「シネラリア」

基本情報
- 別名:サイネリア、フキザクラ(富貴桜)
- 科名:キク科
- 属名:ペリカリス属(旧セネシオ属)
- 学名:Pericallis × hybrida
- 分類:多年草(園芸では一年草扱いが多い)
- 原産地:カナリア諸島
- 開花時期:11月〜5月(冬〜早春)
- 花色:青・紫・ピンク・赤・白・複色など非常に多彩
- 名前の由来:旧属名「Senecio(セネシオ)」がもとで「シネラリア」と呼ばれるようになった
シネラリアについて

特徴
- 花びらの色がとても鮮やかで、中心の“目”のような部分がくっきりしている。
- 冬から春にかけて咲くため、寒い季節の室内を明るく彩る花として人気が高い。
- 一株にたくさんの花をつけ、満開時は花のクッションのように見える。
- 冷涼な気候を好み、暑さには弱い。
- カラーバリエーションが豊富で、花壇・鉢植え・贈り物など幅広く使われる。
- 日光が好きだが、直射日光にはやや弱いため半日陰が適している。
花言葉:「いつも快活」

由来
- シネラリアは冬から早春の寒い時期に、鮮烈な色で明るく咲く花。
→ 冬の室内や庭を明るく照らす姿が、「元気」「快活さ」を連想させた。 - 一株いっぱいに咲き広がる華やかな花姿が、
→ “いつも明るい笑顔を絶やさない人”
を思わせるため。 - 色彩豊かでポジティブな印象が強いことから、
**「いつも快活」「元気を出して」「喜び」**などの花言葉がつけられた。
「冬の色、君の声」

冬の朝は、窓ガラスの向こう側が少しだけ遠く感じられる。
外気の冷たさが、まるで世界そのものを薄い氷の膜で覆ってしまったようで、触れれば壊れてしまうような静けさが漂っていた。
そんな朝でも、凪沙(なぎさ)の部屋にはひとつだけ、季節に逆らう色がある。
机の隅に置かれた鉢植えのシネラリア。紫や青、ピンクが重なり合い、まるで春が少しだけ迷い込んだかのように鮮やかだった。
「……ほんと、強いなぁ。君は」
凪沙はカーテンを開けながら、小さく呟いた。
最近、彼女は笑うことが減っていた。理由は単純だ。
大切な友人・瑛斗(えいと)が遠い町へ引っ越したからだ。

瑛斗はいつも明るい人だった。
どんなに落ち込んでいても、彼の前ではなぜか笑ってしまった。
からかうように覗き込んでくる顔も、ふざけて肩を突いてくる仕草も、冬の朝を照らすような温度を持っていた。
――あんた、笑ったほうが似合うって。
最後の日に瑛斗が言ったその言葉が、凪沙の胸の奥でまだ消えずにいる。
その朝、凪沙はふと気づいた。
シネラリアの花が、一段と鮮やかになっている。
「……水、あげたっけ?」
昨日の夜、帰宅してすぐ寝てしまった気がする。
でも花は元気に咲き誇っている。
凪沙は少し不思議な気持ちで葉を撫でた。

その瞬間、ポケットの中でスマホが震えた。
画面に表示された名前を見て、凪沙は息をのみ、小さく笑った。
瑛斗からだった。
――『そっち雪降ってる? こっちはめっちゃ晴れてる。なんか悔しい』
くだらない一文。
でも、それだけで胸が少し軽くなる。
――『シネラリア、まだ咲いてる? あれ、絶対凪沙に似合うと思ったんだよな。冬でも元気で、なんか可愛いし』
思わず頬が熱くなった。
あの日、瑛斗が凪沙の誕生日にくれたのが、このシネラリアだ。
「いつも快活」
それが花言葉だと教えてくれた。
「お前さ、落ち込んだら顔に出るタイプだろ。でもさ」
「冬みたいな日でも、絶対また笑うと思うんだよ」
その言葉を聞いたとき、凪沙は一度だけ泣きそうになった。
でも瑛斗は見て見ぬふりをして、ただいつもの調子で花を渡してきた。
凪沙はスマホを握りしめ、シネラリアに目を向けた。
先ほどよりも、さらに鮮やかに見える。
まるで「ほら、元気出せよ」と背中を押してくれているようだった。
――『今日、学校の帰りに少し話さない? 電話でもいいけど』
瑛斗のメッセージが続けて届く。

凪沙は笑ってしまった。
彼は相変わらずだ。
遠くにいても、冬でも、姿が見えなくても。
その存在は、いつだって凪沙の心を温めてくれる。
「……うん。話したいよ」
そう打ち込み、送信ボタンを押した。
窓の外では雪が静かに降り始めていた。
白い世界の中で、シネラリアだけが春を先取りするように明るい。
その色に照らされるように、凪沙の表情も少しだけほころんだ。
瑛斗がいなくても、冬は寂しいだけの季節じゃない。
鮮やかな色は思いがけず心を照らし、
その色は、あの日もらった言葉と同じ温度で胸に触れる。
――冬に咲く花は、強いんだよ。
瑛斗が言ったその言葉を思い出しながら、凪沙はそっとシネラリアの花に触れた。
そして、静かに微笑んだ。
「私も、もう少し頑張ってみるね」