「コチョウラン」

基本情報
- 用途:鉢植え、贈答用、室内観賞
- 学名:Phalaenopsis
- 科名/属名:ラン科/ファレノプシス属
- 分類:多年草(常緑性の着生ラン)
- 原産地:台湾、フィリピン、インドネシア、マレーシアなど
- 開花時期:不定期(春から夏に比較的多く開花)
- 草丈:30〜70cm程度
コチョウランについて

特徴
- 蝶が舞うように見える大輪の花を、花茎に連なって咲かせる
- 花もちが非常によく、1〜3か月以上美しさを保つ
- 香りは控えめで、室内に飾りやすい
- 直射日光を避けた明るい場所を好み、室内管理に適する
- 高級感があり、開店祝いや慶事の贈り花として定番
花言葉:「純粋な愛」

由来
- 透き通るように整った花姿が、混じり気のない想いを連想させる
- 長期間変わらぬ美しさが、一途で揺るがない愛情を象徴
- 優雅で穏やかな佇まいが、見返りを求めない無垢な愛に重ねられた
「白い蝶の約束」

病室の窓辺に置かれたコチョウランは、朝の光を受けて静かに咲いていた。白い花弁は曇りなく、まるで何も疑わない心そのもののように整っている。香りはほとんどないのに、そこに在るだけで空気が澄む気がした。
美羽は椅子に腰掛け、点滴の音を聞きながら、その花を見つめていた。見舞いに来るたび、言葉より先に目に入るのがこの花だ。彼が置いていったもの。理由を説明するメモも、期待を匂わせる言葉も、何も残さずに。

出会った頃、彼は多くを語らなかった。代わりに、必要なときにだけ、必要なことをしてくれた。雨の日に差し出された傘、忙しい夜に届く短い一文。「無理しないで」。それだけで十分だった。美羽は、その距離感が心地よかった。
治療が始まり、生活は一変した。先の見えない不安に、心が尖る日もある。それでも彼は、以前と同じ調子で病室を訪れ、窓を少し開け、花の向きを整えた。変わらない態度は、励ましの言葉よりも確かだった。長く美しさを保つコチョウランのように、彼の想いは揺れなかった。

「どうして、これを選んだの?」と、美羽は一度だけ尋ねたことがある。
彼は少し考えてから言った。「きれいだから。それだけ」
理由はそれ以上でも以下でもない。見返りを求めない選択。美羽はその潔さに、胸が熱くなった。
日々が過ぎ、花は相変わらず咲き続ける。枯れる気配すら見せない。世話は看護師がしてくれているが、彼が来ると、必ず一輪ずつを確かめる。触れない。直さない。見守るだけ。透き通る花姿は、手を加えなくても、すでに完成されている。
ある午後、検査結果が出た。良好だった。医師の言葉は簡潔で、未来はまだ白紙だと言った。それでも、美羽の胸に小さな光が灯る。病室に戻ると、コチョウランの白がいっそう明るく見えた。

「ねえ」と美羽は、彼に向かって言った。「この花、蝶みたい」
彼は笑って頷いた。「飛び立つ準備、できた?」
その問いに、答えはすぐに出なかった。けれど、恐れはなかった。純粋な愛は、背中を押す。縛らない。そばに在り続けるだけで、前へ進む力をくれる。
夕方、彼は用事があると言って先に帰った。美羽は一人、窓辺に近づく。白い蝶は、今日も変わらぬ姿で咲いている。長く、静かに、美しく。見返りを求めない想いが、そこにある。
美羽は小さく息を吸い、吐いた。自分もまた、誰かをそうやって想えるだろうか。条件も、計算もなく。答えは、花の白に溶けていった。
コチョウランは何も語らない。ただ、純粋な愛のかたちを、今日も揺るがず示していた。