臓が一瞬止まる。悠斗は慌てた様子もなく、さらりと言葉を続けた。
「いや、ほら。お前ってさ、いつも誰かのこと気づかってるし、気づいたらすぐ笑うじゃん。そういうとこ、なんか無邪気っていうか……太陽みたいっていうか」
言われた本人は、どう返していいのかわからず、視線を花に落とした。オレンジ色の花びらが、ますます鮮やかに目に映る。
「……このバラ、花言葉が“無邪気”なんだって」
「そうなのか?」

「うん。黄色のバラが“友情”、赤のバラが“愛”。そのふたつを合わせた色がオレンジで、“愛情の明るい面”とか、開放的な心って意味もあるんだってさ」
「へぇ……なんか、いいな、それ」
悠斗が花に触れず、そっと近くに顔を寄せた。花奈はその横顔を横目に見て、胸の奥がちくりと疼くのを感じた。
「見てると笑顔になるんだよね。この色」
「たしかに。なんか……元気になる」
短い沈黙が流れた。蝉の声が遠くで響き、風が二人の間を通り抜ける。
やがて花奈が勇気を振り絞るように、かすかに口を開いた。
「ねぇ、悠斗。このバラ……もっとたくさん咲かせたいんだ」

「たくさん?」
「うん。来年も、その次の年も……ずっと。ここに来るたび、明るい気持ちになれるように」
悠斗は目を細め、少しだけ花奈の顔を見た。
「じゃあ、手伝うよ。俺も、こういうの好きかも」
胸の奥が、ぱっと明るくなった。夕陽の中で、オレンジ色の花が二人の間にひっそりと咲いている。
「ありがと。じゃあ……約束ね」
手を差し出すと、悠斗は少し照れたように笑って、それを握り返した。温かい手だった。
オレンジ色のバラは、光を受けて静かに揺れる。無邪気な色――誰かの心を自然と晴れさせる色。
その花が、今日交わした小さな約束を、きっと来年も、再来年も、変わらない鮮やかさで見守ってくれる気がした。